有事の際の自衛隊指揮権はどこにある? 【3回目】
有事の際の自衛隊指揮権はどこにある? 【3回目】
前回は、自衛隊にとっても日本にとっても最大の脅威となる中国人民軍について、中央軍事委員会主席でもある中国共産党トップとの暗闘の歴史と、とくに人民解放軍に構造的に蔓延る(はびこる)汚職の構造について解説した。
要する独裁者となった習近平でも、まだ人民解放軍を完全に支配できているわけではない。所詮は中国共産党と国民党軍を祖とする人民解放軍は「水と油」で、(人民解放軍に限らないが)中国の汚職とは「人を入れ替えても」奪うものがある限り無限に続くからである。
この状態は、日本の中枢を含む「ありとあらゆる」ところに入り込んでいる中国共産党の各種工作と相まって、自衛隊にとっても日本にとっても、より真剣な対応が必要となる。
そこで今回は、もう少し視点を広げて中国(人民解放軍)に限らず世界の軍事情勢を見回して、現時点で自衛隊および日本が置かれている「致命的な状況」について解説する。そしてここから自衛隊および日本が採るべき戦略を絞り込む。
マスコミが必要な情報を伝えないため、迫り来る危機を認識できていないからである。
その1 世界と中国が保有する核兵器(核弾頭)
ストックホルム国際平和研究所によると、2024年1月1日現在の世界の核保有国(9か国)が保有する核弾頭総数は前年から391発減って1万2121発となっている。総数が少し減っている理由は、主に米国とロシアで製造から年数が経過した核弾頭を少しずつ破棄しているからである。
実は、この核弾頭総数にはあまり意味がない。全世界を10回以上絶滅させてしまう数字だからである。
それでも国別の保有する核弾頭数を挙げておくと、ロシアが5580発、米国が5044発、中国が500発、フランスが290発、英国が225発、インドが170発、パキスタンも170発、イスラエルが90発、北朝鮮が50発となる。
このうち中国は前年の410発から90発も増加しており、2030年には1000発を超えると想定されている。また北朝鮮も前年の30発から20発増加しており、近いうちに最大90発まで増加すると想定されている。つまり日本の「隣国」である中国と北朝鮮が、近年とくに活発に保有核弾頭を増加させている。
核弾頭1発の破壊力には差があるが、押しなべて広島型の15~25倍とされる。
これら9か国以外では、NATOの4か国(ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ)が各15発・計60発を米国と核共有(核シェアリング)しており、実質的に核保有国となる。これとは別に米国はイタリアとトルコに各20発を配備している。
2018年にトランプがイランとの核合意(核開発の速度を緩める条件で経済制裁を解除するものでオバマが2015年に締結)から離脱したため、再び核開発を加速させたイランは「核保有の一歩手前」とされる。トランプは「どうせイランは核開発を止めないなら経済制裁の復活を優先させるべき」と考え、バイデンも継続している。
南アフリカはかつて核保有国だったが1990年に放棄している。このように核開発・製造は材料のウラン235やプルトニウム、それにウラン濃縮設備等があれば「それほど」難しい技術も多大なコストも必要ではない。だから北朝鮮のような低開発国でも核開発・製造が続けられる。
旧日本軍も第二次世界大戦中に核実験に成功していたとされており、日本は現在でも技術的には「簡単に」核開発・製造ができる。
それではなぜ「もっと多くの国」が核開発に走らないのか?
