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【本】数学はロマン。小川洋子氏の物語たち


小川洋子さんの本は、『猫を抱いて象と泳ぐ』がはじめでした。

生まれつき口が塞がっており、口を開ける手術をしたあとも、言葉を発さないチェスの名手の少年が主人公。薄暗がりのような世界観は、好き嫌いがはっきり分かれそうですが、空気の不安定さ、古い蔵を覗くような少し不気味な繊細さがとても魅力的な本でした。

そして、『博士の愛した数式』は、大人になってからの事故で80分以上の記憶ができなくなってしまった数学天才者と、そこへ送り込まれた家政婦とその息子が数を通して心を通わせていく物語。その世界観の怪しさは『猫を〜』に比べて抑えめながら、途中、すっと体の冷えるような描写、その圧倒的な知力が孕む狂気と無邪気がやはり小川洋子氏らしい作品。これは小五の娘も読みましたし、初めて彼女の作品を読む方にもおすすめです。

本屋大賞第一回なのですね。数学の神秘的なまでの美しさ、巻末の参考図書に『数の悪魔』を見つけて、やはりと思いました。


『博士の〜』の世界観がお好きならば、こちらも。暑く、照りつけるような香港の日差しの下で読んでなお、もやもやと湿った、ほこりっぽい空気、日陰のひんやりさを感じた本です。

「フェルメールを見ると、目が触覚になる」という谷川俊太郎氏の言葉が忘れられないのですが、小川さんの本は『悪童日記』や『大地』に通じるような、不潔なものがその通りに不潔に感じられる、匂いのある文章にやっぱり独特の魅力があるなと感じます。


よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!