中国が金融緩和を突然発表

中国が金融緩和を突然発表 


その1 何が起こった?


 9月18日にFRBが0.5%の利下げを発表し、世界の金融緩和が加速する中で、中国人民銀行(中央銀行)は9月20日に政策金利である最優遇貸出金利(LPR)の据え置きを発表していた。

 LPRは企業向け貸出金利の基準となる1年物が3.35%、住宅ローン金利の基準となる5年物が3.85%で、最近では2023年6月、8月、2024年7月にそれぞれ0.1%ずつ引き下げられていた。

 「これまでの」中国人民銀行の利下げは「せいぜい」0.1%を年1~2回、人民元の対ドル相場は2024年7月の1ドル=7.27人民元の安値から9月20日には7.05人民元と逆に上昇している。利下げが近づいた米ドルの下落を打ち消して人民元の価値を維持しようとしている。

 経済が低迷する中で金利と人民元の水準を「高め」に維持する理由は、国内資金の海外流出を食い止めるためでもある。

 そもそも独裁者となった習近平は経済オンチである。中国では経済政策はNo2である首相の権限であるが、習近平は李克強・元首相を追放した上に謀殺し、後任首相に「忠誠心だけで極めつけの無能者」である李強を起用している。当然に誰も経済政策で習近平に意見できるはずがない。

 ところが9月24日になって、今度は中国人民銀行が一転して幅広い金融緩和措置と不動産支援策を発表した。

 具体的には銀行の預金準備率を0.5%引き下げ、金融機関向け資金供給である7日物レポ金利を1.7%から1.5%に引き下げ、既存を含む住宅ローン金利を0.5%引き下げるとともに2軒目以降の頭金の25%を1軒目と同じ15%に引き下げる。

 預金準備率の引き下げは2024年1月に続くもので、単純計算で約1兆元(20.4兆円)の資金が新たに市中に供給される。また政策金利であるLPRは9月20日に据え置きと発表しているため、臨時で引き下げるかどうかは不明であるが0.20~0.25%の「大幅引き下げ」に相当する。

 このニュースを受けて24日の上海株価指数は114ポイント高(4.1%高)の2863ポイント、香港のハンセン指数も753ポイント高(4.1%高)の19000ポイントと、ともに急騰している。上海総合指数の本年高値は5月20日の3171ポイントでまだ距離があるが、ハンセン指数は本年高値(同日)の19636ポイントに接近している。

 ところが24日の人民元相場は1ドル=7.03人民元と、20日の7.05人民元より高くなっている。まだ1日しか経っていないので断定はできないが、中国当局は国内金融を緩和して人民元は割高に維持するつまりである。

 それでは「いったい」誰がこの絵を描いたのか?

 習近平本人でないことは明らかである。習近平には、そんな知識も、中国人民のために経済を回復させる必要も感じていないが、そんな習近平にこの金融緩和を了承させられる「誰か」がいるとも思えない。

 さらに国内金融だけ緩和して人民元を割高に維持しているのは「ひょっとしたら」2015年8月の「中国ショック」の再現を避けるためかも知れない。

 「中国ショック」とは、中国が2015年8月に金融緩和と人民元の引き下げを同時に実施した結果、中国株式と人民元のさらなる急落となり、世界的な株価急落を招いてしまったことを指す。順調に拡大を続けてきた中国経済が躓く(つまずく)最初のきっかけとなったが、当時も共産党トップは2012年11月に就任した習近平である。

 もちろん習近平はそんな記憶もないはずであるが、「誰か」が覚えていたかもしれない。ただ当時は世界中の経済と株式市場が低迷しており、2016年1月にもう一度同じような「中国ショック」に見舞われている。

 現在は、むしろ中国の経済と株式市場が最も低迷しており、また欧米も金融緩和に向かって通貨に引き下げ圧力がかかる中で、人民元だけ「無理やり」割高に維持する方が危険のような気がするが、それでもその「誰か」が思い当たらない。 

 その「誰か」もそのうち分かるかもしれないが、場合によっては習近平の指導力に陰りが見えている可能性もある。


その2 中国の経済とくに為替政策を少し「おさらい」しておく


 もともと中国は、香港が返還された1997年7月以降、香港ドルを米ドルに連動させる仕組みを「そっくり」真似て中国経済の発展を加速させる。

 香港ドルは1983年から1ドル=7.8香港ドルで固定されており(2005年から現在の1ドル=7.75~7.85香港ドルとなる)、香港上海銀行など香港ドルの発券銀行は必ず香港ドル発行残高に見合う米ドルを香港通貨管理局に預託していた。この仕組みは現在も変わらない。

 そうすることにより香港ドルは米ドルと同じ信用力を持ち、米ドルと価値が連動し(目減りしない)、米ドルとほぼ同じ金利(正確には0.5%高い)で取引される。ところが当時の香港は成長力もインフレも米国より高かったため、香港ドルを借入れて例えば香港の不動産に投資すると必ず米国より高い収益が得られるが、香港ドルは米ドルに対して目減りせず(つまり不動産などの価値も目減りせず)、金利負担はほとんど米ドルと同じである。

 この「魔法のような仕組み」で香港経済はずっと高い成長を維持してきた。

 そして中国はこれを「そっくり」真似る。しかも「どさくさに紛れて」人民元を貿易用優遇レートに近い1ドル=8.28人民元で固定してしまう。それまでの公定レートは1ドル=5.7人民元だった。当然に割安な人民元で中国貿易収支は大幅黒字となり、投資機会を求めて世界中から資金が集まってくる。つまり中国に外貨(ほとんどが米ドル)が積み上がる仕組みである。 