それは1970年に発効した「核兵器の不拡散に関する条約(以下、NPT)」により、その時点の核保有国である米国、旧ソ連(当時)、フランス、英国、中国、以外への核兵器の拡散を防止しているからである。
現在のNPTは日本を含む121か国・地域が加盟しており、未加盟のインド、パキスタン、イスラエル、それに1992年に実質脱退した北朝鮮が堂々と核開発・製造を続けている。またイランは旧王政時代に加盟していたため、核開発疑惑が出ると経済制裁されている。
ここで重要なのは核保有国の核弾頭数ではなく、実戦配備された(つまりミサイルに搭載されるなどで発射準備が完了している)核弾頭数である。
2大核保有国である米国とロシアは、2011年2月に新たに合意した戦略核兵器削減計画(新START)によって、実戦配備された(射程が5500km以上のミサイルに搭載された)核弾頭総数を、それぞれ1550発以下に制限している。また米ロとも新START対象外となる射程の短い核弾頭を含めれば1700発以上を実戦配備している。
現在の新STARTは2021年2月に5年間延長されているが、2022年2月に始まったウクライナ戦争による米ロ緊張激化の影響で2023年3月から新START順守のための相互情報提供が停止されたままである。このままでは(とくに軍産複合体寄りの民主党政権が続けば)2026年2月に失効する新STARTの延長は絶望的となり、世界中で(とくに中国と北朝鮮で)核開発競争が加速することになる。
米ロ以外の核保有国の実戦配備された核弾頭数は「よく」わからない。どの国にも上限数の順守ルールも公表義務も存在しないからである。ただストックホルム国際平和研究所は2024年に「初めて」中国の実戦配備された核弾頭数を24発と推定したが、実際はそれより「はるかに」多いはずで、その大半が日本と台湾に照準を合わせていると考えるべきである。
その2 世界と中国が保有する核弾頭運搬手段とは?
核弾頭運搬手段と書くとアナログ的に聞こえるが、要は核弾頭を搭載して遠くまで飛ばす手段のことで、弾道ミサイル(BM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機などが含まれる。それらを合計して新STARTでは(射程が5500km以上のものだけ)米ロそれぞれの上限が設定されている。
ちなみにこの5500kmとは、冷戦時代の米国北東部海岸線と旧ソ連の北西国境線を結ぶ最短距離のことで、お互いの国土を核攻撃する手段を制限した「名残」である。
従って近年でも、核弾頭を搭載して射程が5500kmを超える大陸間弾道ミサイル(ICBM)と、そのICBMを大量に装備したまま海中を移動する戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)が、最も重要な核兵器となる。米ロとも新START上限の1550発は、すべてSSBN搭載分である。
これは現時点において「世界で最も重要な核兵器」とは、ICBMではなく、戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)であることを意味する。大量の核弾頭を搭載したICBMを多数装備できるほど大型で、長期間浮上せずに潜航できるには通常動力型潜水艦では不可能で、パワーがほぼ無限で酸素も水も自力供給できる原子力潜水艦(以下、原潜)が必要となる。
先ほど核開発・製造には「それほど」難しい技術も多大なコストも不要であると書いたが、逆にこれら核弾頭運搬手段には多大な技術と長期の開発時間と膨大なコストが必要となる。だから北朝鮮が保有核弾頭数は増やせても、それを遠くまで(例えば米本土まで)飛ばせる手段が完成していないため、ミサイル発射実験を繰り返すことになる。
逆に中国から台湾と日本、また北朝鮮から韓国と日本では距離が短いため、簡単に核弾頭を実戦配備して照準を合わせることが可能となる。これが日本と台湾の抱える「地勢学リスク」である。中国からの距離だけなら台湾が最もリスクが高いが、日本は中国、北朝鮮、ロシアという核保有の独裁国家に取り囲まれており「世界で最も地勢学リスク」が高い国であることを認識しなければならない。
従ってバイデンの歓心を買うためだけに「遠方」のウクライナに巨額資金を提供して、安倍政権時代に「それほど不仲でもなかった」ロシアにわざわざ喧嘩を売った岸田首相の外交は「犯罪級」となる。今でもロシアは米国と並ぶ2大核保有国だからである。
