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【温泉に来た】越後湯沢温泉
※3238文字
■2024年10/27(月)山の湯
新潟での落語遠征を終えて、越後湯沢駅にやって来た。
駅からタクシーで5分。
ザンザン降りの雨の中、共同浴場山の湯を訪れる。
タクシーを降りると、ちょうど二人のご婦人が入場されるところ。
なるほど主婦の手が空く午後二時である。
ひと風呂浴びた後、買い物や夕食の支度に働くのだろう。
ここはかつて「雪国」の作者である文豪川端康成が投宿していた旅館にほど近い外湯である。
たぶん川端も入浴したのだろう。
などというウンチクはどうでもいい。
山の上にあるので私は、狭く簡易な外湯を想像していたが、まあ何ということでしょう。
きちんと脱衣所と浴室がガラス戸で仕切られてカランもある(三つだったと思う)銭湯仕様。
ちなみに入湯料は¥500。
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脱衣所のガラス戸を開けて浴室に入ってもみれば。
小ぶりな浴槽からだばだばと湯があふれ出ている。
洗い場まで湯があふれかえっている。
何だかうっとりその湯を見つめてしまう。
実を言えば……温泉好きと言いながら私はつい最近まで〝掛け流し〟や〝循環〟の意味を知らなかったのだ。
温泉ソムリエの勉強もしたくせに。寝ていたのかな?
温泉関連の本を読みやっと知った〝掛け流し〟や〝循環〟の真実。
あっ!!
そう言えば過去に何軒か温泉臭とは異なる、何とも言えない異臭のする温泉があった!
あれが、循環湯だったのか!!
……と、今更気がつく無知の涙。
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ただの温泉猿だった私が知識を得て、ようやく温泉赤子になったのだ。
その新たな目で見た山の湯は、洗い場まで湯があふれ出る見事さである。
泉質は単純硫黄泉(低張性アルカリ性高温泉)。
湧出量295L/分だそうです。
ええと……1分間に295Lのお湯がだばだば湧いて出ているということね?
1Lのペットボトル295本分のお湯が出てるのよね?
そりゃあ浴室中に満ちあふれるはずだわ。
無味透明で硫黄臭もあまりない。
でも大好きな湯だ。
まろやかで優しい。
そこに身を沈めるのは極楽である。
たまらない!
でもここは今日の一湯目。
無理は禁物。
長湯はせずに上がることにする。
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ところで、これが本日の昼食。
越後湯沢駅の立ち食いそば湯沢庵である。
これを食べてから、外湯めざしてタクシーに乗ったわけである。
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この駅には〝がんぎどおり〟という飲食店街もあるのだが、昼時でどこも満員。
立ち食いそばの出汁の香りにひかれて、ここに決めた。
お揚げが柔らかくジュワッと味が染みててうまい!!
玉入りはマイデフォルト。
これでいい。
いや、これがいいんだよ。
さて、話は戻って……。
山の湯を出て雨の中、歩いてめざすは駒子の湯。
清々しいまでの田舎である。
フィトンチッドに満ち溢れている。
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歩く人とてない山道を車はびゅんびゅん飛ばして行く。
跳ね返りを恐れて道の隅っこをそろそろ歩く。
雨足はいよいよ強い。
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何で橋に土器なんだ!?
これじゃ昨夜、新潟りゅーとぴあからホテルまで泣き泣き歩いたのと大差ないじゃないか。
けれど今日の私は、にこにこである。
楽しくてたまらない。
温泉効果ここに極まれり!!
なんてな。
■駒子の湯
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傘の中より望む
駒子の湯は山の湯よりやや大き目な湯船。
やはりお湯はあふれている。
ただ泉質は違う。
ナトリウム・カルシウム塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)だそうです。
ここの湯もなかなか良い。
しかし好みとしてはやはり山の湯なのだった。
そして相変わらず降る雨の中タクシーで本日のお宿に直行。
ええと……今更気づくが、この宿の温泉は一階と三階の二箇所にある。
猿は知っている。
地から掘り出す温泉は、地面に近ければ近い程新鮮である。
そう言えば、鉛温泉の地下浴場に足元から直接湧き出す温泉があったっけ。
展望温泉は眺めこそいいが、湯を引き上げるから新鮮さ、つまり温泉効果は薄れる。らしい。
でも、まあ、三階だしな。
と思って宿の解説を見れば、一部循環とある。
一部って、もしや三階の?
