【落語遠征】大名古屋らくご祭2023
■順番の問題
落語遠征と温泉旅行は、この順番に限る。
落語で笑った後なら、見知らぬ温泉地で迷子になっても落ち込まない。
そして笑い疲れも迷子疲れも温泉で癒せるのだ。
だが今回私の日程は、温泉が先で落語が後だった。
12/21(木)下呂温泉そして12/22(金)、23(土)、24(日)が大名古屋らくご祭という順番である。
あからさまに失敗だった。
何故今回落語を後にしたかと言えば、12/25(月)がクリスマスだったからである。
いや、別に私はクリスチャンではない。
ホテルや旅館がクリスマス料金で割高になるのだ。
きっとお宿はカップルで満員御礼。
うじゃじゃけた声を聞かせられるに違いない。
という懐具合と妄想とで温泉を先にしたのだ。
下呂温泉旅については先に記した。
12/22(金)
起き抜けに宿の岩風呂に浸かり、外湯のガーデンテラス露天風呂にも浸った。
それから特急電車に乗って下呂から名古屋に向かったのだ。
名古屋の宿は大須観音そばのホテルである。
そこに荷物を預けた後、スガキヤで玉子ラーメンの昼食をとる。
スガキヤのラーメンは名古屋人のソウルフードである。
クセになる味である。
意味不明なフォーク付きスプーンもまた名物?らしい。
ちなみに私はこの次の日、東山動植物園においてもスガキヤで肉ラーメンを食べた。
完全にクセになっている。
恐るべし名古屋めし。
土産にういろうも買ったしな。
それはともかく。
つまり私は朝から二度も温泉に浸かって電車に揺られ、昼にラーメンで腹一杯になった後、落語を聞きに行ったのだ。
そりゃ寝るだろう。
「聞く」というより「寝る」コンディションである。
完全に。
春風亭昇太、柳家喬太郎、三遊亭白鳥、林家彦いち。
いわゆるSWA(創作話芸アソシエーション)の四人である。
オープニングトークは確かに聞いた。
彦いち師匠が高座に上がってマクラを話したのも覚えている。
噺は覚えていない。
そうか「権助魚」をやったのか……。
昇太師匠の「時そば」も、上方版の二人出て来るタイプだったのは覚えている。
とてもよく受けていたのも夢うつつに聞いていた。
■携帯の問題
喬太郎師匠の「禁酒番屋」は最初から最後まで聞いた。
なのにこれは途中で携帯電話が鳴るという事故物件だった。
延々と鳴り続ける着信音に、喬太郎師匠は噺の登場人物に
「携帯が鳴っておるぞ」
などと言わせて、電源を切るように注意を促したのだ。
それなのに音は鳴り続け、止んだと思ったらまた鳴るのだ。
あれは一体何なのだろう?
自分の携帯電話が鳴っていると気がつかないのだろうか?
あるいは高齢で自分の携帯電話の音が聞き取れないのか?
ならば、そんな物持ち歩くな!!
斜め前のお客様など、わざわざ膝の鞄に耳を近づけて、自分の携帯電話が鳴っているのではないと確かめていたのに……。
落語はとかく雑に扱われがちな芸能である。
けれど実は、とんでもなく繊細な芸能である。
落語家の声や語りに集中して、聞く側が頭の中にイメージを描くのだ。
結果、笑ったり泣いたりできる。
噺を完成させるのは聞く本人なのだ。
そこに携帯電話の音など響いたら、
「誰が鳴らしているんだ!? さっさと切れ!」
などという思いに支配される。
たちまちイメージは雲散霧消。
落語世界は崩壊する。
つまり携帯電話は落語にとって最終兵器に等しいのだ。
一発で脳内焼け野原。
たとえ携帯電話でなくとも、イメージを崩されることは多い。
前の席の人がしきりに身動きする。
興味なさそうにチラシを眺めたりする。
そんな些細な動きでも、
「また動いた! 首が座ってない赤ん坊か! チラシなんか後で読め!」
と前の席の客に集中し始めてしまう。
落語のイメージどころではない。
いや。居眠りしていた人間が語るのも何ですが……。
トリの白鳥師匠の「富Q」は私の中で完全にどこかに消えた。
終わっても頭の中がぐらぐらする程に眠かった。
温泉の後に落語など聞くものではない。
今度こそ深く心に刻んだ。
夜の部が眠らずに聞けたのは、不幸中の幸いである。
■落語の神降臨
そして、12/23(土)昼から四階ホールで開催された若手落語会。
これはもう神回と言っても過言ではなかった。
午前中は東山動植物園を歩き回ってスガキヤの肉ラーメンも食べた。
けれど、眠気も吹っ飛ぶ熱演が続いた。
揃っておめでた尽くしの若手四人がしのぎを削る公演だった。
来春、抜擢の真打昇進披露興行がおめでたいわん丈さん。
新作落語「喪服キャバクラ」は特別バージョンだった。
登場人物は、わん丈さん本人と来年の真打披露興行の番頭役ごはんつぶさん。
噺の中に披露興行のチケット販売について織り込んでの熱演だった。
テレビ番組「探偵ナイトスクープ」で探偵役になっておめでたい二葉さん。
二葉さんは女性版白木みのると自称する程に甲高い声である。
ところで私は女性の甲高い声が苦手である。
ここは我慢して聞こう。
そう思っていたのだが、何故かとても聞きやすい。
発声に工夫でもあるだろうか?
