甲状腺癌になった話part2

タイトルを思い浮かべてから、山口百恵の歌が止まらない。ずっとハンドルを切ってる。
7月末、定期的にエコーやCTを撮っている病院で、リンパ節が腫れており、もしかしたら甲状腺癌の転移かもしれないと告げられた。
全摘出手術後、放射線の内服治療も行なっていた。そこでやっつけきったのではなかったか…?なんだか過ぎたことのように思っていたけど、そうではなかったという落差が、初めて、健康診断で指摘されたときよりもガツンときた。
その後、首に針を刺して細胞の病理検査を行ない(この検査中、看護師さんにとてもヨシヨシされて嬉しかった)、やはり癌であり放射線の内服療法をやった上でのものになるとウチの病院では扱えないかも、と言われて県のがんセンターに紹介状を出されて、受診した。8月の半ばだった。

と、ここまでを術後に書いた後、古賀及子さんのエッセイを読み、日記とは観察、なることを学んだのでそのように書いてみる。ここまでずっと私は、私が私がに陥ることが多くて、参っているので。

8月は栃木に中期滞在していたので、赤子を夫と父母に任せ、日帰りで静岡に向かった。駅からタクシーで病院へ向かう。恐らくお喋りな部類のタクシーの運転手に、今日は病院へ向かう人が多い、の話から、お見舞いですか?と聞かれて、私が受診するんです、と伝える。気まずい空気、は流れずにそうですか〜と流されて、自民党の総裁選の話になった。あっという間に病院へ着く。
病院は、バカデカくバカきれいだった。システマチックな導線であちらこちらに向かう。待ち時間の長さ故のシステムか…?と疑っていたが、これまでのどの病院よりもスムーズで、検査を終えてあっという間に診察に。診察室に入ると(天才変人を演じるときのような)高橋一生(の雰囲気がある)先生が待っていた。高橋一生先生から、紹介状を読むに転移は確実で紹介元の診断は正しい、ただ放射線の内服療法後に転移が発見されることは往々にしてある、と聞く。往々にしてある、の部分で血が巡り温まる感覚。よかった。いや、よくはないが。
年内に手術を目標に進めることになり、仕事的に11月くらいが良いかも、と凡その目安をつけ、次はご家族と来てくださいと言われて終了した。最後に、子どもを連れて来るのはできないと告げられ、またヒュッと心が冷えたが、この件は赤子自身の話でもあるので割愛する。帰りの新幹線では、バカ美味い駅弁を2つも食べた。
9月、10月と詳しい検査をしたり働いたり育児したりするうちにあっという間にすぎて、11月13日に首の左右にある腫れたリンパ節を切除する手術を行う為、前日に入院。入院後、あちらこちらに呼ばれる。印象的だったのは、備品の使い方を説明する為、裏紙を用いて「この表に病室番号を書いて〜」と例として666と書いた看護師さん(悪魔の数字すぎる)と、前回の手術で全身麻酔後に吐いたことを伝えると「麻酔の合併症で起きる吐き気は若い女に起きやすい、反対に起きにくいのは脂の乗ったおじさん。ピュアな人に多い」と本当?なフォロー?をしてくれた麻酔科の先生(おじさん)。なんとなく、ずっと覚えてる気がする。
手術は無事に終了した。前回よりも丁寧な安静を経て(吐き気止めの点滴も打って貰って)、翌日の昼には病室へ戻る。現在も首から管が出ているが、体調は良く、今はあぁ終わったという感想。切除したものの病理検査の結果を聞いたりだとか、終わってないことも多いのだけど、一山を超えた。
そう、たった一山を超えただけ。改めて、最近よくよく困っているのが、シンプルに自分中心主義なメンタルに陥ってしまうことで、多忙につきメンタルが追い込まれると「なんで私だけ〜!」や「なんで私が〜!」と地団駄を踏んで噴火した。とてつもなく大きな困難を用意されている理不尽さを感じ、そんな私を労われという理不尽を撒き散らしたくて仕方なかった。でもその困難はたった一山超えるだけのことで、それって、誰の人生にもあることで、人生は山の上り下りなわけで。デカい山だったけど私の人生、という大きな流れのなかで見ると、大騒ぎする程でもなかったかしら、と憑き物が取れたように、今は凪いでる。とはいえこれを書いている午前中には一悶着あり、自己嫌悪に泣いていたのだけど。まぁそれも、いいか。
病室は相部屋で、隣人はときどき、痛い……やウチに帰りたい……と小さく漏らしている。辛そうだ。可哀想なので極力、隣人がいることでの不快感を増やさないよう、息を潜めて過ごしている。他人へこういう配慮ができる私が、私の好きなところだと思い出す。ただ、私が辛いので、ベッドの頭の位置の上げ下げは、ウィーン……と気にする人は気にする微妙なラインの音が出るが、夜中でもする。すいません。他人と自分を大切にすることの難しさに直面する。山に登る。そして人生は続く。
観察をするっていうの、無理だったなぁ。反省反省精進精進。


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江連りえ
茨城県水戸市内で活動する演劇ユニットこれっきりに所属し演劇をしています。