Effectuationで企業の新規事業立ち上げ
こんにちは、広瀬です。今回はEffectuationの理論が、本当に企業の新規事業立ち上げに使えるのかについて述べてみたいと思います。前回までのストーリーは、どちらかと言うと個人の独立・起業の話に偏っていたかもしれませんが、今回の話は私が以前、新規事業の立ち上げや新組織立ち上げの時のことを思い出しながら100%企業担当者の目線でまとめたつもりです。
結論
自社のみで立ち上げる
新規事業はEffectuation方式が可能。
合弁で立ち上げる
初期段階はEffectuation方式が可能、その後はCausation方式(厳密なプロジェクト形式)に移行。
詳しくは、本文をご参照ください。
前回のストーリー
CausationとEffectuationの見極め
Effectuationは全ての起業や新規事業の立ち上げに使用できるわけではない、と言うお話は以下の記事で説明しました。
ここでは、以下のような図を用いて大規模事業はCausation、小規模事業はEffecuationと述べました。今回はこの図を別の観点から見ていこうと思います。
先ずはおさらいになりますが、この図が示す内容を以下に示します。Pivot、Co-Create、Plan、Persistの言葉の定義とお考えください。前回よりも加筆してあります。(矢印の動き)
新規事業の予想図が見えない
・自分で将来をコントロールできない
‐ Pivot:色々試そうとしている段階
軸足が定まっていない
‐ Pivot → Co-Create → Plan or Persist
‐ Pivot → Plan → Persist
・自分で将来をコントロールできる
‐ Co-Create:仲間との共創が可能
自分でコントロールできる
‐ Co-Create → Plan or Persist新規事業の予想図が見える
・自分で将来をコントロールできない
‐ Plan:既にプランが決まっている
自分でコントロールできない
‐ Plan → Plan or Persist
・自分で将来をコントロールできる
‐ Persist:事業の先が見通せる
自分でコントロールできる
‐ Plan or Co-Create → Persist → Plan or
Co-Crete → Persist
矢印は、今いるマスから次にどのマスに移動するかを示したものです。Co-Createが必ずしも終着のマスではなく、Co-Createで始めた新規事業が次第に成熟してPlanに移行することもあります。また、Planのマスで行っていた事業にさらに新しい事業を追加する時、再度Co-Createのマスに戻り試行錯誤することもあります。この4つのマスは、その時の立ち位置を示すだけで、そのマスに立ち位置を固定するものではないと考えてください。
上記のマトリックスでEffectuation理論が使えるのは、Co-Createのマスで、今は新規事業の予想図は見えないけど、自分で将来をコントロールでき、さらに仲間同士で色々と共創や方針決定ができる事業内容のものです。Planのマスはやるべきことが決まっていて、新規事業の予想図が見えているもの、さらに新規事業実現までのプロセスが決められていて、自分で勝手に手を加えられない事業内容なのでCausationとなります。
新規事業立ち上げは自社 or 合弁事業?
さて、Causation/Effectuationマトリックスの内容を再度ご理解いただいたところで、このマトリックスを新規事業を立ち上げる組織と、立ち上げまでの運営方法と言う視点で見てみたいと思います。
新規事業を立ち上げる時は大きく2つ、自社のみで立ち上げる場合と、相乗効果をもたらす企業同士が合弁で立ち上げる場合があると思います。また、立ち上げまでの運営方法を考えるとこれも大きく2つ、立ち上げまでの一連のプロセスをプロジェクト形式で運営する方法と、それほど大きな事業ではないので、先ずは数人でと言うような非プロジェクト形式で運営する方法です。この様に考え、Causation/Effectuationマトリックスと同様に作業内容をザックリとまとめたものを以下に示します。
自社のみで立ち上げる
・非プロジェクト形式(Co-Create)
‐ 新規事業の可能性は感じるが
予想図がまだ見えていない
‐ Effectuation Business Modeling Method
自社のBird-in-Hand棚卸し
Effectuation Business Canvas作成
‐ Crazy Quiltで検討/修正
‐ 今できる所から事業立ち上げ
・プロジェクト形式(Plan)
‐ 新規事業の予想図が見えている
‐ 事業企画、市場調査、事業計画、
事業戦略、プロジェクト管理による
事業立ち上げ合弁で立ち上げる
・非プロジェクト形式(Co-Create)
‐ 合弁の可能性は感じるが
予想図がまだ見えていない
‐ プロジェクト結成前の新規事業の
Bird-in-Hand相互確認、
Feasibility Study、Ideation、
要件分析等の初期段階の
超上流工程
・Co-CreateからPlanへ移行
‐ 超上流工程終了後プロジェクト化
・プロジェクト形式(Plan)
‐ 合弁の予想図が見えている
‐ 事業企画、市場調査、事業計画、
事業戦略、企業連携プロジェクト管理
による事業立ち上げ
このように見ると、非プロジェクト形式で新規事業立ち上げに取り掛かってもEffectuation理論が使えそうであることが見えてきます。
新規事業担当者の心の声
ご担当の方々はこんなご経験はありませんか? 私は経営コンサルタント時代によくクライアントの社長に質問されたことがあります。当時はEffectuationを知りませんでしたので、「→」の表現は私が直感的に感じた内容です。
〇〇の様なこと始めると面白いんじゃないか?
