中国塾最大手、好未来の全貌を解説 - 好未来の3つの強みとは? | 中国EdTech #5
この記事は株式会社BEILリサーチブログにて 2019/09/13 に公開した記事を移行したものです
第5、6回では、中国塾大手の好未来(TAL Education Group)と新東方についてまとめます。
好未来、新東方はそれぞれK12補習塾と留学用英語塾として始まりましたが、現在はどちらも幼児教育から成人教育まで幅広い分野にサービスを展開しています。
K12、語学学習分野の中でも、突出して規模の大きい二つの企業の動向の分析を通して、中国EdTechの動向を探っていきます。
それではまず、本記事で好未来を経営状況、サービス、投資の3つの側面から解説します。
今回扱うトピック
・中国塾最大手の好未来とは?
・急成長する好未来の経営状況は?
・好未来のサービスと強み
・毎年20件以上!桁違いの好未来の投資
中国塾最大手の好未来とは?
好未来(TAL Education Group)は張邦鑫によって2002年に設立された、小・中学生向け塾です。
現在は小・中学生の補習だけでなく、英語、留学、資格試験など、幅広い分野に展開しています。同時にEdTech分野ではオフラインのカリキュラムをオンラインに援用するだけでなく、新たに技術開発を積極的に行い、サービスプラットフォームを形成しようとしているのが、重要な特徴です。
新東方と同じく、もともと教材・授業のコンテンツを持っていたのが大きな強みですが、さらに清華大学・スタンフォード大学と共同で研究を行うなど、AIなどの技術開発にも力を入れています。
急成長する好未来の経営状況は?
ここでは、まず簡単に、好未来の経営状況を見ていきましょう。
全体的に見ると、オフラインで堅実に利益を出しながら、オンライン事業が猛スピードで拡大していることがわかります。
2018年の売上は17億ドル
下のグラフから好未来はかなりのスピードで売上と総利益を伸ばしているのがわかります。
2018年度の売上高は17億1500万ドル、総利益として1億9800万ドルを稼いでおり、また2019年度は三四半期だけですでに売上は18億3600万ドル、総利益は2億6800万ドルに達しています。
売上の規模で言えば、東進を展開するナガセの約4.5倍を誇ります。
オンラインサービスが急成長
ここで、各部門の売り上げ比を見てみましょう。
下でさらに紹介しますが、好未来の基幹サービスは主にオフラインの補習塾(少人数クラス・1対1クラス)、それからオンライン講義(大人数クラス)になっています。
2019年第3四半期を見てみると、営業収益5.86億ドルのうち、補習塾の少人数クラスが占める割合は79.0%、補習塾の1対1クラスが6.0%、オンライン講義の占める割合が15.0%となっています。
この図から明らかなように、現状では好未来の中心サービスは依然としてオフラインであると言えます。
一方で、2018年第3四半期の営業収益4.33億ドル中、オンライン講義の占める割合が7.8%だったことと比較すると、かなりの速度でオンラインでの収益率が増加していることがわかります。
好未来の3つの強み
好未来の一つの強みは塾で培ったコンテンツです。オンラインのサービスでも、充実したコンテンツが大きな武器となっています。
二つ目の強みは、積極的なテクノロジーの応用です。好未来は企業のミッションを”Advancing Education through Science and Technology”としており、オンライン講義や双師授業だけでなく、通常のオフラインの塾でも、積極的にAIをはじめとするテクノロジーを活用しようとしているのが特徴です。
例えば、次回の記事で扱う大手塾の新東方では、オフライン・オンラインともに授業・学習管理へのテクノロジーの活用が進んでいるとは言い難い状況です。
また基本的に中国のEdTechはオンラインのサービスが多く、オフラインの授業での技術の導入は遅れています。その中で、好未来は従来の塾にも、図に書いた3つのテクノロジーを導入しています。オフラインとオンラインをうまく連動させている良い例だと言えるでしょう。
