著者・ライターの、印税などについての一般論
著者・ライターの印税など、特に「紙の書籍」の条件について、現場の人間として基本的な情報を共有しておきます。あくまで私が活動しているビジネス書界隈の話が中心であることにはご注意ください。
まず前提として、こうした文章が書かれる以上、書籍の印税には慣習的な相場があります。しかし、ビジネスとして「個別の契約」を結んでいるので、著者も出版社も第三者に話すものではないんですね。だからあまり正確な情報が出ていなくて、ライターとして書籍に参入する際の不安要素になったり、知識不足からトラブルの原因になってしまう。そういったことをなるべく減らしたいな、というのがこの文章を書く目的です。
(注)私が知る限りの情報を一般化してまとめたもので、現在所属している組織の見解ではありません。
◎著者1人で執筆する場合
まず、著者が1人で本1冊を書く場合を説明しますね。これが基本になる形式です。
本の執筆で支払われる印税の額は、基本的には「①価格×②部数×③印税率」の掛け算で決まります。なので、1500円の本が初版部数5000部、印税率10%なら初版印税は75万円です。初版部数が倍の1万部になれば、当然に印税も150万円になります。
印税の3要素のうち、①価格はジャンルごとにだいたい決まっていて、どこの出版社でも同じようになりがちです。新書なら800円前後とか、ビジネス書なら1500円前後とか。
②初版部数も、出版社による違いよりはジャンルの違いのほうが大きいようです。ビジネス書なら初版5000部〜6000部くらいが標準になります。新人著者だからといってここで初版部数を減らすメリットは、出版社にもあまりありません。
ただし、ベストセラーの続編などを出す際にどれくらい初版を積み増しできるかは、出版社のスタイルによって違ってきます。
③印税率は、出版社によって違いがあります。よく知られている印税率は10%ですが、8%や6%にしている出版社もあります。「おいおい、さすがに6%とか低すぎだろ」と思うかもしれませんが、そういう出版社でも低いのは初版だけで、増刷の印税からは10%になることが多いはず……。
以上が基本なのですが、印税の決まり方にはもう1つ、「印刷部数か、実売か」という違いがあります。
「印刷部数」方式は、シンプルに印刷された部数を「本体価格×部数×印税率」式に当てはめて計算します。わかりやすいですし、本の売れ行きにかかわらず決まった印税が入るのは、著者にとっての大きなメリットです。一方、出版社は売れ残りのリスクを負う形になります。
「実売部数」方式では、半年とか1年間といった期間を契約で設定し、その間で実際に売れた冊数のみ印税を支払うやり方です。
こう聞くと「著者には印刷部数方式のほうが明らかに有利じゃん!」と思うかもしれませんが、「実売部数方式」には印税が低くなりがちな分、出版社がリスクを取りやすい=部数を多めに刷れるというメリットもあるんですね。つまり、大きなヒットになりやすくて、その場合には著者へのリターンも大きくなりますよ、という理屈です(なんで大きなヒットが出やすいかはこの記事の話にも関係があります)。
実売の計算には半年などの時間がかかるので、印税の支払いが遅くなりがちというデメリットはあります。しかし最低保障金額が提示されることも多く、であれば、これはこれでフェアな方法ではないかと思います。
以上をまとめると、印税は、
「①価格×②部数×③印税率」かつ、それが「印刷部数か、実売か」
で決まるということです。
◎著者とライターで執筆する場合
次に、著者がライターと組んで2人で本1冊を書く場合です。
こうした形で本を執筆する人は、かつては「ゴーストライター」と言われていたようですが、今では本の中にクレジットも入るしSNSでの告知にも協力してもらうので、全然隠れてないですね。最近では「ブックライター」とも呼ばれており、上阪徹さんや古賀史健さんが有名です。
この場合の印税も「①価格×②部数×③印税率」かつ、「印刷部数か、実売か」で決まります。そしてそのうちポイントになるのは、③著者とライターの印税率の配分をどう決めるか? です。
印税率が10%の場合であれば、よく見かけるのはこんな配分でしょうか。
・著者6%+ライター4%(初版・増刷同じ)
・著者5%+ライター5%(初版・増刷同じ)
・著者4%+ライター6%(初版)、著者6%+ライター4%(増刷)
ただ、この配分は1冊ごとの事情に大きく左右されるので、著者の役割が大きいケースではライターが3%もありますし、事情次第ではもっと低いケースでの打診もあるでしょう。
「事情」というのはたいていは書籍の製作コストで、どうしても全ページ4色にしなければならず印刷費がかかったり、ファッションや料理の実用書で写真撮影などの費用がかかる場合です。著者が2人とか3人の共著本で、純粋に取り分が少なくなるケースもありえます。
ただ、そうした場合には、最低保障額や大きめの初版部数、ヒットの見込みを提示するのが通常です。ライターの方には、それらを含めて総合的にオファーを受けるかどうかを決めていただくことになります。
◎書き漏れたことやその他の注意点
以下、ここまでに書けなかったことや補足をいくつか。
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ビジネス書の初版として5000部〜6000部と書きましたが、ビジネス書でも学術系に近い版元では1000部、1500部という数字もありえます。自費出版ではなくあくまで商業出版なのですが、大学教員(になる人)による論文の書籍化の要素も強いケースですね。
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著者1人で執筆する場合でも、企画の性質上、製作コストが跳ね上がる場合には、印税率を下げる形でご協力いただくことがあります。
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ライターには、初版印税はなくて原稿料で定額を支払い増刷から印税を設定するケースもあります。企画によっては印税はゼロで、初版時のみ原稿料を(多めに)支払うことも。
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ライターが入る場合の印税で、
>著者4%+ライター6%(初版)、著者6%+ライター4%(増刷)
と増刷から逆になる設定は、初版時にはゼロから原稿をつくるライターの労が大きく、増刷以降の売れ方は著者の実力や営業活動の影響が大きい、という考えによるものです。これも両者の組合せ次第ではフェアなしくみと感じます。
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印税の支払い時期は、「印刷部数方式」の場合でも出版社によってけっこう違います。知る限りの最速は発売月の月末。遅いのは半年後払いでした。
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上記は「紙の本」の印税についてで、電子書籍はまた別の条件設定になります。その条件はまだ出版各社が試行錯誤中なのと、仕組みも少々複雑なので、ここで簡単にまとめることができません。書籍の仕事をする際には、ぜひ出版社の方に聞いてみてください。
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というか、電子書籍に限らず、金銭面での条件は積極的に確認していただいて大丈夫です。それを嫌がる編集者や出版社はいかがなものか、と個人的には思います。
一方、著者やブックライターが友人知人にいたとしても、印税などの詳細を聞くことはおすすめできません。最初に書いたように、出版社とビジネスとして「個別の契約」を結んでいるので、それを外部にもらしてくれと頼むのは、非常識と思われる可能性もあるからです。やはり、担当になった出版社の方にストレートに聞いてみましょう。
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細かいポイントですが、書籍の印税で、消費税が外税になるのか内税になるのかは事前に確認しておきましょう。印税が50万円なら5万円がプラスされるかどうかの大問題なります。
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以上になりますが、本は1冊ごとに事情が変わるので、この記事もあくまで1つの目安とし、絶対視しないようにしてください。著者候補やライターの方、若手編集者の一助になれば幸いです。
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