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有事の際の自衛隊指揮権はどこにある?

有事の際の自衛隊指揮権はどこにある?


 少し前になるが日米安全保障協議委員会(以下、「日米2プラス2」)が7月28日に都内で開催され、日本側は上川陽子外相と木原稔防衛相、米国側がアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が出席した。

 対面での会合は2023年1月(ワシントン)以来であるが、日本側だけ出席者が当時の林芳正外相と浜田靖一防衛相から代わっており、主要閣僚がコロコロ代わることは好ましくない。

 例によって肝心なところが正確に報道されていないが、今回の「日米2プラス2」では米国側が在日米軍を再編して「統合司令部」を新設すると伝え、日本側はいつものように重要なポイントをロクに議論せず(あるいは都合が悪いので国民に知らせず)そのまま受け入れたようである。

 そのポイントとは、現在インド太平洋司令部(ハワイ)の指揮権限下にある在日米軍司令部を「統合司令部」に格上げし、在日米軍に独自の指揮権限を持たせるものである。

 これだけなら日本にとっても「結構なことではないか?」となるが、米国側の真意を正確に理解して国民に隠さず伝えなければならない。今回は、ここをはじめとして自衛隊ひいては日本の軍事上の危機について、様々な角度から警鐘を鳴らしていく。

 日本にとって「憲法改正による自衛隊の国軍化」「日米安保条約の一層の深化」「日本の軍需産業の保護育成」「非核三原則の見直しと核シェアリング」などが火急の事案であり、敵対勢力(とくに中国と北朝鮮)にもっと本気で対峙しなければならないと強く考えている。敵対勢力は日本の中枢にまで入り込んでおり、もはや一刻の猶予もない。


その1 まず米軍について


 世界で最も強固な軍事同盟である日米安保条約をより正確に理解するためには、米軍をもっと理解しなければならない。まずここから始める。

 現在の米軍は、7つの地域別統合軍(アフリカ軍、欧州軍、中央軍、インド太平洋軍、北方軍、南方軍、宇宙コマンド軍)と4つの機能別統合軍(サイバー軍、特殊作戦軍、戦略軍、輸送軍)に分かれており、それぞれの指揮権限を持つ司令官は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の各大将(4つ星)から任命される。

 地域別統合軍のうち、欧州軍にはロシア、ウクライナが含まれ、中央軍は中東を管轄して湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などを戦った。また北方軍はカナダ、米国、メキシコ、南方軍は残る中南米を管轄する。

 米軍(制服組)トップとされる統合参謀本部議長は、米大統領および国防長官の主たる軍事顧問であるが指揮権限は有しない。統合参謀本部メンバーには副議長や各軍種(注)の参謀総長らが含まれるが、やはり指揮権限は有しない。

(注)陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、宇宙軍の6つである。各統合軍は、それぞれ複数の軍種で構成されている。また沿岸警備隊だけは国防総省ではなく国土安全保障省に属している。

 作戦命令は米軍の最高司令官である大統領から国防長官を経て各統合軍司令官に直接発動される。統合参謀本部議長はこの作戦命令を直接各司令官に伝え、各司令官が任務を遂行するにあたって大統領、国防長官への補佐、助言を行う。統合参謀本部議長は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の各大将から指名され(上院の承認が必要)、現任はチャールズ・ブラウン空軍大将である。

 また国防長官は、米連邦政府において国防政策を担当し国防総省の長として米軍および州兵を統括するが、あくまでも行政府の長(文民)である。現任のロイド・オースティン国防長官は元中央軍司令官(陸軍大将)であるが、退役後は文民としてレイセオンなど軍産複合体の取締役を経てバイデン政権発足時に国防長官に指名されている。

 在日米軍を指揮する現任のインド太平洋軍司令官は2024年5月に着任したサミュエル・パパロ海軍大将で、その指揮下にある在日米軍司令官はリッキー・ラップ空軍中将(3つ星)である。このポストは早急に大将(4つ星)に格上げされるはずである。

 2023年7月現在の米軍の総兵力は約143万人で(別に予備役が約100万人いる)、うち約37万人が海外にいる。国別では日本の5.6万人が最大で、韓国の2.9万人が続く。

 米軍経費を含む米国軍事費(2023年)は9160億ドル(年間平均の1ドル=142円で計算して130兆円)と世界最大で、以下、中国(2960億ドル)、ロシア(1094億ドル)、インド(835億ドル)、サウジアラビア(758億ドル)、英国(749億ドル)、ドイツ(668億)、ウクライナ(647億ドル)、フランス(613億ドル)、日本(480億ドル)が上位10か国である。日本を除いてストックホルム平和研究所の発表数字である。

 日本の軍事費は2023年度予算の6兆8219億円を同じ1ドル=142円で換算したもので、日本が中国、ロシア、北朝鮮といった核保有の独裁国に近いことを考えると、まだ不十分である。

 米軍最高位である現役の大将(4つ星)は40人強しかいないない。その中には黒人(ブラウン統合参謀本部議長ら)、女性(ローラ・リチャードソン南方軍司令官)、日系(ポール・ナカソネ・サイバー軍司令官)がいるが、さすがに米軍にはまだバイデン政権が推進するDEI(必要以上の機会均等)に毒されていない。