→ 思いつきで物を言わないで欲しい!
〇〇って何?我が社も何か新しいことをやろう!
君、何がいいか考えてくれ!
→ 社長は何かアイデア持ってないんですか?全社員向けに新規事業発案の社内公募を開始!
→ とんでもないアイデアが採用されたらどうするんだ!
上記のような指示で、新規事業の予想図がまだ見えていない状態で立ち上げることになった方は、是非Effectuation方式で考えてみてください。
自社のみで立ち上げる
自社でEffectuationの理論に従って新規事業を立ち上げると、どの様な感じになるのか、上記の箇条書きの行間を補ってみたいと思います。
先ずは1~2人のチームを作りEffectuation Business Modeling Methodに従い、自社のBird-in-Handを考えEBCを作ります。この時に、想定する新規事業は想定製品/サービスに記入し想定できない場合は空欄のままでOKです。想定できない場合は最後のWhat can I doが教えてくれます。製品/サービス知識は自社が持っている資格(ISMS、Pマーク、CMMI、ISO関連等)や得意とする業界/業種、社員の国家試験合格者内訳やベンダー試験合格者内訳等を書いておくと自社の知識レベルの見える化になります。主なパートナーに関しては日頃現場の方々がお世話になっているパートナー企業以外に、現在取引はないけど経営層の方々が懇意にしている企業を加えておくと面白い展開を考えられるかもしれません。なお、Affordable Lossは新規事業立ち上げの必要経費(初期投資)とランニング・コストくらいはザックリと試算しておきたいところです。銀行から融資を受けるための事業計画書の様な厳密さは必要ありませんが、どこにどの位の費用が毎月かかるのかくらいは押さえておきたいところです。
一通り書き終わったら締めはWhat can I do?です。EBCとAffordable Lossのレビューの流れに従い、これから始めようとしている新規事業をレビューしてみてください。自社の強み、弱み、隠れた才能(企業の場合は可能性)が見えてくるはずです。それが見えれば、想定している新規事業が実現可能なのか否かも見えてくる筈です。なお、EBCとAffordable Lossのレビューは以下の記事を参照してください。
レビューした結果、なんとかなりそうと判断できたら、次は自分の上司や周りの人達を巻き込んだCrazy Quiltでワイワイガヤガヤやりましょう。ここで関係者の合意が取れたとしても、じゃ~今回はここからここまでを新規事業として取り組もう、と言う感じになるのではないでしょうか? Think Big, Start Small, そしてLemonadeの原則に従いLearn Fastが大事だと思います。
この後は、想定製品/サービスの開発に入ります。物理的なモノ(ソフトウェアも含む)の場合は作成部隊に依頼して、彼らが今できることをやってもらうと良いと思います。目に見えないサービスであれば、何をどの様な順番で顧客に提供するか(サービス提供プロセス)を考案することになります。またサービスの場合は人によってサービスレベルにバラツキが生じやすいので、サービス提供者間での意思統一や事前訓練をしておくと良いでしょう。
新規事業立ち上げ担当者の方の仕事はここで終わりではありません。担当者の方は新規事業と言うプロダクトの責任者ですから、プロダクトマネージャーとしての仕事がまだまだたくさんあります。Effectruationな方法で事業立ち上げを行っていますので、プロダクトマネジメントに関しても関わり方が教科書通りには行きませんが、ここは臨機応変に考えて対応をお願いします。この記事ではプロダクトマネジメントまでは言及しませんので、プロダクトマネジメントのご経験がない方は以下の書籍が参考になると思います。著者の及川氏は昔の外資コンピュータベンダー時代の後輩同僚です。
想定製品/サービスができるまでは、主なパートナーとなる企業に秘密保持契約を締結した後の事前告知と今後の商流や情報の流れの整備、社内営業部隊に対する事前告知と販売方法の提案、マーケティング部隊に対する社外告知と宣伝の依頼、などなどプロダクトマネージャーの方々の仕事は尽きません。さらにさらに、立ち上げた事業に対し顧客がどう反応しているのか、どの様な不満を持っているのか、これらの情報を集めるのはカスタマー・サービスかもしれませんが、細かい分析はプロダクトマネージャーの役目です。分析の結果、どう改善するか、いつ製品/サービスを終了するかその判定基準をどうするか、考えるときりがありません。
いかがでしょうか?