高い声だがキンキン不快に響くことがない。
噺の進め方もとても面白い。
改めて評判の高い二葉さんの実力を知ったのだった。
そして今年、真打昇進が決まっておめでたい吉笑さん。
昇進披露公演は再来年頃だそうである。
これまた突飛な新作落語だった。
トリは今月誕生日でおめでたい小痴楽さん。
この小痴楽さんの「らくだ」が悪漢、いや圧巻だった。
余計なお世話だけど、ご存知ない向きのためにあらすじなど……。
長いから途中で終わる場合が多い噺である。
というか下品で悪趣味になりがちだから場面を省いて短くしたりする。
けれど小痴楽さんは、どこも省かず最後まで演った。
だって酔っ払った屑屋が、らくだの遺体(あ、らくだって渾名の男だよ。動物じゃないよ)を棺桶代わりの菜漬けの樽に無理やり納める場面があるんだよ。
これを省く噺家は多い。
昔の風習では、遺体を棺に納める前に剃髪するらしい。
坊主頭にするんだね。
そこで剃刀がない屑屋は、らくだの髪を手掴みでぶちぶち引き千切るのだ。
でもって、遺体が菜漬けの樽に入りきらないから、ばきぼき足や腕を折って詰め込んでしまうのだ。
文字にするだけでもおぞましい。
でも何故か小痴楽さんが演ると聞けてしまうんだな。
「らくだ」という噺は実に小痴楽さんの仁に合っているのだった。
小痴楽さんは、五代目柳亭痴楽の息子である。
いわゆる二世落語家である。
父上は早世したが、その友人である桂歌丸、三遊亭好楽など大御所に可愛がられて育っている。
私見だが柳亭小痴楽は、どの二世落語家より優れている。
〝漢気〟という点で。
誰よりもうまく親の七光りを利用している。
自分のためではない。
落語界のため、仲間や後輩たちのために。
(今は詳細は省くが)
いざとなれば水戸黄門の印籠よろしく五代目柳亭痴楽、歌丸さん好楽さんを使うのだ。
もし仮に私が小痴楽さんとクラスメイトだったなら。
決して目を合わせたくないタイプである。
でも高座で見るなら大丈夫。
漢気あふれる輩なのである。
まことに「らくだ」にふさわしい。
■さらば名古屋よ
最終日12/24(日)
私は昼の部のみ鑑賞して帰還。
さすがにこの日は寝なかった。
ご覧のように、笑点出演者が立て続けに出てトリが全国区のガッテン師匠という公演だった。
名古屋市公会堂大ホールはキャパシティ1,552席である。
私は二階席四列目という遥か彼方の席だった。
周囲のお客様は、テレビに出ている笑点落語家とガッテン志の輔を見ようという落語初心者が多い雰囲気だった。
あまりテレビに出ていない市馬師匠や花緑師匠(あさげの小さん師匠も今や遠く)は、なかなか苦戦していたようで気の毒だった。
だが、志の輔師匠は新作落語「ハナコ」で、この大ホールの隅々まで大爆笑に包んで高座を下りたのだった。
寄席に出演できないから、テレビに出たり一般のホールで腕を磨くしかない立川流である。
不利を利点に変えた底力を、まざまざと見せつけられた。
さすが立川流の中でも人気実力ともに頂点に立つ志の輔師匠である。
そうして私は名古屋公会堂を後にした。
大名古屋らくご祭遠征をすると、暮れも押し詰まった気分になる。
毎年のことである。
……と書いて、初参加がいつだったか気になって調べて見た。
2018年12/20(木)が初参加である。
やはり春風亭昇太、柳家喬太郎、三遊亭白鳥、林家彦いち、所謂SWAの四人を聞いた。
当時は金山にある日本特殊陶業市民会館での開催だった。
2019年12/19(木)も同じくSWAメンバーを日本特殊陶業市民会館で聞く。
2020年は不参加だった。
2021年12/24(金)もまたSWAメンバーを日本特殊陶業市民会館で昼夜通しで聞く。
そうして昨年、2022年。
12/23(金)名古屋市公会堂にてSWAメンバーの夜の部、古典アフター。
12/24(土)昼の部、若手落語会には、推しの三遊亭萬橘が出演していた。
以上、個人的記録でした。
どっとはらい。
※追記
冒頭写真は会場に飾られていたお人形。
SWAファンの方が作ったという。
昇太、喬太郎、白鳥、彦いちが円の中で回っている。
外には円丈師匠と柳昇師匠がいる。
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