もう手遅れであるが、誰か岸田首相に地球儀を送ってほしい。
話を戻して繰り返すが、現時点における核保有国は先述の9か国に米国と核共有しているNATOの4か国で、原潜を保有している国は米国、ロシア、フランス、英国、中国、インドの6か国である。
原潜には(先ほど出てきた)多数の核弾頭が搭載されたICBMを多数装備した「巨大な」戦略ミサイル原潜(SSBN)と、比較的小型で自由に動き回れて核弾頭を搭載していない攻撃型原潜があるが、原潜を保有している6か国はどちらも保有している。
つまり日本は「核兵器(核弾頭)も原潜も保有しないまま、中国、北朝鮮、ロシアといった核保有の独裁国家に取り囲まれてしまった事実」を、改めて認識する必要がある。
原潜は「軍事機密の塊」であり、その機密は同盟国同士でも公開せず、当然に日本にも公開されない。この唯一の例外となるAUKUSについては後述する。
ここからは現時点において「世界で最も重要な核兵器」である戦略ミサイル原潜(SSBN)について、もう少し保有6か国の現有勢力を確認しておく。その6か国には日本の隣国であるロシアと中国が含まれている。
その3 原潜保有6か国の戦略ミサイル原潜(SSBN)
6か国のうち、日本にとって最大脅威となる中国だけ別項目(次項)に回す。
繰り返しになるが、 戦略ミサイル原潜(SSBN)は多数の核弾頭を搭載したICBMをいつでも(どこに向けても)多数発射できる状態で海中を深く静かに潜航するため、地上から核弾頭を搭載したICBMを発射するより「はるかに」効率的である。敵国の衛星等で発射準備を察知されることもなく、目標まで(海中に限るが)密かに接近できるためより正確に発射できる。また戦略ミサイル原潜(SSBN)自体も、長期間(実際は90日程度)浮上する必要がないため、敵国から発見されて攻撃されるリスクが少ない。
米海軍は、核弾頭5発を搭載した射程約8000kmのミサイル24基を装備した戦略ミサイル原潜・オハイオ級を14隻保有する。オハイオ級原潜は全長170m、19000トンで、1隻で核弾頭120発(合計すると広島型の1800~3000倍)を搭載しているため、オハイオ級14隻だけで新STARTの上限に達する。オハイオ級はもともと18隻あったが、古い1~4番艦を射程の短いミサイルを搭載する巡行ミサイル原潜に転用して新STARTの規制外としている。
オハイオ級は1976年~1996年に建造されているが、最後の18番艦の建造費は75億ドル(現在の為替で1.1兆円)と天文学的である。2031年から順次就役予定の後継原潜・コロンビア級の建造費は1隻あたり91.5億ドル(同1.34兆円)とさらに高騰しており、12隻の建造予定の削減などが検討されている。
10万トンを超える米海軍の最新鋭原子力空母・ジェラルド・フォード級の建造費は130億ドル(同1.9兆円)である。戦略ミサイル原潜(SSBN)・コロンビア級が2万トンで91.5億ドル(同1.34兆円)なので、重量あたりの建造費でも原潜が空母の3.5倍であることになる。
いずれにしても米国は現在14隻の戦略ミサイル原潜・オハイオ級を大西洋とインド太平洋で展開しているが、メンテナンス機関が必要であるため常時8~10隻程度が就役しているはずである。米海軍最大の原潜基地であるキングズベイは大西洋側(ジョージア州)にあるため、大西洋側に重点配置されていることになる。
また米海軍は戦略ミサイル原潜(SSBN)・オハイオ級の他に、主に敵国潜水艦を狙う攻撃型原潜・ロサンゼルス級やバージニア級など、合計72隻もの原潜を就役させている。戦略ミサイル原潜に限らずすべての原潜の「現在位置」はトップシークレットで、同盟国の日本にも知らされない。
これは日本ではさまざまな妨害でセキュリティ・クリアランスがまだ本格運用されていない影響もある。ただ日本近海にいれば海上自衛隊が保有する国産最新鋭のP1対潜哨戒機が把握できているはずである。また戦略ミサイル原潜(SSBN)は「むやみに」動き回らず、1か所に留まっていることが多い。
次は日本が「わざわざ」喧嘩を売ってしまった米国と並ぶ「もう1つの」核大国ロシアである。
ロシア海軍の戦略ミサイル原潜(SSBN)は規模も核弾頭搭載能力もオハイオ級と遜色がない最新鋭のボレイ型を8隻就役させ、旧式のタイフーン型などから順次入れ替えている。ロシアの戦略ミサイル原潜(SSBN)は、カムチャッカ半島内側のオホーツク海と北極海のフィンランド国境に近いバレンツ海に分かれているが、最近はプーチンの意向で「やや」オホーツク海側に重点配備されているようである。