さらに3つ目の特徴としては、サービスで利用しているテクノロジーをEdTechのサービスプラットフォームとして他の教育機関・企業に提供していることです。
具体的にいうと、オンライン講義用のサービスプラットフォームとして直播クラウド(直播はストリーミングの意味)、双師授業用のサービスプラットフォームとして未来魔法校を提供しています。
一方で大手塾の新東方のサービスプラットフォーム化は遅れており、限られた形でのみの提供となっています。
さらに好未来のサービスプラットフォーム化戦略は、インターネット大手の百度が教育コンテンツ創出とプラットフォーム化を進めているのにも対応していると言えます。これについては第8回で扱います。
一方で、好未来の不安材料としては、様々なサービスが部門によって分かれているため、部門ごとに重複するようなサービスが存在しているという問題です。
例えば、K12向けオンライン講義には学而思在線(在線はオンラインの意味)と、学而思網校というそれぞれ別のサービスが存在し、二つは別の部門が統括していると考えられますが、そのサービスの実態はほとんど同じようなものです。
こうしたサービスの重複は消費者の混乱を招くだけでなく、構造としても効率の悪いものになっています。
好未来のサービス全体像
以下に好未来のサービスの関係図をまとめました。
好未来のサービスとしては、主に
・通常の塾
・オンライン講義
・双師授業
・オンラインユーザーコミュニティ
の4つに分類できます。
学而思というのが設立時からある補習塾ですが、新東方と大きく異なるのが、”Advancing Education through Science and Technology”という企業ミッションの下、補習塾でも様々な技術によって学習の効率化を目指そうとしている点です。
上記のサービス全体像の図に対応して、塾、オンライン講義、双師授業、オンラインコミュニティの4分野の具体的なサービスを紹介します。
オフライン塾
(1) 学而思
6~18歳を対象に、国語、英語、理科の少人数クラス形式授業を行う塾です。2018年11月時点で、北京・上海・深圳などの大都市を中心に、全国45都市666箇所以上の塾を展開しています。(ちなみに、学而思の名前の由来は『論語』の「学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)」です。)
特徴としては、下記の3つのテクノロジーによる学習の効率化が挙げられます。また、基本的にこれら3つのテクノロジーは好未来の学而思以外のサービスでも活用されています。
ITS智能教学システム
オンライン講義から授業中のリアクションまで行える授業サポートツールです。
学而思クラウド学習システム
予習から復習まで、生徒の到達度を把握し、ビッグデータとナレッジノードに依拠して、それぞれ個人に合った学習経路をレコメンドします。また生徒の学習状況は保護者・教師に共有されます。
魔鏡システム
画像認識技術を利用し、授業中の生徒の表情を「集中」「疑問」「嬉しさ」「居眠り」の4つの観点から分析し、授業態度を判断します。それによって教師は授業展開を調整することができます。また同時に魔鏡システムを通じて作成された学習報告は保護者に送られ、保護者もそこから生徒の学習の弱点を知ることができます。
またテクノロジーではないですが、課件大師と呼ばれるシステムがあります。中国では省によって中考・高考の問題が異なることから、それぞれの地区の指導要領に合うようにテキストを編集し直します。これによって中国国内の細かなニーズに応えることができます。
(2)ABCtime
ABCtimeは2-15歳を対象にした英語素質教育サービスです。塾での少人数授業+アプリによる家庭での英語学習を徹底させます。
オンラインサービス(講義動画配信)
(1)[学而思網校](https://www.xueersi.com/index )
