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初恋の夢をみた|中島京子作『小さいおうち』によせて

普段、ほとんど夢を見ないのですが、その日、初恋の人と再会する夢をみました。朝起きた時には、内容はもううっすらとしか覚えていなかったけれど、普段は記憶の箱にぎゅっと押し込んである、若かりし頃の感情のあれこれを夢の中で広げ、懐かしみ、楽しんでいたような感覚がありました。

そして、ふと枕元をみて、そこに理由があることに気づきました。前夜寝る前に読了した本『小さいおうち』

最初手にとって、背表紙のあらすじを読んだ時、谷崎氏の『痴人の愛』的な世界観なのかな?と一瞬思ったりしたのですが、全然違って、東京の山手に洋館を構える家庭で女中として働くタキが、後年、第二次世界大戦が始まってから終わるまでを記述した話がベースとなっている本作。このレトロな表紙通りの柔らかく、ハイカラな時代の空気と、戦争に関わりのない市井の人の生活がとても自然に描かれています。

その時代にも、もちろん育むべき家庭があり、女性同士の他愛のないお喋りがあり、上司家族とのやりとりがあり、心踊る外出があり、どうしようもなく心に焼きついてしまう人がいる。

合間に、現代を生きる甥っ子が史実や今の感覚と照らし合わせて、タキに疑問を投げかけ、それをタキが一蹴するのも秀逸で、その当時、都合の悪いことは何も知らされていなかった、気づいたら戦火がそこに来ていた、そういうものだったということが胸に迫ります。

そこに、最後の鮮やかな展開。この話はミステリーだったと言っていいほどの衝撃こそが、私の記憶の蓋をこじ開け、この夢を見せたのだと思います。

調べたら、直木賞受賞作なのですね。中島京子氏の作品の中でも、一際後をひく物語です。こちら、山田洋次監督によって、映画化もされているようですね!

インスパイアされ作中にも出てくる、こちらの絵本もやはり名作です。



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