【初級編】「自分はなぜ、やる気が出ない?」が分かる⑤ ~「自己効力」~
「自己効力」とは
「自分が何か行動すれば、良い結果が得られるだろうなとは思っても、
とても自分には行動できそうもない」と思うことはありますか?
例えば「毎日10時間勉強すれば、東大に合格できる」としても、そんなの続けられそうにない、とか
「週3回ジムに通えば、体を引き締めることができる」としても、面倒くさくて無理、など。
バンデュラは、セリグマンやロッターが重視した「随伴性の認知(※1)」を結果期待と呼び、
そのために必要な行動を自分が取れるかどうかの信念を「自己効力」と呼び、両者を区別しました。
※1:行動すれば結果を変えられるという考え
自己効力を変化させる4つの情報源
自己効力は、以下の4つの情報源によって変化します。
行為的情報
実際に課題を遂行することで得られる情報。
成功体験をすると自己効力が高くなり、失敗体験をすると自己効力が下がる
代理的情報
他者による課題の遂行を観察することで得られる情報。
「自分にもできそうだ」と思えば高くなり、「自分には無理だ」と思えば低くなる
言語的説得の情報
他者からの言葉による説得や自己暗示など
情動的喚起の情報
ドキドキする、不安になるなどの身体的・生理的反応の知覚
特に①の行為的情報が最も強力な情報源とされています。
例えば、Aさんが体育の授業で飛び箱を跳ばないといけない場面を考えます。
この時、Aさんの自己効力はどのように変化するでしょうか。
過去にとび箱が跳べたという成功体験があれば、自己効力は高くなり、逆に過去にとび箱を跳べなかったという失敗体験があれば、自己効力は低くなる
友達が次から次へととび箱を跳んでいく様子に影響されて、自己効力が高くなったり、あるいは友達が次々にとび箱に失敗していく様子に影響されて、自己効力が低くなったりする
先生から「絶対跳べるよ!」と励まされたり、「自分なら跳べる!」と自己暗示をかけたりすれば自己効力が高まる
心臓がどきどきしたり、緊張したり、不安な気持ちになったりすると、自己効力が低くなる
自己効力には3つの次元がある
また、自己効力には、3つの次元があるとされていて、それぞれに測定方法があります。
レベル
どのくらい困難な水準の課題まで遂行可能だと思うか
強度
特定の行動をどの程度確実にできると思うか
一般性
ある場面における特定の行動に対する自己効力が、どの程度別の場面に対して一般化しているか
→その人個人の一般的な特性としての自己効力
例えば、
「とび箱を何段まで跳べると思うか」
→レベル
「5段は100%、6段は80%、7段は50%の確率で跳べそうだ」という主観的な確率
→強度
「とび箱以外のマット運動や鉄棒などの器械体操全般、さらにはスポーツ全般に対する遂行が可能と思うか」というように、ある課題に関する自己効力が、どの程度まで、対象・状況・行動を超えて広がりを持つか
→一般性
という具合です。
教育現場での自己効力
教育現場における学業達成と自己効力の関係については、シュンクを中心として
様々な研究が行われています。
それらの研究によると、学業達成場面での
目標設定
モデリング
原因帰属フィードバック
情報プロセス(方略使用など)
が自己効力と関連することが明らかになっています。
目標設定
目標設定については、主に
具体性
接近性
困難度
の3つの要因が自己効力や動機づけを規定します。
自己効力を高める重要な要因は「進歩の度合いを自分自身で容易に判断できること」であり、
その観点から
一般的目標よりも具体的目標の方が効果的
→例えば「ベストを尽くす」よりも「1分以内に3問解く」の方が効果的
遠隔目標よりも近接目標の方が効果的
→例えば「問題集を42ページやる」よりも「問題集を6ページやる」の方が効果的
また、困難度に関しては、
容易な目標は、スキル習得の初期段階では有効かもしれませんが、
困難な目標の方がその達成によって自分の能力に関するより多くの情報が提供されることに
なるため、スキルの発達という観点から有効だと考えられています。
モデリング
モデリング(観察学習)とは、
他者の遂行に関する情報から自分自身の成功可能性についての情報を得る経験
を指しています。
(観察学習については、「内的ー外的統制」の記事で少し触れましたね。)
