人生で最も衝撃受けた絵画を聞かれたら。|『暗幕のゲルニカ』
原田マハ氏のアートシリーズ。
もう10年以上前のことになるのですが、『赤ん坊のお祝い』という絵を世田谷美術館で見て、強烈に惹かれた画家アンリ・マティス。彼を題材にした本が出たと知って真っ先に手に取ったのはいつのことだったか…
そして、装丁の美しさに思わず手に取った、2冊。モネを扱った
グリム童話の世界に迷い込んだかのような雰囲気が妖しい
そして、私にとって4作目になったのがこちら。ゲルニカが描かれた時代と9.11が交錯する物語で、最もサスペンス要素が多くなっています。
彼女の文章は都会的で軽やか。塩野七生氏や山崎豊子氏で育ったせいか、現代の女流作家だと恩田陸氏や小川洋子氏のようなデコラティブで不安感や重厚感のある文体が好きなので、このストーリーならもっと重みのある文体で読みたい…!と思いつつやはり手に取ってしまうのは、絵にまつわるエピソードの切り取り方に、さすが元MoMAのキュレーターという他ない豊かさがあるからかもしれません。
さて、こんなnoteを書いていますが、小説の内容に触れるのも野暮なので、ここからはゲルニカに関する私の体験を。初めは学生の時。次は、子供を連れて数年前。私は2度、ゲルニカの前に立ちました。とりわけ、最初の印象は忘れられません。
多分、中学生の頃には既にシューレアリスムに惹かれていて、ダリが好きで(安部公房好きもその頃から)、海外に一人で行けるようになった大学生の頃、遂にダリの博物館に行くためにバルセロナからフィゲラスまで行ったのでした。
その時は、バルセロナで折角だからと立寄ったピカソ美術館でしたが、まずそこでピカソに対するイメージががらっと変わったのです。
学校の教科書にも載っているキュビズム時代の絵は「子供でも真似できそう」なんて言っているクラスメートもいましたが、何を言っているんだろう、と笑ってしまうくらい。人でも動物でも景色でも、実在の対象を見て、この絵が描ける人はいない。特に、民家の窓際に並ぶ白い鳩の、まるで即興のような絵から囀りが聞こえてきたように感じたのには驚きました。
そして、マドリッドで対面したゲルニカ。
そこで生まれて初めて「動いている絵」としか言い様のない絵を私は見たのです。それまで見てきた絵はすべて、現実・非現実のいかんに関わらず、過去の一点を描き留めているとその時初めて気付いたのです。
ピカソのゲルニカは、絵画であって絵画でない。画面いっぱいから何度も何度もリピート再生のように爆音が、悲鳴が、いななきが、声にならない叫びが止まることなく流れ続けていて、それは今、正に行われている最中の現在進行形の絵でした。どうしてそんな動いている風に感じるのか今もうまく説明できませんが、それだけの覚悟があっての絵だったことをこの『暗幕のゲルニカ』から改めて納得した気がします。
ところで、原田マハ氏のスピーチを書く力は抜きん出ているなといつも感じていて、どれだけ短いスピーチでも心を持っていかれるのですが、それにフォーカスした『本日はお日柄もよく』はやはり私のなかで最も記憶に残る本のひとつです。
よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!