「1年半前の衝動買い」

門外漢 OMEGA Speedmaster Super Racingを手に入れる

知り合いの時計評論家/クロノス日本版編集長広田 雅将さんの記事を読んで、紹介をお願いしてから1年4か月。
ようやくオメガ スピードマスター スーパーレーシングがやってきた。

とにかく収納する箱が立派かつ大きいw

機械式時計にそれほど興味のないぼくがほしいと思ったのは初の「スピレートシステム」搭載時計だったから。まだ機械式時計の機能が進化していることに驚いた。
とはいえ「スピレートシステム」の登場ででようやく「安いクォーツ並み」の精度が出せたのが機械式時計の機能の現在地でもある。
従来のオメガの機械式時計は、ヒゲゼンマイの調速をフリースプラング方式(有効長を変えることで時計の振動を速くしたり遅くしたりする)で精度を調整していたが、作業が非常に難しくて1か月程度預ける必要があった。「スピレートシステム」は10分の1秒単位の調整を容易に行える画期的な仕掛け、らしい。言い換えれば自転車のギアを画期的なシステムにすることにどれだけ価値を見出せるか、みたいなものだろうか。だって移動手段としてはどんなに素晴らしいギアであろうとバイクには勝てないのだから。そして自転車もバイクよりはるかに高価なものが存在する。

バンドを外せなくてそのまま撮影w

それでも日差が出る以上調整が必要だ。つまりは、この「スピレートシステム」であっても1か月すると1分のズレが生じる可能性がある。スマートフォンがNPTサーバーを通して正確な時刻を無意識に常に出せる今、現代の機械式時計に「正確な時を刻む」実用性はほぼないのだ。そもそも正確性はどこまで求められているのか。よく言われるブランドの価値は「ストーリーと演出」だ。
そこでもう一つもう一つ機能、あるいはストーリーについて余談を。
オメガが初めて実装したクロノグラフの文字盤の周囲にある数字が並ぶ「タキメーター」は何のためにあるのかわかるだろうか?現代で使っている人は皆無だろう。
これは1kmあたりの所要時間をストップウォッチ的に測定した時の速度を見るための数字だ。たとえば1kmを走り切った時10秒をカウントしたとすると、針はタキメーターの360を指す。この時の平均速が360km/hという読み方をする。それが「スピードマスター」の名称の由来だ。
当時のスポーツカー愛好家が求めた速度を計る精緻な仕組みは、数字が小さいほど平均速度が高くなるタキメーターの表示方法しかなかった。それがヨーロッパ車的感覚になったのではないか、と感じることがある。燃費計のことだ。1リットルあたりの走行距離を表示する日本と違い、ドイツでは燃費も距離あたりの燃料消費量で考える。一般的には100kmあたりのガソリン消費量を表示する。10は100km走るのに10リッター必要。我々でいうリッター20km走るクルマは5となる。数字が小さいほど燃費がよい。考え方がタキメーターと似ているとぼくはおもっている。

良顧客でもないぼくに回ってくるのにはそこそこ時間はかかると想像していたが、はっきりいえば注文したことも忘れていた。1年半近くが経った6月、突然の連絡。オメガブティック銀座に向かう。発表以来このシステムを実装したのはこの時計1つしかなく「現時点で日本に入ってきたのは20本程度です」。となるとこのシステム、今のところの生産量はかなり少なそうだ。そうそう「いいとこどり」だけでは済まないだろうと想像している。

銀座7丁目、ZARAの隣にある全体がSwatchグループで占められているビルの2階にオメガブティック銀座がある。Swatch創業者の名を取ってニコラス・G・ハイエックセンタービルという。吹き抜けになっている1階は、各時計ブランドの名がついた丸や四角の変なカプセル?が林立する奇景が広がる。おまけに下に降りる通路もないのに地下駐車場がある。その秘密は、クルマで行くと楽しめる(笑)。カプセルは各ブランドへの直行エレベーターとなっている。OMEGAと装飾されているカプセルを選ぶと、2階まで直行する。それ以外のブランドには別のカプセルを選ぶことになる。

1階が奇妙な吹き抜けとなっている

とはいえ、機械式時計のマニア(褒め言葉)から見れば、このオメガ スピードマスター スーパーレーシングは、それほど大した時計ではないかもしれない。オメガブティック銀座の店長もふだん遣いを前提として説明してくれた。発表時の価格156万2,000円より15%も高い179万3,000円に上がったのは円安のためだろう。それでも海外の価格と較べると20%以上安くなることもあるので(国によっては税別だったり、免税の割合も違うので単純比較は難しい)1ドル160円で設定しなおされる前の価格でよかったとおもうべきかw ちなみにブティックで商談していた計5人のお客さんはすべて中国語を喋っていた。店長によると外国人ならさらに10%の消費税も免税になるので、アジアのみならず欧米系のお客様も多いとのことだった。香港に行って買ったり、ヨーロッパに行って買っていた時代が懐かしい。スキポール空港にはメルセデスベンツすら売っていた。そこで買ってヨーロッパを走って日本に陸送してもまだ安かったのだ(笑)

ところで、ほしかったもう一つのそして本当の理由は、まだ十代のころ父から入学祝いに譲り受けた時計がオメガだった、からかもしれない。彼は仕事でヨーロッパに行くことがありそこで手に入れたらしい。その時計はいまは手許にはない。だから取り戻す理由がほしかったのだろう。それがぼくにとっての本当のストーリーなのだ。ピアジェを買う余裕はないしロレックスを買う気もないが、新しい機能が加わったオメガだったから1年4か月もして衝動買いをしたのだと思う。
問題は、1年半の間にApple Watch Ultra2を買ってしまって左腕がいっぱいだということ(笑)歩数計だけでなく心房細動などもチェックできるApple Watchは、外したくないんですよね…。

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