これはカムチャッカ半島の先端に近いルィバチにロシア最大の原潜基地がある影響もある。ルィバチは周辺も含めて軍関係者しか立ち入れない完全閉鎖都市である。またオホーツク海からでもバレンツ海からでも米国本土までの直線距離は「ほぼ」同じである。
ロシア海軍の戦略ミサイル原潜(SSBN)も基本的には動き回らないが、いわゆる北方4島近海は冬期も凍結しないため、最新鋭のボレイ型を含む「巨大な」戦略ミサイル原潜(SSBN)や、ヤーセン型などの攻撃型原潜が、ちょくちょく出没しているはずである。
これだけでもロシア海軍の重要軍事地域の南端にあり冬場も凍結しない海域にある北方4島が「絶対に」返還されないことになる。
何度でも言うが岸田首相は、そんな米国と並ぶ核保有大国で原潜大国でもある(攻撃型原潜も合わせて65隻を就役させている)ロシアにわざわざ喧嘩を売ってしまったのである。
次にフランスは戦略ミサイル原潜・ル・トリオンファン級を4隻、英国は同・バンガード型を4隻保有しており、やはり保有する核弾頭(フランスが290発、英国が225発)の大半が搭載可能とされる。こう書くとフランスも英国の保有する核弾頭の大半が実戦配備中となるが、実際はフランスのル・トリオンファンは常時2隻、英国のバンガード型は常時1隻しか就役しておらず(残りはメンテナンス期間ではなく就役外となる)、それだけ実戦配備の核弾頭は少なくなる。
ここでフランスも英国も「少なくとも」日本とは敵対していないと考えられているが、実はフランスはG7で唯一中国に近い国で、米国もフランスに基地を置かず、また共有する軍事情報を制限するなど警戒している。ここは最後にもう一度出てくる。
インド海軍も戦略ミサイル原潜・アリハント級2隻を所有しているが、ミサイルの射程が700kmと短く実戦配備とは見なされていない。またインドの原潜はロシアの技術支援を受けている可能性があり、もともとインドは米国や日本に近いわけではない。
インドの重要性を認識していた安倍元首相はモディ・インド首相に急接近して「開かれたインド太平洋構想」で中国に対峙しようと考えていた。トランプ政権時の2018年に米太平洋軍がインド太平洋軍に拡大された背景にも安倍元首相のアドバイスがあったはずである。
また安倍元首相は日本、米国、オーストラリア、インドの枠積み「クワッド」でも中国に対峙しようとしていた。またモディ首相は2022年9月27日の安倍元首相の国葬にも出席している(ハリス米副大統領も出席していたらしいが印象にない)。
せっかく安倍元首相が近づけたインドとの関係も、安倍首相が暗殺された後は、岸田首相が中国に「異常に」気を遣うため、すっかり「おろそか」になってしまっている。
その3 中国の戦略ミサイル原潜(SSBN)
そこで中国(人民解放軍)である。
2024年1月現在の中国は前年から90発増となる500発の核弾頭を保有しており、フランスや英国をはるかに凌駕している。そのうち実戦配置がどれくらいあるかは日本にとって(台湾にとっても)死活問題となる。ストックホルム国際平和研究所は2024年に「初めて」24発と推定したが、もっと多いはずである。
なぜなら中国共産党内で独裁的な立場を確立させた習近平は、その次のターゲットは世界制覇であり(国内経済の崩壊などは小事である)、その中でも中国内がまとまりやすい日本と台湾が主要ターゲットとなり、そのために核開発と同時に実戦配備を加速させていると考えた方が自然だからである。
人民解放軍ではミサイル搭載でも原潜は海軍所属で、地上配備のミサイルは「汚職まみれの」ロケット軍の管轄であるが、正確に言うとミサイル発射装置が設置され日本と台湾に直接対峙する東部戦区に所属するロケット軍の管轄となる。東部戦区トップだった何衛東が2022年10月の中国共産党大会で「異例の」中央軍事員会副主席に抜擢されている。これも中国(習近平)が日本と台湾に対する軍事攻撃を想定している明確な証拠である。
台湾の次が日本ではない。軍事戦略上、必ず台湾と日本が同時に攻撃される。
そこで中国の実戦配備された核弾頭数を推測する必要がある。見てきたように米国、ロシア、フランス、英国は、実戦配備している核弾頭の「ほとんど」を戦略ミサイル原潜(SSBN)に搭載している。