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話は変わるが。
地元の銭湯で行かなくなった場所がある。
家からは最も近い銭湯なのに。
井戸水を沸かしている銭湯とのことだが、何故か湯上がり肌に塩素臭が残るようになったのだ。
銭湯から帰り布団に入っても、塩素臭が気になって眠れない。
結局また家の風呂で肌を洗い流してから寝る騒ぎである。
あの銭湯がコロナ禍を経て、前より多めの塩素を使うようになったのか。
あるいは温泉巡りを始めた私が、塩素臭に敏感になったのか。
どちらが正解かわからない。
とにかく肌に残る塩素臭が苦手になった。
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最近行く地元銭湯は薬湯がある所である。
塩素消毒しない銭湯があるのか、猿の私には知るよしもない。
けれど、薬湯の香りなら肌に残っても我慢できるのだ。
いや、むしろ薬湯の香りは好きである。
わざわざネット購入したほどである。
というわけで。
残念ながらお宿の湯には塩素臭があった。
かなり薄くはあるけれど、湯上がり肌に塩素臭……まことに無念である。
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■2024年10/29(火) 岩の湯
明けてお宿をチェックアウト。
越後湯沢駅からタクシーに乗り岩の湯に向かう。
三千円弱の出費。
マイカーがあればと毎回思う。
それだけ走れば市街地を抜け山の中。
渓流釣りやキャンプの出来る場所のそばにある温泉。
たぶん真冬にはスキー客が利用するのだろうなあ。
中に入ればカモシカのお出迎え。
例によって主婦数人が既に入っている。
朝食や掃除洗濯など朝の家事を済ませて来るのに頃合いの時間帯なのだった。
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そしてこちらの湯も良い。
何がって、あなた!
浴室から紅葉した山が見えるのよ!
渓流も見え、せせらぎまで聞こえる。
そこで無味無臭の透明な湯につかり心たゆたう……
極楽だ〜!!
こちらもアルカリ性単純温泉(低張性アルカリ性高温泉)
このロケーション、快適な温泉で¥500!
安過ぎる。
ちなみにカランは九つあった。
つばなれしていない。
(落語用語で〝つ〟がつかないから十を〝つばなれ〟と言う。九は、つばなれしていない)
でもこれぐらいの規模で充分です。
いつもは十分足らずで湯を出るカラスの行水だが、今回は頑張って(?)十五分ぐらい入ったぞ。
そしてまたタクシーを呼び寄せ駅に戻るのだった。
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コーヒー&ケーキセット
駅前でコーヒーを飲んでいて気がつく。
もしやこの地は水そのものが美味しいのではないか?
この旅で私はご飯ばかり食べていた。
どちらかと言えばパン派なのに。
米どころ新潟で米が美味しいのは当然として、それを炊く水もかなり美味しいのではないかと感じた。
と、ツイートしたところ、
「お酒もね」
という意見があった。
なるほど、そりゃそうだ。
美味しい水と美味しいお米で作ったお酒は美味しいに決まっている。
でも、私は下戸なんです。
越後湯沢の街を歩いて酒店が多いなあとは思ったけれど。
地酒も新酒も徳利や猪口も、完全スルーの私である。
見てもわからないし必要ない。
はい。マイノリティーですみません。
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さてさて。
そんな美味しいお米で握ったおにぎりを買って、新幹線で帰途につくのであった。
家に帰って荷ほどきしていて気がついた。
手拭いに匂いが残っていない。
普通なら温泉で使った手拭いには温泉の残り香がある。
硫黄泉の香りなど、くんくん嗅いで懐かしむ程である。
けれど、今回は手拭いに残り香りはなかった。
本当に無味無臭の温泉だったのだなぁと感心するのだった。
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ちなみに、帰宅してドアを開けたら納豆の匂いがした。
出かける朝に食べた納豆の残り香である。
密閉した部屋の中で納豆菌でも育っていたらどうしよう!?
まことに嬉しくも懐かしくもない香りであった。
どっとはらい。