【イベントレポート】 清春、編集者であり「親友」だった彼への想いを熱く語る〜Editors talk [page 1] 2020年1月24日/新宿ロフトプラスワン
2020年1月24日、新宿ロフトプラスワン。登壇した清春は終始穏やかに笑顔を交えて語り、それを満場の観客と“あの方”が見守っていた——。
え、あの清春がロフトプラスワンで?と目を疑った人もいるかもしれない。新譜の制作に専念していた彼が、年越しのカウントダウンライブ以来、公の前に姿を現したのは“サブカルの殿堂”として知られるトークライブハウスだった。
「Editors talk」と題した、雑誌の編集者やライターなどが催すイベントの[page1]。今後も2、3とページを開いていくであろうこの会の記念すべき初回は清春を迎え、『東條雅人氏を想う会』と名付けられた。
「Editors talk」の発足は、この原稿の筆者であり会の進行役を務めることになった伊藤が、2019年秋、清春に宛てて長く重い企画書を送ったことに始まる。「10年以上ずっと“やらなければ”と思い続けていることがあります。SNSなどでなく、本当に聞きたい人だけに、わざわざ“その場”に来てくれる人のために話したいことがあり、特に初回は、故・東條雅人さんの編集者としての功績を語りたい」と。
しかし話題は非常にデリケートであり、やりようによっては批判が殺到するかもしれない。それゆえ99パーセントの反対、もしくは企画書に目もくれないという事態を想像しつつ覚悟の上で送った1通のメールが、よもや200パーセントの「清春からの東條さん愛」で返されようとは想像もしなかった。
清春の「愛」は揺るぎないものだった。当初、公演のタイトルは「書籍『憂鬱という名の夢』と敬愛する編集者について語ろう」というもので、会場にも提出済みだった。2009年に急逝した東條さんがその5年前に編集した、清春の単行本の名を冠したものだ。しかし公演の情報解禁の直前、清春が「『東條雅人氏を想う会』にしよう」と明言。「ちゃんと東條さんの名前を出して語りたい。どれだけ彼に支えられ、仕事以外でもかけがえのない親友だったか。それを話したい」というまっすぐな主張に、我々も決意をあらたにした。
制作側の視点でいうと、公演当日、会場が華やいだ観客で埋め尽くされると、その熱気に目眩がしそうだった。ライトはまぶしく熱く、清春と、場内に貼り巡らされた歴代のポスターやグッズを照らし出した。ポスターはすべてグラフィックデザイナー秋田和徳氏がこれまでに手掛けたもの。なんと1994年に原宿駅に掲示された黒夢のメジャーデビュー時の巨大広告から、SADS、清春ソロに至るまで何十種類もの貴重なポスターが持ち込まれた。他にも、伊藤が過去に編集した黒夢の単行本「夢中占夢 -むちゅう ゆめを うらなふ-」の関連資料や、黒夢の名古屋時代のレアなグッズなども所狭しと飾られた。ロフトプラスワンという “サブカルの聖地” を “清春の王国” に。
秋田氏は、コメンテーターとしても登壇。秋田氏は「憂鬱という名の夢」「夢中占夢」両書籍のデザインを担当。ほかCDジャケットやツアーグッズなど数多くの清春に関するデザインを担う。作品さながらのクールで無口なパーソナルイメージだが、東條さんの訃報のあと「信じられなくて、悲しすぎて道を歩いているときも何日も人目をはばからず泣いた」との発言も忘れがたく、今回、迷うことなく協力を仰いだ。
東條さんは誠実な人柄で愛情を持ってアーティストに接したが、それはミュージシャン以外の我々、デザイナーやライターに対しても同様だった。独特の少しコミカルな口調で、こちらが俄然やる気になる言葉を惜しげなく繰り出した。秋田氏と伊藤はそういったエピソードを語り、ともに作った記事や作品をプロジェクターに投影して見せた。清春は、時に東條さんの物まね(?)も交えながら、いかに深い絆で結ばれていたかを語った。耳が良い人は物まねも上手い。清春の豊かな記憶と特徴をとらえた模写は、涙を誘う話もなぜか湿っぽくならずに会場を沸かせた。
2部構成のうちの後半のテーマは「『別れ』 さまざまな人との別れ、痛みをともなう進化と未来」。清春は、東條さんのみならず、これまでに死別した人物やペットについても口を開いた。じつは“しゃべりだせば止まらない”彼の話に合わせ、事前に探しだしてきた過去の写真などをどんどんプロジェクターに映していった。すると清春が「懐かしい! ナツい!」と連発し、「こんな写真どっから見つけてきたの」と驚く。その様子を嬉しそうに見つめる観客たち。おそらく、この場に来て実際に話を聞き、批判的な気持ちで帰った人は皆無だったのではないだろうか。話す人の表情や、その場の雰囲気からしか汲んでもらえないことも多々ある。
ほかにも、編集者のイベントならではのグッズとして文具セットを作り(デザインはもちろん秋田氏。清春の楽曲「note」にちなんでノートなど)、また“トークライブができる居酒屋”という会場の趣向に合わせた「清春いちおしメニュー」も当日限定で提供され、本人がその飲食物への偏愛をアツく語るなど、イベントとしての楽しい要素も盛り込まれた。
3時間以上があっという間に過ぎ、終演予定時刻となっても話し足りなそうな清春がふとサングラスを外したとき、その瞳の優しさに思わずハッとさせられた。筆者をはじめとする「Editors talk」スタッフは、このイベントを通してあらためて彼の包容力ある大人としての魅力に気づかされたが、清春をずっと見続けている人達は彼のそんな「愛」に支えられたり支えたりしながら寄り添ってきた。25年以上歌い続け、メッセージを伝え続けることは容易ではない。その活動に長く深く寄り添った東條さんは彼にとって今尚あたたかく大きな光であり、今回、その思い出の一部でも共有できたこと、気兼ねなく話せる場をつくったことは間違っていなかったと思いたい。
終演後、感謝の気持ちで満たされているスタッフに「ありがとうございます」と逆に声を掛けてくださるお客さんがたくさんいた。開演前に配ったアンケートの回収率はなんと90パーセント以上で、中には、東條さんとの思い出や感謝の言葉も数多く綴られていた。「東條さんの書いた黒夢のキャッチコピー『天使の羽で破壊せよ。』などは一生忘れません」etc…。肉体はなくなっても、言葉や精神はなくならない。それを引き継いでいく人達の秘めたる言葉を抽出していくことも大切なのではないだろうか。「Editors talk」では、そうした編集者の魂を誤解なきよう誠実に、継続して伝えていきたいと願っている。
最後に、登壇した秋田氏、清春氏から寄せられた熱いコメントを。
何か宿命的なものを感じないではいられぬおふたりとの尽きない語らい。個々の質量は違えど、ひとりの故人に対する想いを多くの方々と共有することができた美しくも穏やかな夜。信義に厚く優しさに溢れた清春氏の言葉にじっと耳を傾けていると、故人の声で再生される瞬間が幾度となくありました。お久しぶりです、東條さん!
(秋田和徳/グラフィック・デザイナー)
何事にも静観がベストだなんて僕はくだらないと思う
愛する人の事なら尚更
敢えて何もしないなんて
それは何もする気がないんだろう
東條さんどう? こっちでは伊藤ちゃんがこんなイベントを開いたんだよ、
秋田さんも初めて人前に出てくれたって凄いよね!
僕らは思い出し、彼が如何に正直でリアルな人生を生きて書こうとしていたのかを証明し伝えていく
(清春)
(文=伊藤美保)