中国の戦略ミサイル原潜(SSBN)は、旧式の夏級1隻だけだったが、2007年から新鋭の晋級を順次就役させて現時点で6隻としている。また2030年から最新鋭の唐級を投入する予定とされているが、開発が進んでいるとは聞かないため、そのまま晋級を8隻まで就役させることになりそうである。
ところが旧式の夏級と晋級でも最初の2隻あたりまでは運航時の騒音が大きく使用に耐えないため、就役中の戦略ミサイル原潜は晋級の最大4隻だけとなる。必ずメンテナンス期間が必要であるため、常時2隻しか就役できないことになる。
就役中の晋級は全長135m、12000トンで、米国のオハイオ級、ロシアのボレイ型より「かなり」小さく、フランスのル・トリオンファン級、英国のバンガード型よりも「ひとまわり」小さい。小さいということは大型化を含めて技術的に遅れており、同時に運航時の騒音も最小化できていないことになる。
また晋級は1隻あたり12基のミサイルを備えているが射程が4000kmと米国・オハイオ級の半分しかない。この辺から中国は戦略ミサイル原潜・晋級のミサイルに多数の(100発以上の)核弾頭を搭載し、すべて実戦配備させているとは考えにくい。
また中国人民解放軍の長距離ステルス戦略爆撃機「轟」にも核搭載機能があるとされるが、やはり中国の核弾頭の大半は(300発以上は)地上設置の(あるいは移動式の)発射台によるミサイルに搭載されることになる。だとすると衛星から燃料注入など発射準備を発見されて攻撃されるリスクが大きく、そこにも多数の核弾頭が搭載(実践配備)されているとも考えにくい。
そう考えると中国が保有する核弾頭500発のうち、実戦配備は「それほど」多くないとなるが、それでも日本にとっては何の解決にもならない。極論すれば1発でも十分だからである。また中国は2022年8月のペロシ下院議長(当時)の訪台時に、その地上発射台から沖縄県・先島諸島に向けてミサイル9発を発射し、うち5発がEEZ内に着弾している。「まさか(そこまでやらないだろう)」が通用しないのが中国共産党である。
その時の岸田内閣は例によって何の抗議もせず、国家安全保障会議(NSC)すら招集せず、わざわざ予定外の内閣改造まで行ってマスコミのミサイル報道を抑え込んでいた。そんな岸田首相は「やっと」退陣してくれるが、中国からの各種工作で「もっと親中」の政権が誕生する恐れも十分にある。米国大統領選で民主党候補をバイデンからハリスにすげ替えるよう工作したことと同じである。
話を中国の原潜に戻すが、中国は戦略ミサイル原潜・晋級に加えて、攻撃型原潜・漢級(旧式)3隻と、2006年以降は改良型の商級8隻が就役しているが、少なくとも漢級3隻と商級の最初の3隻は運航時の騒音が大きすぎて使用に耐えない。
結局のところ何とか使用に耐える中国の原潜は、戦略ミサイル原潜・晋級4隻と攻撃型原潜・商級5隻となるが、その「数少ない」原潜のうち商級1隻が2023年8月に朝鮮半島西側の黄海で米英など西側の潜水艦を補足するために仕掛けたトラップに自ら嵌って沈没し、乗組員55名全員が死亡したはずである。
もちろん中国は何の発表もしていないが、海底で原子炉が壊れて深刻な放射能漏れを引き起こしている恐れがある。ちょうど中国が福島原発の処理水を「汚染水」と騒ぎ出した時期と符合するため、実際に放射能漏れとなっているはずである。こういう「あからさまな」隠匿・すり替えを行うのも中国共産党である。
ここまで出てきた原潜の名前である(就役が古い順に)夏、漢、晋、商(殷のこと)、唐は、すべて中国の過去の王朝名であるが、なぜか順序が滅茶苦茶である。
さてここまで大変に長々と、中国とその他核保有国の現有戦力(とくに核弾頭と原潜)を中心に書いてきた。もう少し簡潔にするつもりだったが、ここから書く自衛隊をはじめ日本の採るべき戦略を「より」真剣に考えて頂くためにも、あえて長文のままとした。
それでも1つだけ潜水艦(原潜)ネタを付け加えておきたい。
映画界には「潜水艦モノに外れはない」との格言がある。閉鎖された狭い空間でギリギリの駆け引きや人間模様が描かれるからであり、実際に数多くの名作がある。
代表作として、ショーン・コネリー主演の「レッドオクトーバーを追え」(1990年の米国映画)、ハリソン・フィードとニーアム・リーソン共演の「K-19」(2002年の米国映画)、日本映画では(アマゾン・プライム製作であるが)大沢たかお主演の「沈黙の戦艦」(2023年)を挙げておきたい。
そこで「やっと」結論に移る。
その4 それでは自衛隊を含む日本はここから「どうする」べきか?