新規事業の予想図がはっきりと見えない時にはEffectuation理論が役立つと思いませんか? 私は以前Causation方式で新規事業(主にサービス事業)をいくつも立ち上げてきた経験があります。私が立ち上げた新規事業は、初めからかなり予想図がはっきりしていましたのでCausation方式が最適だったのかもしれません。しかし、当時Effectuationを知っていたらもっと簡単に短時間に事業立ち上げができたと思う次第です。今思うと、新規事業の予想図がある程度見えていても、関係者のBird-in-Handが十分に新規事業を立ち上げる要素を持っていれば、Effectuation方式で新規事業は立ち上げられるのかもしれません。
合弁で立ち上げる
では次に他社と協力して新規事業を立ち上げるケースを考えてみたいと思います。ここでは話が分かりやすいように2社の合弁で考えます。このケースを押さえておけば、3社合弁でもそれ以上でもやり方は変わらないと思いますが、集まる会社が多くなればなるほど新規事業の規模も大きくなると思いますので、Effectuationには不向きかもしれません。
まずは2社合弁を考える時、偶然出会った会社同士が合弁で事業を立ち上げるわけがなく、経営者同士何らかのつながりと思惑があるはずです。また、思惑が一致しお互いに合弁で何かやってみようと思っても、いきなりマーケット・リサーチや各種企画書・計画書・売上目標・要件定義等の作業には入らないと思います。なにしろ、新規事業の予想図がみえていませんし、何ができて何が期待できるのかさえ分かっていませんから。やはり合弁で事業を立ち上げる時も不確定要素が多く、何をどう判断すれば良いか悩みどころ満載です。そんな時はやはりEffectuationの考えが役に立ちそうです。元々Effectuation理論の定義はDecision Making under Uncertaintyですから。
先ずは両社から1~2名の人をそれぞれアサインしてもらい、Effectuation Business Modeling Methodで両社のBird-in-Handの棚卸しから作業を開始してみてはいかがでしょうか? 両社のEBCが出来上がって突き合わせをすれば、両社の強み、弱み、隠れた才能(企業の場合は可能性)が見えてくるので、それが見えれば、想定している新規事業が実現可能なのか否かも見えてくる筈です。この可能性は両社経営者の思惑と一致しているのか否か、一致していない場合は次のCrazy Quiltの課題として、一致していればFeasibility Study、想定製品/サービスの深掘り(Ideation)を両社の担当者でやってみると良いと思います。この後は両社の上司や関係者を巻き込んだCrazy Quiltでワイワイガヤガヤ意見交換や少し具体的な話し合いを行うと良いでしょう。ここで合意が取れたら、次は各社合弁事業の要件分析(要件定義前の、何を行うか、そのために何が必要か、それをどの様に調達するか等)を行います。ここまでは各社がそれぞれEffectuation方式で動けると思いますが、次のステップの要件定義で2つの要件分析を一つにまとめ、2社が目標に向かって走れるように厳密なプロジェクト管理のもとで動き出した方が統制が取れるのでプロジェクト管理チームにバトンタッチです。
いかがでしょうか?
私は合弁事業の立ち上げも経験しておりますが、残念ながらEffectuation方式の経験はありません。しかし、Bird-in-Handの棚卸しとEBCの作成で、2社の合弁事業の可能性を探り要件分析まではEffectuationで十分できると思います。また、EBCの分析結果で合弁事業が破棄されても両社はお互いにBird-in-Handの中での仕事になりますので、Affordable Lossも大したことはないでしょう。
まとめ
冒頭の結論で示したように、Effectuationは自社のみで立ち上げる新規事業と、合弁で立ち上げる新規事業の初期段階で使用できると説明しました。しかし、経営層の方々もEffectuationを理解している必要があるでしょう。理由は2つあります。
厳密なプロジェクト管理の場合は、指揮命令体制、各担当者の役割、および経営層の関わり方が明確に定義されますが、Effectuatinの場合は少し曖昧だからです。進捗報告もメモ書き程度かもしれませんので、報告を受けた時に経営者の方々はストレスを感じるかもしれません。
今迄はプロジェクト開始前に必ずマーケット・リサーチがあり、新規事業の可能性や競合情報が手元にあり、自分たちが目標達成するために有利な方向に進路を定めていましたが、Effectuationの場合はBird-in-Handから始まりますので、経営層が想定している目標が達成できるかどうか判断しにくいかもしれません。
Effectuationは自分たちが今できる手段や知識や経験をベースに、将来予想図がはっきり見えない新規事業を立ち上げる時に役立つ理論です(Think Big, Start Small, Learn Fast)。AmazonやAppleは一夜にしてGAFAの仲間入りを果たしたわけではなく、初めは小さくできることから始めています。
Amazonのジェフ・ベゾスはECビジネスを思いついてAmazonを立ち上げようとした時、当初から本のみならず家電・家具・アパレル・食品等、大手スーパーマーケットのウォールマートで扱っているものは全て扱おうと言うアイデアを持っていました。しかし始まりは書籍だけで、ジェフ・ベゾスも立ち上げ当初は注文を受けた書籍の箱詰めをしていました。そして時が経ち、今は世界を代表するIT企業でもありEC企業でもあります。
Appleのスティーブ・ジョブズも自宅のガレージでビジネスを始め、当初は営業マンであったことはよく知られていると思います。
Effectuationのみで全ての新規事業を立ち上げることは難しいと思いますが、世界の優れた起業家はEffectuationの理論で起業しています。日本の経営層の方々の理解が進み、Effectuationの考えが新規事業立ち上げの一つの選択肢になることを願っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?