小学生から高校生を対象にしたオンライン講義配信サービスです。教師は全て好未来が採用した人のみが務め、外部の人が授業を行うことはありません。またここではオンライン講義+学習管理サポート担当教員という体制をとっています。現在は夏期講習の申し込みのみ見ることができますが、おおよそ2週間の授業で400元ほどの価格設定になっています。
参考までに、PRムービーがこちらです。
(2)大海1对1
大海1対1は中学生・高校生を対象にしたオンライン家庭教師サービスです。
(3)考满分
TOEFL、 IELTS、SATなど留学に必要な試験対策用学習アプリです。同時にオンライン講義配信なども行なっています。
(4)爱棋道
4-12歳を対象にした囲碁訓練サービスです。中国らしいといえば中国らしいでしょうか。
(5)直播クラウド
直播クラウドは、toBライブストリーミング講義ツールです。直播とはライブストリーミングの中国語で意味です。大人数クラス、少人数クラス、オンライン家庭教師と、様々な授業形態に対応しています。またAI音声認識や画面共有機能があります。
双師授業
(1)学而思双師課堂
塾の項目で紹介した学而思は、双師課堂(ライブストリーミング講義+オフライン補助)形式の授業も展開しています。新東方双師課堂と同様に、自社で補助教師を訓練し、特に優秀な教師が集まりにくい地方都市でも、質の高い授業とサポートを提供できる仕組みです。
(2)未来魔法校
未来魔法校はtoB双師課堂ツールです。主に小・中学生を対象にした教育機関が対象です。新東方双師課堂とは異なり、自社で培った技術を他社にも提供する戦略をとっています。また授業だけでなく、カリキュラムや教材、学習管理など総合的に行います。
出典: 未来魔法校
オンラインコミュニティ
好未来は以下のように、ユーザー同士が教育に関連する相談をしたり、それに関連した記事を検索できるオンラインコミュニティを運営しています。
(1)妈妈帮
妊婦・幼児関連情報サイト
(2)家長帮
家庭教育関連情報サイト
(3)考研帮
大学院入試関連情報サイト
(4)小木虫
大学院生・研究者交流プラットフォーム
またオンラインコミュニティとは直接関係しませんが、未来之星という中国の教育関係者の交流プラットフォームを運営しており、毎年GESという大規模な教育カンファレンスを主催しています。中には新東方や騰訊、沪江などの教育関連企業、投資家、また大学教授や政治家が参加しています。
研究開発機関
好未来は以下の二つの研究開発機関を持っています。
(1)TAL AI Lab
清華大学とスタンフォード大学と提携した研究所
(2)脳科学実験室
年別投資件数と分野別投資件数
以下のグラフに好未来が2012年から2019年までに行なった投資案件をまとめました。
注: 一つの企業に複数回投資している場合もあるため、年別投資件数と分野別投資件数は一致しません。
好未来の投資の特徴
好未来の投資は4つの特徴があります。
(1)投資数が多いこと。塾大手の新東方やBATなどと比較しても、かなり件数が多く、毎年20件以上の投資を行なっています。
(2)投資分野が幅広いこと。好未来のHPによると、彼らの投資分野は、主に0〜24歳、教育・職業訓練、インターネット、テクノロジーの4つの分野であるとしており、実際に幼児教育、K12、STEAM、留学、職業教育、企業研修、オンラインコミュニティ、テクノロジー、メディア、リサーチ等幅広い分野に投資を行っています。
(3)一つの企業に複数回投資を行うこと。表の中だけでも、8社に3回の投資を、5社に2回の投資を行っています。例えばオンライン英語家庭教師の哒哒英語や宿題管理サービスの作业盒子には、計3回でそれぞれ3億ドル以上の投資を行なっています。
(4)買収が活発なこと。2012〜2019年まで総計9回の買収を行なっています。買収した企業は、Ready4、CodeMonkey、熊猫博士,考满分、乐未来教育、顺顺留学、励步少儿英语、小木虫、考研网です。考满分、顺顺留学、小木虫、考研网などは「好未来の教育事業」の項目でも紹介しました。
参考
・36Kr(施安)「好未来2019Q3财报解读:收入增速放缓进入新常态,经营体系依旧强势,估值仍偏高 | 创投观察」
・36Kr「好未来」(2019.5.16現在)