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日常性と一続きの高度な芸術:文化のひとつの理想的なあり方としての教会文化について (2018年12月1日のアドヴェント・コンサートに寄せて)

 教会の暦では,今日はアドヴェント (待降節) に入る直前に当たります。3年前のこの日 (2018年12月1日),聖書朗読とオルガン演奏を組み合わせたささやかなアドヴェント・コンサートを開きました。これはそのお知らせのためにもとはドイツ語で書いた文章ですが,私の思うキリスト教文化の面白さをよく述べることができていると思いますので,このたび日本語でも発表したいと思います。


 音大にまで行って勉強した身であるにもかかわらず,私にとって音楽はそれ自体としてはさほど重要なものではありません。しかし,教会の典礼と,長い時間をかけてその上に築き上げられてきた文化とに対しては,たいへん大きな関心を抱いています。

 典礼暦 (教会暦) は,個々の季節さらには個々の日々を,さまざまなテーマで彩るものです。それらのテーマは,興味深いことを,美しいことを,慰めを,癒しを,いや生きるために欠くことのできない何かを告げ知らせようとしています。そして,教会の典礼はその超自然的性格にもかかわらず,あくまで日常のもの,誰に対しても開かれているものですから,わたしたちはこれに与ることで,日常の中にありながらそれらのさまざまなテーマに親しむことができるようになっているのです。

 なんといっても素晴らしいのは,この日常性ある典礼文化が,高度な芸術が築き上げられるための土台ともなってきたという事実であると思います。美術館に行くと,私はキリスト教絵画を特に好んで見るのですが,それはテーマが自分に馴染みのものだからです。言いかえると,それらの絵はわたしたちが日常的に祝っている典礼と関係のあるものであり,そうであることによって,わたしたち自身の文化的生活を比較的直接豊かにしてくれるのです。わたしたちの日常を彩っているものを土台とする高度な芸術,ここに私は,文化というもののひとつの理想的なあり方を見ます。その「土台」あるいは「高度な芸術」が伝えるものが何かしら善いものであれば,なおさらです。

 これと同じ理想的状況を,およそ1000年前から次から次へと作曲されてきた,教会の典礼歌 (およびその他の讃美歌) をもとにした諸作品にも見ることができます。特に,ドイツ語聖歌をもとにした諸作品においてその感は著しいといえるでしょう。ドイツ語聖歌は今に至るまで,民衆によって歌われてきたものだからです。この分野における最大の巨匠はヨハン・ゼバスティアン・バッハです。彼が書いた数多くのカンタータ,受難曲,オルガン曲などが,彼のいた教会で歌われていた聖歌をもとにしています。今回のコンサートでもそのいくつかをお聴かせする予定です。〔中略〕

 バッハのカンタータや受難曲は私に,ある歌 (ある歌のある節) が特定の具体的な文脈に置かれることによってどのように新しい意味を獲得するか,そしてそれがいかに強い印象を与えうるかということを教えてくれました。例えば,マタイ受難曲の第1楽章を初めて聴いたとき,その中でAgnus Deiの歌 "O Lamm Gottes, unschuldig" がどのように響いたことか,あの衝撃を忘れることはできません。それゆえ私は教会オルガニストとして,ミサのために聖歌を選ぶにあたり,極力いつもそれぞれのミサが持っているメッセージに合うもの〔註:あるいは,そのメッセージとの組み合わせによって何らかの深い意味が生じるもの〕を探し出すように努めています。

 冒頭あのようなことを書きましたが,このような関心があるおかげで,私も結局は喜んで音楽の仕事に携わることができますし喜んでオルガンを弾くことができます。しかしあくまでこのような関心からです。そういうわけで,今回の私の小さなオルガン・コンサートも,それに応じた形のものにしたいと思っています。つまり,3つのアドヴェント的な情景あるいはテーマを取り上げ,主に聖歌に基づいたオルガン即興演奏,聖書朗読そしてJ. S. バッハの名曲によってそれらを味わいたいと思います。こうすることで,音楽は具体的なアドヴェント的文脈の中に位置づけられて響き,私たちの黙想を助けるものとなるのです。これら3つの情景/テーマは,わたしたちに「よき (好ましい) アドヴェントを (den lieben Advent)」告げ知らせるあの歌〔註:"Wir sagen euch an den lieben Advent" のこと。日本語版は『讃美歌21』第242番「主を待ち望むアドヴェント」〕による変奏によって区切られます。

 このささやかなコンサートにより,気分をアドヴェント仕様に整え,ともにこの (私が最も好きな) 季節を迎えることができましたら――また,クリスマスとは異なる (!) この季節固有の美しさを再発見することができましたら,幸いに思います。

 (2018年11月28日)


 なお,コンサートのプログラムは次のようなものでした。

前奏:"Wir sagen euch an den lieben Advent" (静かにゆっくりと)

第1部:お告げ (受胎告知)
"Veni Redemptor gentium" による単純な即興演奏を背景に,ルカ1:26-38 (たしか一部省略) 朗読
● J. S. Bach, "Nun komm, der Heiden Heiland" BWV 659

間奏:"Wir sagen euch an den lieben Advent" (Trio,快速に)

第2部:訪問 (マリアのエリザベト訪問)
● "Jesu, meiner Seelen Wonne" による単純な即興演奏を背景に,ルカ1:39-朗読 (マリアの讃歌〔マニフィカト〕まで含めたかどうかは覚えていない)
● J. S. Bach, "Wohl mir, dass ich Jesum habe" (BWV 147/6) オルガン編曲版

間奏:"Wir sagen euch an den lieben Advent" (短調)

第3部:待望 (救いを待ち望む民)
"Rorate caeli desuper" (入祭唱のほうではなく,17世紀にできた単純なほうの旋律)"O Heiland, reiß die Himmel auf" とを組み合わせた即興演奏
● (切れ目なしに) "Kündet allen in der Not" による即興演奏 (途中から "Tochter Zion, freue dich" も入る)。音量の小さい部分でイザヤ40:1-11朗読
● J. S. Bach, "Wachet auf, ruft uns die Stimme" (BWV 645)

後奏:"Wir sagen euch an den lieben Advent" (録音はこちら)


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