例えば、パズルに失敗しながらも自信を維持する気持ちを言語表現しながら取り組むモデルを
観察した子どもは、悲観的な気持ちを表現するモデルを観察した子どもに比べて
自己効力が高いことが報告されています。
他にも、
大人が問題の解き方を声に出しながら解決する様子を観察した子どもの自己効力が高く、粘り強く問題に取り組む傾向がみられた
教師モデルよりもピア(子ども)モデルを観察した場合の方が自己効力が高い
自分が問題を解いているビデオを観るセルフ・モデリングが効果的である
などが示されています。
原因帰属フィードバック
原因帰属フィードバックについては、特に学習初期の成功に対する努力帰属フィードバックが、
進歩の認識を高め、学習に対する自己効力を高めると言われています。
原因帰属については、また別の機会に詳しく書く予定です。
情報処理プロセス
情報処理プロセスの中でも、特に
主観的な努力の程度
学習方略の使用
あたりが自己効力と関連し、動機づけや学習を促進すると言われています。
また、学習方略を教えることによって自己効力が高まることも明らかにされています。
特に
計算の解法の手続きを声に出すこと
方略の使用とモデリングを組み合わせて提示すること
などが自己効力とスキル習得の促進に有効だと考えられています。
確かに、声に出しながら勉強する人って、結構いますけど、
実際に理にかなった勉強法だということですね。
「自己効力」と「結果期待」の組み合わせパターンと効果
(図解)「自己効力」と「結果期待」の組み合わせパターンと効果
さて、ここまで自己効力について詳しく見てきましたが、
では、自己効力と結果期待の高低の組み合わせによって、
行動や感情にどのような効果が生まれるのでしょうか。
イメージは以下です(参考・引用は下記参照)
自己効力と結果期待がどちらも高い場合、積極的な行動をとります。
例えば、「毎日10時間勉強すれば東大に行ける」と思っていて、かつ、
「自分は毎日10時間勉強できる」という自信がある人ほど、実際に勉強しようとするわけですね。
一方でどちらも低い場合、動機づけが低下し、無気力や抑うつ状態になります。
つまり、後者は学習性無力感の状態ですね。
「随伴性の認知」だけでは不十分
この研究から分かることは、
随伴性の認知があっても、自己効力が低ければ、動機づけには不十分ということです。
この場合には、困難を克服するための努力ができないばかりでなく、
「本当はやればできるはずだけど、自分にはできない」と感じて失望したり、
劣等感を感じたりすると考えられます。
この状況は自尊心にとって最も驚異的な状況です。
まとめ
バンデュラの研究のポイントは、自己効力と結果期待の区別をつけたところでしょう。
そのおかげで、随伴性の認知があるのにやる気がでないという状況の説明がつくようになりますし、
区分分けすることで、引き起こされる感情の違いも説明することができます。
ということで、まとめです。
「随伴性の認知(※1)」を結果期待と呼び、そのために必要な行動を自分が取れるかどうかの信念を「自己効力」と呼ぶ
自己効力を変化させる情報源は4つあり、特に行為的情報が最も強力な情報源である
自己効力はレベル・強度・一般性の3つの次元があり、それぞれが測定可能である
自己効力を高める重要な要因は「進歩の度合いを自分自身で容易に判断できること」
困難な目標の方がその達成によって自分の能力に関するより多くの情報が提供されることになるため、スキルの発達という観点から有効である
自己効力はモデリングによっても高くなる
学習初期の成功に対する努力帰属フィードバックは、進歩の認識を高め、学習に対する自己効力を高める
主観的な努力の程度や学習方略の使用は、自己効力と関連し、動機づけや学習を促進する
自己効力と結果期待の高低の組み合わせによって、行動や感情に様々な効果が生まれる
動機づけという観点では、「結果期待」が高いだけでは不十分。
結果期待と自己効力どちらも高い状態になって初めて、積極的な行動をとり、満足感を得られる
参考・引用
「やさしい教育心理学 第五版」
著者:鎌原雅彦・竹綱誠一郎
出版:有斐閣アルマ
「学習意欲の理論ー動機づけの教育心理学」
著者:鹿毛雅治
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