 さらに中国は、香港ドルのように人民元発行残高に見合う米ドルを「どこかに」預託する代わりに、割安に設定した人民元相場で積み上がる外貨(ほとんどが米ドル)を中国人民銀行が一元的に買い上げて、国内に見合いの人民元を大量に供給して国内経済を発展させる。

 つまり流入する外貨は外貨準備として中国人民銀行に集中されるため、人民元が米ドルを裏付けに発行されることに近くなり、その結果、中国の国内金利は米国並みとなり、中国経済は(ドルに連動する人民元は目減りしないため)ほかの新興国のようにインフレや自国通貨の目減りに苦しむことなく、未曾有の経済発展を実現してしまう。

 しかも2005年5月から人民元の対ドルレートを徐々に切り上げたため、貿易黒字に加えて投資・投機の資金流入が加速して外貨準備がますます積み上がり、見合いで供給される人民元も急増して中国経済の発展にも拍車が掛かる。

 その辺をスピード調整するために人民元の対ドルレートの切り上げを加速させ、また中国内の銀行には見合いで入る人民元で積み上がる預金の一部を預金準備として中国人民銀行に吸い上げてインフレを防ぐ。人民元の対ドルレート調整と、預金準備率操作が重要な金融政策となる。

 つまり当時の中国経済とは米ドルの信用力を「そっくり」利用して急拡大しており、2010年にはGDPで日本を追い抜いて世界2位の経済大国となる。まさに「なりすまし」天国である中国の真骨頂である。

 この「なりすまし」効果のピークは2014年前半で、人民元の対ドルレートは一時1ドル=6.04人民元、預金準備率は21%、外貨準備は6月に4兆ドル一歩手前となる。また当時は中国人民銀行の総資産の85%が外貨準備など外貨資産となり、まさに人民元の「ドルなりすまし」も完成していたことになる。

 そしてこの「なりすまし」効果のピークの少し前である2012年11月に習近平が中国共産党トップとなる。ちなみに第2次安倍政権のスタートは「ほとんど同時期の」2012年12月である。

 そして「あれだけ」絶好調だった中国経済が、2015年8月と2016年2月に中国株式と人民元が同時急落する「中国ショック」に2度も見舞われ、世界の株式市場も急落してしまう。

 「中国ショック」の背景は、あれだけ好調だった中国経済とくに製造業の活力に陰りが見え始めたことや(急激な人民元高も影響したはずである)、あれだけ加速していた海外からの資金流入が鈍り始めていたことや、お決まりの共産党幹部による汚職が活発化して外貨横領と不正送金が目立つようになっていたことや、経済オンチの習近平が問題の本質を見抜けなかったなどによる「複合要因」である。

 その後の中国経済は基本的に悪化する一方であるが、直近(2024年8月)の外貨準備は3.3兆ドルとなり、預金準備率は今回0.5%引き下げで中国の銀行全体を加重平均して8%以下となりピークだった21%の3分の1ほどとなる。また中国人民銀行の総資産に占める外貨準備など外貨資産の割合も50%あたりとピークだった85%から大きく落ち込む。

 これは言うまでもなく発行される人民元に対する資産(とくに外貨資産)の割合が著しく低下することになり、せっかく「ドルになりすました」人民元が裏付けの乏しい新興国通貨に近づくことを意味し、中国経済に対する総合的な信用が棄損されていることになる。

 それと直接の関係はないかもしれないが、人民元の対ドルレートも何度か上下に変動して2023年9月には一時1ドル=7.35人民元まで下落する。中国が人民元を下落させたくない理由も、人民元の信用力棄損を気にしているからかもしれない。

 繰り返しになるが、経済オンチの習近平には「この辺の」判断はできず、やはり「誰が」絵を描いているはずである。

 最後に「もっと」深刻な事実を付け加えておく。

 先ほど直近の中国の外貨準備が3.3兆ドルと書いたが、それだとピークだった2014年の4兆ドル弱から「危機的に」減っているわけではない。

 しかし中国の外貨準備は、低開発国での開発失敗や共産党幹部の汚職などで「かなり」消えているはずである。ここは以前から不思議に思っているが、どうも中国の外貨準備は開発資金など「簿価」で計上したままで、共産党幹部の汚職も対外資産を「そのまま」横領しているため計上されたままであると考える。

 つまり中国の外貨準備とは「あったことになっているが、とっく消えている部分」がかなりあるはずである。その証拠に中国の外貨準備はドルの比率が高いはずであるが、普通は外貨準備の大部分を占める米国債の保有残高が直近で7600億ドルしかない。しかもこの数字は(少ないと思うが)中国の民間保有分を含む。

 いずれにしても中国人民銀行が発行する人民元の裏付けとなる米国債など優良外貨資産は、外貨準備とされる3.3兆ドルより「はるかに」少なく、「ドルになりすました」はずの人民元の価値は「もっともっと」劣化していることになる。

 それはすなわち米ドル(つまり米国の)信用力を「勝手に」利用して大きくなってきた中国経済に対する信用が根底から崩れることを意味する。だから中国経済からは「一刻も早く」逃げ出すべきである。

 実は歴代の米国大統領も封印してきた有効な「中国破壊作戦」がある。それは米ドルと人民元の交換を停止することで、人民元が一瞬で新興国通貨に格下げとなり、同時に人民元との交換に依存しているロシアや北朝鮮も同じ運命となる。

 まあその時は核戦争になるかもしれないが、実は米国大統領は特定国に向けたドルの交換停止を一度だけ発動している。

 それが1991年12月25日の旧ソ連消滅に際して、時のブッシュ(父)大統領が当時のゴルバチョフ・ソ連大統領に突きつけたが、実際はそれでゴルバチョフが降参して旧ソ連は消滅したため実施されていない。それでも核戦争にならなかった。