愛と修繕の日々
ホームセンターで木工用ボンドを買って来た。
これでもう安心だ。
電話台の引き出しの底から、細い木片が剥がれ落ちたのは大分前だった。
(去年だったかも知れない)
大勢に影響はないと放っておいたのだが、数日来じわじわ不安が押し寄せて来た。
底が抜けたら厄介だ。
この不安は、玄関の鍵がうまく回らない事態から来ている。
数年前やはり玄関の鍵が回らず、施錠まで出来なくなったことがある。
この時は映画館の座席予約をしていた。
なのに、これでは出かけられないではないか!
あわてて大家に連絡して修理の手配をしてもらう。
その日のうちに鍵屋が来て直ったが、映画の予約は無駄になった。
今また玄関の鍵がうまく回らない。
施錠ができなくなったら大変だ。
とりあえず潤滑油などを差してみようとクレ556を買いにスーパーに走った。
クレ556を手に取ってから思い出した。
待てよ?
鍵穴にクレは禁忌!と小耳に挟んだことがある。
あわててスマホを出して検索する。
やはり。
鍵穴にクレ556など潤滑油は厳禁!とのことだった。
無駄に潤滑油を買うこともなく(実はこの時、木工用ボンドも買いたかったがスーパーにはなかった)家に帰ってググった対処法を試す。
以上を試したところ、効果てきめん!
鍵はすっと鍵穴に入り、回りも良くなった。
バンザイ!!
というわけで、修繕は早いに越したことはないと思い到る。
次は電話台の修繕だ。
木工用ボンドを買わねば!
けれど西友には置いてなかった。
私が住んでいるのは川ひとつ隔てて東京都。
所謂ベッドタウンとして人気の町である。
スーパーマーケットも多い。
西友、ダイエー、イオン、ヤオコー、OKストア、カスミ。
けれど、どこにも木工用ボンドは売ってなかった。
我が家からはかなり遠いホームセンター、ユニディでようやく見つけた。
自転車で片道二十分ほどかけて木工用ボンド一つを買って帰る。
こういうのを〝名もなき家事〟と呼ぶのだろうなぁ。
さて。
木工用ボンドを手に入れたとなれば、他にも直したい所はある。
箪笥の引き出しの内側の板が剥がれ掛けてる所とか、タオル用収納引き出しのダボが緩んでる所とか……。
自慢じゃないが、私は嫁入りをしていない。
大学入学のために上京して以来ずっと一人暮らしである。
(途中、兄や妹と同居したことはあったが)
独り暮らしの学生が真っ先に買うカラーボックスという家具。
実家から運び込んだ古い本棚、床頭台、折り畳みテーブル等々。
そんな安直な家具でずっと暮らして来た。
これではいけない!
と一念発起して電話台、箪笥、食器棚、ベッドなどの家具を買い揃えた。
この時は有料で配送と据え付けも依頼した。
一人ではとても動かせない家具だと思ったからさ。
(が、後々一人で動かす術を知る私である)
組立家具も仕入れた。
自分の身長より高い収納棚も必死で組み立てたものさ。
こんな時思い出すのは、知り合い達の言葉である。
「友達と一緒に組み立てた」
「男友達に組み立ててもらった」
そしてお礼にご馳走した云々。
ほーほーそーですか。
あいにく私には友達はいないのさ。異性同性かかわらず。
そして妬ましさと寂しさに打ちひしがれたわけだ。
が、今となっては「自分すごい!」と思うのさ。
マジ本当に女一人でやって来たからね。
サイドボードや箪笥、タオル収納棚もキッチン用キャスター付き三段棚、洗濯用のキャスター付き三段棚だって自分一人で組み立てた。
(キャスター付きが多いのは一人で動かせるようにである)
一人暮らしの生活を自分一人で整えた。
ざまあみろ!
嫁入りはしてないけれど、これでもう一生大丈夫だ!
と思ったのは早計だった。
私の手が出る家具は、もちろん桐や檜などではない。
何十年も使われるとは想定していない安価な家具に、過重労働を強いて来たわけである。
ブラック企業も真っ青だ。
そら、傷みもするだろうて。
しかし今時、電話台って……。
乗っているのはもちろん固定電話である。
所謂、家電。
今や電話はスマホが主流で、家電など解約する時代である。
なのに家電を乗せる家具を修繕するって、どうなんだ?
ああ、本当に時は流れたのだなぁと痛感する。
いや、いいから早く修繕しろよ自分。
木工用ボンドはもう手元にあるのだから。