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貴嶋先生の静かな世界の感想

森博嗣作のこの本を手に取ったのは、堀元見というインターネットで活躍をしているブロガーの方の動画の中で、森博嗣について語っていたところからだった。書店に行って森氏がミステリー作家だと知ったが、ミステリーを読む気分でなかったので、この本にしてみた。それでは読んだ感想に移りたいと思う。


ここからネタバレあり


自分の共感したシーンについて書いていきたい。
それは櫻井さんという同じ研究室の大学院生のあるシーンだ。彼女が周囲に対して、壁を作ってしまうというところだ。小説の書かせの壁というと、コミュニケーションがうまくいかない人の話や、変わった性格の人などそもそも周囲に対して溶け込めないような属性のことを指すような設定が多い。しかし櫻井さんはそういうような人ではなく、どういうわけか自然と壁ができているのだ。
この本の中での一番共感したのは現実の中でもこのタイプの人が非常に多いからだ。僕自身もよく感じるような状況である。周囲に変な人や、変であることを隠そうとする人はあまりいない。実際にはもっと複雑で言語化不能のもののようなので、小説だと言語化するために特異な人になっているような気がする。学校ではうまいことふるまうけれど、特に外で遊ぶための要員にはならない。そんなぐらいの壁が常にあるのだ。この壁についてのページでは、「そうそう、これまじであるんだよ~」なんて一人で行っていた。完全に独り言だった。


ほかに印象に残ったのは最後の貴嶋先生についてのことだ。最後数ページであんなに考えることのできる小説はなかなかないと思う。先生だけはあの静かな世界だ研究していてほしい、というセリフにこの小説の良さが出ている。貴嶋先生は小説を読んでいくうちにどんどん惹かれていく存在だ。研究に自分の人生の価値を見出し、決して研究以外の現実的なことをしているような姿が浮かばないような存在である貴嶋先生を的確にあらわしているセリフだ。


小説全体を通して感じるのは、研究者としての美しいあり方、本の中で語られる王道についてだ。理系の人も文系の人も楽しく読めるし、本当の意味で自分の研究者を目指すうえでの人生に影響を与えるような名言がいくつも出てくるので、ぜひ本屋で手に取ってほしい。


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