【初級編】「自分はなぜ、やる気が出ない?」が分かる②~「期待ー価値モデル」~
さあ、というわけで、まずは「期待ー価値モデル」から見ていきましょう。
今回は少し数学チックな内容ですね。
ちなみに、動機づけ理論における有名なモデルなので解説していますが、
個人的に実践的な理論ではないと思うので、
「単にやる気の出し方が知りたいだけ!」という方は読み飛ばしてください。
教育心理学そのものに興味がある方のみご一読ください。
「期待ー価値モデル」
アトキンソンによる期待、価値、動機づけの関係
子どもが難しいゲームに取り組んでいる場合を考えます。
その子は、どのようなときゲームをやり続け、どのようなときにゲームをやめるのでしょう。
アトキンソンによれば、
その子がなんでも物事を最後までやり通したい、という強い動機(達成動機)をもっていれば、ゲームをやり続ける
ゲームをクリアできそうだ(期待)と思うほど、ゲームを頑張る
ゲームをクリアした時の喜び(価値)が大きいほど、ゲームを頑張る
とのこと。
逆に、ゲームが難しすぎてクリアできそうになかったり、
クリアしたところでさほど喜びがなかったりすれば、その子はゲームをやめてしまいます。
つまり、アトキンソンは
成功に向けてがんばろうとする動機づけの強さは、その人のもつ達成動機の強さと、成功の見込み(=主観的達成確立=期待)と、自分にとっての成功の価値によって決まる
と考えました。これを式で表すと
達成行動を行おうとする傾向(行動傾向)=達成動機×期待×価値
となります。
期待と価値との関係性
さらにアトキンソンは、期待と価値との間に関係性があると考えます。それは
期待が高いほど価値が小さい(価値=1-期待)
という関係です。
ゲームで例えるなら、簡単に成功しそうなやさしいゲーム(期待が高い)では、
成功してもあまりうれしくない(価値が小さい)が、
一方でクリアするのが難しいゲーム(期待が低い)では、喜びが大きい(価値が高い)
というわけです。
宝くじなんかも同じ原理ですよね。
一等なんて当たるはずがない(期待が低い)けど、当たったらお金持ち(価値が高い)です。
行動傾向が最も高くなるのはどんな時か?
さらには、前述の式にさまざまな数値を代入した結果、達成動機の強さが不変だと仮定すると、
期待が0.5(つまり、価値も0.5)のときに行動傾向が最も高くなることが分かりました。
できるかどうか五分五分のときが一番頑張れる、ということですね。
五分五分の状態というのは、「ちょっとがんばればできそうだな」という、
適度に難しい課題を意味します。
アトキンソンとリトウィンは、輪投げの課題を使った実験を行い、
この現象が実際に成り立つことを示しました。
課題を避けようとする傾向が最も高くなるのはどんな時か?
面白いのは、課題を避けようとする動機も、適度な困難度の課題のときに最も高くなるという点です。
つまり、行動傾向が最も高くなるとき、同時に、課題を避けようとする動機も、
最も高くなるんですね。
なぜこのような現象が起きるのでしょうか。
「能力が明らかになること」への不安
アトキンソンは、その理由を次のように考えます。
適度に困難な課題に対して最もやる気が高まるのは、このような課題をやることで、自分には何ができて何ができないのか(自分の能力)を知ることができるから
そのため、自分の能力を知ることを恐れる人は、適度な困難度の課題を避けようとする
ということで、自分の能力が明らかになることを恐れるか否かによって、
課題に取り組むか、課題を避けるかが決まる、ということですね。
この考えによれば、自分の能力が明らかになることを恐れる人は、適度な難しさの課題を避け、
やさしすぎる課題か難しすぎる課題を選ぶと考えられます。
やさしすぎる課題なら、失敗することはありませんし、逆に難しすぎる課題なら、
どうせ出来るはずがないので、失敗したとしても、恥ずかしくないからですね。
そのようにして、自分の能力を明らかにしないような課題を選んでいくわけです。
「期待ー価値モデル」を踏まえたやる気の出し方
というわけで、「期待ー価値モデル」を見てきました。
この理論を応用するなら、
取り組みたい事柄に対する「期待」と「価値」をそれぞれ0.5にする
自分の能力を明らかにすることを恐れないようになる
という対策が考えられます。
ただ、言葉でいうのは簡単ですが、実際に数値を調整するのはかなり難しいですし、
自分の能力を明らかにすることを恐れないというのも難しいですね(苦笑)
というか、そもそも一般人が「期待」や「価値」を数値として正確に測定できるんですかね…?
「期待ー価値モデル」の注意点(個人的見解)
「期待ー価値モデル」では、達成動機の強さは、その人の性格的なもので決まり、
常に一定(強さが変わらない)という前提がありますが、正直、
この前提は明確な根拠が無いように感じます。
「価値=1-期待」も本当に成り立つんですかね?
期待も価値も両方上がるケースって、ある気がします。
さらに言うと、
達成行動を行おうとする傾向(行動傾向)=達成動機×期待×価値
だとすると、「達成動機」「期待」「価値」のいずれかが0だと、
行動傾向は常に0になってしまいます。
例えば、その人が性格的に「達成動機」が0(あるいはマイナス)の人だった場合、
何に対しても行動しない人ということになってしまいますが、それって本当に正しいんですかね。
(※このケースの場合は、外発的動機づけなどが必要になるようです)
最近は、「やる気は性格よりも過去の経験に基づく考え方によるもの」という考え方が
主流だと思うので、やはり違和感があります。
ほかにも、「絶対無理だろうな(期待が0)」と思う状況でも、一度は試してみるというケースや、
「止めなきゃいけない(価値が0)」のに、ついその行動をしちゃうというケースの説明もできません
(上記の例だと、依存症とかも絡む可能性があるので、そう単純な話ではないとは思いますが)
輪投げのように、一回限りの単純な課題に関してなら、「期待ー価値モデル」が活用できそうですが、
もっと長期的で複雑な課題となると、行動傾向を正確に予測するのは難しそうです。
正直まだ理解しきれていない部分もあるでしょうし、もう少し深く勉強していこうと思います。
参考文献
「やさしい教育心理学 第五版」
著者:鎌原雅彦・竹綱誠一郎
出版:有斐閣アルマ
「学習意欲の理論ー動機づけの教育心理学」
著者:鹿毛雅治
出版:金子書房