ここからは現実論である。9月27日に自民党総裁選があり新しい首相が決まるようであるが、見ている限り(また詳しく取り上げるが)ここまで危機感のある総裁候補は少なく、岸田政権以上の「親中」政権となる恐れも強い。
いくら「親中」政権となっても、習近平は「取るものは」取りに来るため、日本の軍事的脅威は全く軽減されない。日本の政治家や官僚を含む親中派は「中国に尽くしても切り捨てられるだけ」を歴史から学ぶべきである。
そして日本政府がアテにできないなら、自衛隊だけでも声を上げるところは上げ、行動に移せるところは移してほしい。別に軍事クーデターが必要と言っているわけではない。日本には倒す価値のある「本物のワル」などいないからである。
具体的な対策は以下の3つ「だけ」である。
最初が「ウクライナへの資金提供をすぐに止めてロシアとヨリを戻す」である。実はこれが最重要で、この後の対策にも関係するためじっくりと解説するが、もちろん簡単なことではない。
岸田首相は2021~2022年に121億ドル(現在の為替で1.75兆円)もウクライナに資金提供しているが、さらに2024年6月にはウクライナと向こう10年間の資金を含む各種支援を提供する協定を締結し、2024年の「半年分」として45億ドル(同6500億円)を支払っている。
これらはすべて岸田首相がバイデンの歓心を買うためだけに「日本国民に全く説明せず、議会承認も得ず、勝手に決めたもの」であり、すでに資金だけで166億ドル(同2.4兆円)も提供済みである。
能登地震の被災者への財政支援はやっと2024年度予算が承認されて総額7700億円となっただけで、日本を守るべき防衛費の増額も1兆円は増税で賄えと財務省に指示されている中で、遠く離れたウクライナへは巨額資金が国会承認なして提供されている。
岸田首相は残る9年半で、どれだけの巨額資金をウクライナに提供すると約束しているかも一切国民への説明がないまま、政権を降りることになった。このウクライナへの「これからも含めた」巨額資金提供は「なぜか」財務省が了承しているため(退官した神田財務官など財務官僚が何度もウクライナを訪問している)、岸田首相が交代しても米民主党政権が交代しても、この巨額資金援助は「これからも」続くことになる。
何度も書いてきたが、この岸田首相と財務省の「背信行為」は「わざわざ」核大国でありかつ日本の「隣国」のロシアに喧嘩を売ってしまった。明確に日本と敵対する中国、北朝鮮といった核保有の独裁国家陣営から、ロシアだけでも切り離さなければ本当に日本が核攻撃で消滅してしまう。
そのためにはウクライナへの「これからの資金提供」だけでも打ち切る必要があるが、岸田首相といえども日本のトップだったので「もう辞めましたので約束していた資金提供も打ち切ります」とはならない。
それでは岸田首相が約束していた「これからの資金提供」とはいくらなのか?
米国議会(下院)が2024年4月20日に総額608億ドル(同8.8兆円)もの対ウクライナ追加軍事支援のための緊急予算案を311:112の大差で可決・承認している。この予算案は軍産複合体の意向を受けたバイデン政権が2023年の年末から議会承認を得ようとしていたものであるが、野党・共和党が多数を占める下院ではトランプが強硬に反対しており、与党・民主党も保守派の一部が反対していため、「絶対に」承認されないと考えられていた。
ところが岸田首相が4月8~14日の日程で米国から国賓待遇で招待され、同11日に連邦議会上下院合同会議で演説したあたりで雰囲気が変わる。岸田首相の演説内容も「米国は与野党が協力して危機(ウクライナのことらしい)に対応すべき」といった上目線で違和感のあるものだった。
要するにその時点では首相をあと何年でも続けるつもりだった岸田首相は、米国からの国賓待遇の招待に舞い上がり「それくらい(608億ドル)なら日本が出しますから、これからも与野党が仲良くして危機(ウクライナのこと)に対処して下さい」と得意げに議会演説したことになる。つまり岸田首相一行の米国滞在と大統領晩餐会の「請求書」が608億ドル(8.8兆円)だったことになり、4月時点のドル円は155円前後だったため、その為替なら9.4兆円である。
つまり岸田首相が約束し、なぜか財務省も了承したウクライナへの「これからの資金提供」が608億ドルで、6月に半年分として45億ドルを支払ったことになる。
それではこの608億ドルを(最初の半年分の45億ドルを差し引いた563億ドル=8.2兆円かもしれないが)どう打ち切る?
