情報の民主化とテレビCMの衰退
きょうは、たまりにたまった仕事のうっぷんを、論理立てて書いてみよう。長い長い愚痴になるだろう。まあ、ビールでも飲みながら聞いとくれ。
カ⚪︎リーメイトはCMで受験生を応援している。「だから買っている」というひとが少なからずおる。サ⚪︎トリーのB⚪︎SSは働くひとの味方をしてる。「だから買っちゃう」というひともまだまだおる。だが最近、それら企業の商品に込めた思いを、バカ正直に受け止めて買う人は減ってきている、と思う。
これら「企業が商品に込めた思い」とやらは、ピュアで清らかな願いでもなんでもなく、売るために練り出された「企業が商品に込めた狙い」であることがほとんどだ。売るために作り出された、ただの「戦略」でしかない。そこがもう見透かされる時代になったんだと思う。
今更いうことではないが、カ⚪︎リーメイトは、受験生を応援するクッキーではなく、受験生に売れそうだからターゲットにしているだけである。この「売れそなひとはターゲット」は売る側から見たらしょうがないんだけど、これに踊らされて買っちゃう消費者も、あまりにも純朴設定。まあ、子どもをダシにされたら親はちょろい。だがね。でも、そんな親バカの皆さん、ちょっと立ち止まって考えてほしい。カ⚪︎リーメイトはそもそも受験生のためにつくられた商品だと思うかね。
例えば、受験生のことを応援するクッキーをゼロから本気でつくろうとするとしよう。たぶん小麦粉は、消化吸収のよい全粒粉が選ばれる。甘みは血糖値の上昇が緩やかなメープルシロップを採用し、集中力を高めるのにダークチョコレートを入れたりする。そして、無論、極力保存料や添加物などは使わない。たぶん手間さえ惜しまなければ、カロリーメイトより受験生にいいもんはあなたにもつくれちゃうと思う。というか、何より80年代に生まれた商品だ。もっといいもんが世の中に溢れてるはず。
この商品へこめた「物語」を、みんなが付加価値として買ってきたわけだ。でも、一枚皮を剥げば「ターゲットが喜びそうなつくり話」でしかない。B⚪︎SSもそうだよね。コーヒーが日本の働き方を語るなんておこがましい。他メーカーとの差別化そこまでできてるかね。クラフトB⚪︎SSがゴクゴクのめる?それ大きな差別化ではないでしょ、というとまた怒られるか。
企業側の立場に立つと「そうはいうけどモノが飽和してる時代で差別化って難しいんだよ」と言う泣き言がある。話題性がないとメーカーはコンビニやスーパーの棚が抑えられないという実情もあるんで、知名度がなくてはそもそも消費者の目にふれにくく勝負の舞台に上がれない。差別化以前に、CMで話題性だして店頭の棚を抑えなきゃいけないんだよ、という現場の叫びもわかる。でもさ、もうCMなんかで騙されなくなってきてるよね、という現場の肌感も聞いている。
背景にあるのは、テレビの衰退。で、テレビCMも同時に衰退していて、テレビCMを大量投下しても、どうしても届かない層が出てきた。んで、SNSの隆盛でしょ。これまでは「CMやってて、これ流行ってるみたいだよね」という噂をつくりだすことができたけど、SNSは「バンバンCMやってるけど、これ流行らせようとしてるよね」という意図が見抜かれるようになってきた。
これまでは企業の意見だけがメディアに流れてきたのに、消費者の反論まで世間に流れるようになっちゃったわけだ。ホリエモンとかは、こういう動きを「情報の民主化」と言ってたが、言い得て妙。
今はまだいいかもしれないけど。もうそろそろ差別化できてない商品は、イメージ戦略で売れなくなると思う。コンビニもスーパーもPBが増えてきて、棚を抑えるためにCMを投下する意味も薄くなっていく。んで、消費者は消費者で、商品をしっかり比較してネットで買うようになっていく。インフルエンサーに金を握らせて評判を立てても、これも見抜かれて叩かれるだろう。情報の民主化とは、もうイメージで売れる時代じゃないんだよ、ってことだ。逆に言えば、差別化できている商品をつくっている企業にとっては、またとない時代がきた、と言える。
コーヒーごときが働き方を語る、という商品が身の丈をこえたドラマを演じている幻想はいよいよ終わると思う。こんな時代のCMなんて、バズりゃいいんだ、商品名を覚えてもらうきっかけになりゃいいんだよ、という日清の乱暴な戦略はある意味正しい。そのCMが快か不快かはさておいて、「CMなんて話題になりゃいいんだよ」という割り切りは、企業イメージを大切にする企業にはなかなかできない戦略だ。
もうヒット商品は、売れてる感を演出する大量投下のCMからは生まれない、と思う。サントリーの生ビールと、アサヒの生ジョッキ缶の差が好例だ。どちらが商品を特長づけてちゃんと差別化できているかは言うまでもない。というか、あんまり言うと目をつけられそうで怖い。
さて、きょうの音楽は、ギネスのCMから。
これは、今年アジアで発売された、アルコール含量0.05%未満の缶ビール製品「ギネス0.0」。つまりノンアルギネスの広告である。ボニータイラーの「Holding Out For A Hero」に引っ掛けて、キャッチフレーズは「Holding out for a ZERO」。みんなゼロを待っている、ってわけだ。バカシンプルだけど、売れるよね。いつの時代も変わらないのは、商品がいいと広告はやりやすいってこと。
テレビCMは好評を広めたがるが、SNSは不評を広めたがっている。みんな悪口を言いたがっている嫌な時代。だから流行らそうとするイメージ戦略なんて、格好の的。
つまり、智に働けば角が立つ。とかくに人の世は住みにくい。