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シブラクとライオン

3連休の中日、10/13(日)には〝渋谷らくご〟に行った。
漫才師であり辞書マニアであり大学講師でもあるサンキュータツオ氏がキュレーターを務める若者向けの落語会である。
通称シブラク。

若者向けであるからして、チケットはスマホで購入。それを提示して入場するわけである。
老眼BBAはスマホの文字を見るために受付で近眼鏡を老眼鏡にかけ直す騒ぎである。

会場はユーロスペースという映画館である。
従って寄席の椅子より上等な椅子がある。
ただ映画館であるからして薄暗い。
老眼BBAはつまずいたりしないように慎重に歩く。

何の何の。
苦しゅうない苦しゅうない。
若者が落語に親しむために開催されている会なのだ。

今日はたまたま推しが出演しているし他の予定もなかったから、若者ではないが来てみただけである。

実のところ渋谷の街はあまり好きではない。
いや正直に言えば、大嫌いである。

渋谷区民の皆様には申し訳ないが、あそこは尋常な街とは思えない。
特に駅前付近はもはや魑魅魍魎の住む街のようである。
いやハロウィン間近だからそう思うわけではない。

ラブホの隣に神社がある!

今回は地下鉄半蔵門線渋谷駅から行ったのだが、改札口を出るとあちこちに大きな案内図がある。

それを見るにつけ、まるで蜘蛛の巣に絡めとられたような街だと思うのだった。

いや、住民の皆様に対してあまりに失礼な物言いでした。
申し訳ありません。
田舎者の暴言です。

ユーロスペースに辿り着き、落語会場の中に入ってしまえば安心である。
その安堵感によるものか私ときたら、よりにもよって推しの噺の最中に一瞬の眠りに落ちるのであった。

気がつけば主人公は何故だか牢屋に入っていた。
何しろ会場が映画館だから薄暗い。
眠れと言わんばかりの状況である。

とか言い訳してる場合じゃない。

ともあれ落語会は終わった。
まっすぐ帰ってもよかったのだが、落語会の後はどこかでお茶をして落ち着きたい。
忘れないうちにスマホに感想を書き記すこともある。

今回立ち寄ったのは名曲喫茶ライオンである。
以前にも一度入ってとても居心地がよかったのだ。

何しろ名曲喫茶である。
お喋り禁止である。
客はただ喫茶と名曲鑑賞を楽しむだけの場所である。

Wikipedia先生によれば名曲喫茶とは、

日本においては第二次世界大戦後に流行し、コンポーネントステレオクラシックレコードが高価で個人購入が難しかった1950年代から登場し、1960年代に全盛期を迎え各地に開店した。

Wikipediaより

とのことである。

やがて高度成長期で各家庭でステレオが購入できるようになり、名曲喫茶は廃れて行った。

だが生き残ったのが渋谷は円山町の名曲喫茶ライオンである。

ライオン パンフレット

パンフレットにはこうある。

冷房完備

珈琲と立体名曲
アメリカの雑誌オーディオに当店の再生装置が写真入りで掲載になりましたので渋谷のライオンは世界的なライオンになりましたことを光栄に存じております。
(昭和三十四年)

昭和三十四年かぁ。
1959年ですよ。
〝冷房完備〟を誇らしげに謳ってますよ。
今時は〝冷房ありません〟が希少価値だったりするのに(するか?)。

コーヒーフロート

ここもやや薄暗く、BBAはまた老眼鏡を出してメニューを読む。
写真撮影は手元のみOKとのことだった。
実は撮影NGでも構わないと思っていたのだが。
こういうお店は独自路線を歩いてくれて構わない。

まあ、撮ったけど。

店内には時代の香りがついている。
椅子は表面の布がすり減って、クッションもへたっている。
はっきり言って座り心地は悪い。

でも、それでも、ここは静かなのだ。
クラシック音楽が響くだけである。

傍若無人な女たちのお喋りもない。
げはげは笑う男どももいない。
パソコンのキーボードをかちゃかちゃ鳴らすサラリーマンもウーマンもいない。

客はみんな黙っている。
本を読んでいる人もいる。
私は落語の感想をスマホに書いている。
癒される……。

ザーザーと雑音の入る古いレコードのクロイツェル・ソナタが終わる頃、店を出る。

ちなみにここではレコードが終わると、誰の演奏の何という曲のレコードかアナウンスがある。
それを聞く前に出てしまったが、かなり旧い演奏であることは確かだった。

名曲喫茶……癖になりそうである。
狂乱の街の一服の清涼剤。



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