日本からの巨額の資金提供は「結局は」米国の軍産複合体に還流するため、そのまま軍産複合体からの武器その他の購入に置き換えればいいだけである。それもこれまでのように米国で余っている武器を「とんでもない言い値」で買うのではなく、日本にとって絶対に必要な武器その他を軍事機密込みで「正当な価格」で買う交渉が必要となる。
具体的に何を買うかが、この後の具体的な対策となる。
これは米国の軍産複合体にとっても超大型案件であり日本の意向も受け入れられるはずで、何よりも中国、北朝鮮といった核保有の独裁国家への抑止力となり、もう1つの核大国であるロシアを引き離せるはずである。
そこで2番目の具体的な対策は「米国から核共有で数十発の核弾頭を搭載可能なミサイルと発射装置と防御システム込みで導入し、中国と北朝鮮に向けて実戦配備する」である。その費用はウクライナに提供する予定だった資金を使うため、財務省も文句が言えないはずである。
NATOの4か国の前例があるため核共有はNPT協定に違反しているわけではない。日本の非核三原則も法制化されているわけではない。あとは日本に蔓延する「核アレルギー」であるが、これは中国、北朝鮮、(ロシア)といった核保有の独裁国家の核を含む脅威は回避できないところまで来ているため、その脅威を軽減するための「日本と日本国民を守るための措置」と何度も説得するしかない。
マスコミが必要な情報を報道しないため、国民がこの「迫りくる危機」を全く認識していない。まずここから変えていくしかない。どうしても核の実戦配備を実力で阻止する動きも出るはずであるが、これも実力で阻止するしかない。
もし中国や北朝鮮からの工作員が実力で妨害すれば、今度こそ外患誘致罪で拘束する。罪状は死刑だけである。
ここで導入するものに「防御システム」が含まれているが、これは2020年6月に当時の河野太郎・防衛相が「一方的」に打ち切ったイージス・アショアの再利用である。
河野太郎が打ち切っただけで米国に対してキャンセルできているわけではない。防衛省も膨大なキャンセル料を支払わないために、何と駆逐艦に搭載しようとしているが「動くもの」の上で正確に作動するはずがない。それを(できれば)さらに改良して、本来の陸上設置として再利用するだけである。足りなければ追加発注すればよい。
そして3番目の具体的な対策は原潜の導入である。原潜は「軍事機密の塊」であり同盟国にも公開されないと解説したが、その唯一の例外が2021年9月に米、英、オーストラリアの首脳が突然公表したAUKUSである。
要は米、英の原潜に関する軍議機密をオーストラリアに提供して攻撃型原潜を共同開発するというものである。それまでは米英間でもお互いの原潜に関する軍事機密を公開していなかった。それだけオーストラリアに対する中国の脅威が大きかったことになるが、それまでのオーストラリアがフランスから通常動力型潜水艦を導入することになっていた(その前に契約していた三菱重工がキャンセルされていた)背景もある。要はフランスから中国にオーストラリア潜水艦の情報が洩れることを米、英は懸念したはずである。
以前も書いたが、米国はフランスを信用しているわけではない。また英国とフランスも長い対立の歴史がある。
つまりAUKUSの前例があるので、日本も米、英から原潜の「軍事機密」を提供されて共同開発しようというものである。さすがに建造費が1兆円を大きく超える戦略ミサイル原潜(SSBN)は必要ないが、日本が「それより小型で核弾頭を搭載していない」攻撃型原潜でも保有すれば、間違いなく中国に対する抑止力となる。北朝鮮はまだ原潜を所有していない。
要するに、日本に無かった核兵器(核弾頭)と原潜を所有して「初めて」中国、北朝鮮に対する抑止力となり、そのためにウクライナへの資金提供を打ち切ることによりロシアの脅威を引き離すことができるというのが具体的な対策である。資金はウクライナに「これからも」提供することになっていた分を転用するだけで、追加負担はない。
情勢は日本の自民党総裁選と米国の大統領選の結果によっては「まだ」変更が必要となると思われるため、この次は自民党総裁選と米大統領選の「直前情報」です。