 第二次世界大戦時の1944年には大将(4つ星)の上に元帥(5つ星)が制定され、ダグラス・マッカーサー陸軍大将やドワイト・アイゼンハワー陸軍大将(後の米国大統領)らが任命されたが、1950年以降の任命はない。


その2 自衛隊と格上げされる在日米軍「統合司令部」の指揮系統の調整が絶対に必要


 話を今回の「日米2プラス2」に戻す。

 インド太平洋司令部(ハワイ)にある在日米軍の指揮権限が、そのまま在日米軍(横田)の「統合司令部」に移譲されるはずのため、実際に有事の際(中国など敵対勢力と戦闘状態となった際)の自衛隊と在日米軍の指揮系統を調整しておく必要が「絶対」にある。

 もっとわかりやすく言うと、実際に中国などと戦闘状態となった際、「自衛隊は専守防衛に徹することになっていますので、どうぞ米軍だけで前線で戦ってください。犠牲者が出てもそちらの責任です」とは絶対にならない。

 中国などと戦闘状態になる可能性は、これまでの100倍以上となっている。だから米軍も在日米軍の権限強化に踏み切るはずであるが、有事の際に米軍だけ前線に送り込んで犠牲者を出すなら米国世論が絶対に容認しない。

 当然に米軍は有事の際、在日米軍「統合司令部」司令官(以下、在日米軍司令官)が在日米軍と自衛隊をまとめて指揮するつもりで、その旨を日本側に伝えているはずである。オースティン国防長官が後日(わざわざ)在日米軍司令官は米軍のみを指揮すると発言しているが、それだと絶対に米国世論が容認しないため、あくまでも平時に限って答えただけである。

 米軍の地域別統合軍に指揮権限を持つ大将(4つ星)が複数いた前例はない。1991年1月の湾岸戦争も、ノーマン・シュワルツコフ中央軍司令官(陸軍大将)がそのまま多国籍軍司令官となり、わずか100時間で制圧している。

 唯一の例外として、同じインド太平洋軍の指揮下にある現任の在韓米軍司令官がポール・ラカメラ陸軍大将(4つ星)であるが、その指揮権限はインド太平洋軍の管轄地域(朝鮮半島)以外における有事・脅威に対応するものとされており、また有事の際は在韓米軍司令官が韓国軍も指揮する取り決めになっている。

 よく尖閣列島や北方領土が日米安保条約の適用内であるがどうかが議論になるが、新設される在日米軍司令官の指揮権限が在韓米軍司令官(ともに4つ星)と同じであるなら、日本の領土であるなしにかかわらず、有事の際は在日米軍司令官が米軍と自衛隊を指揮して出動することになる。

 その時になって「憲法違反だ」と騒いでも、もともと現行の日本国憲法は米国が作ったもので「当時はこういう事態を想定していなかった(だから状況に応じて対応する)」と言われるだけである。出動しなければ中国軍に蹂躙されるだけで(米軍単独では出動しないはず)、この在日米軍司令官の権限拡大が中国など対する抑止力になることも事実である。

 自衛隊において米軍の大将に相当する(4つ星)は統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長の4名だけで、統合幕僚長は陸海空各幕僚長から指名され自衛官の最高位者となる。この4名の階級は陸将、海将、空将のいずれかである。

 統合幕僚長は米軍統合参謀本部議長のカウンターパートで、陸海空自衛隊の運用に関して一元的に防衛大臣を補佐するが、有事の際には各幕僚長を直接指揮する権限があるとされる。そこは大統領と国防長官の補佐に徹して指揮権限を有しない米軍統合参謀本部議長と微妙に違う。

現任の統合幕僚長は2023年3月に就任した吉田圭秀・陸将である。

 また陸海空各幕僚長は(現在は)インド太平洋軍司令官のカウンターパートであるが、それが今後は新設される在日米軍司令官(4つ星)となる。しかしインド太平洋軍司令官でも在日米軍司令官でも米軍における地域別統合軍のトップであり、軍種のトップである陸海空各幕僚長とは権限や機能が微妙に違う。だいたい人数が違うため(自衛隊が3名、米軍が1名)機動力に欠けるはずである。

 ここは有事の際に限っても、自衛隊の運用に関して統合幕僚長の権限をインド太平洋司令官および在日米軍司令官と「同等」にするしかないが、恐らくそういう申し入れも自衛隊内のすり合わせも行っていないはずである。

 有事を抑えるには、日本側で抑止力を高めるしかない。ここまで書いた在日米軍と自衛隊の指揮系統の調整に限らず、憲法改正による自衛隊の国軍化、日米安保条約のさらなる深化、日本の軍需産業の保護育成(とくに原子力潜水艦の共同開発)、非核三原則を修正して核シェアリングの推進、さらには河野太郎が勝手に中止したイージス・アショアの修正・再開(海上自衛隊の戦艦に搭載するようであるが陸地に配備すべき)、セキュリティ・クリアランス強化による米国などの諜報機関との連携強化などが不可欠となる。

 これらを総動員して初めて中国や北朝鮮やロシアに対する抑止力となるが、もはや一刻の猶予もない。国内の反対勢力は中国や北朝鮮に逃げて守ってもらえばよい。

 岸田首相は「やっと」退陣してくれるようであるが、このままだと「より中国寄り」の政権が出来てしまう。残された時間は「さらに」少なくなっている。