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ローカル観光都市の挑戦!!
毛塚英俊
<日本の観光産業と地方について>
今更私が言うことでもないと思うが、人口減少が続く日本の経済的希望として今クローズアップされているのが、インバウンドを中心とする観光産業だ。
2024年の通年外国人旅行者は3300万人を超える見込みでコロナ前の2019年を超え過去最高となる見込み。政府目標では2030年に6000万人まで引き上げていく計画になっている。
これを実現するためには、現状でさえオーバーツーリズムになっている東京・京都・大阪から、地方の観光都市に旅行者を分散させる必要があることも明白で、観光庁では様々な補助金を設定し地方の受け入れ態勢整備を支援している。
旅行者側の目線で考えても、混んでいるメジャーな観光名所より「穴場スポット」的で日本の文化を体感できるツアーを希望される人が増えていくのは間違いないし、地方都市側とすれば、そういったニーズを受け入れて人口減少分を補う収益をあげて町を豊にしていくことがとても大事。
其れすなわち日本の希望になると思う。
本稿では私がそれを実現するために考える構想について茨城県笠間市での実践事例も踏まえて、惜しげもなくお伝えしたいと思う。
<交通網整備とローカルコンテンツ>
海外旅行をした人であればわかると思うが、今世界の観光客の移動手段は劇的に便利になっている。
Uber,Lyft,Grabといったライドシェアアプリを使えば行きたい場所に説明するストレスやぼったくりの不安なしに行けて1日の価値が飛躍的に上がっている。
都市部からちょっと離れた観光スポットの価値が上がっているという部分もある。日本ではタクシ―業界等の既得権益を守るという政治的配慮で大きく出遅れているが、徐々に導入が進むことは明らかだ。
中国やサンフランシスコでは「自動運転タクシ―」が走り出していて、日本でも低速で周遊する自動運転バスの実証実験は渋滞のリスクの少ないローカル都市で実施され、安全性が確認されてきている。劇的な変化が訪れるのはそんなに先のことではない。
地方都市がしなければならないのはこの変化を踏まえた観光都市作りをしていくということだ。
皆さんは繁華街から離れた飲食店やスナックでとんでもない低料金で素晴らしい料理や接客を味わいびっくりしたことはないだろうか。私は旅先では現地の酒好きの友達と飲み歩くことが多いので、何度も衝撃を受け思わず昇天したこともある。残念ながら移動手段の問題で通い詰めることができないのだが、もう数年すればこういった穴場コンテンツが貴重な観光資源として躍進する時代がくる可能性が高い。
これは地方で地域を盛り上げようとしている人達にとって素晴らしい変化だ。新たに飲食店等を開業しようとする人達にとっても賃料のハードルが下がるので朗報だし、スペースのたっぷりある自然の中で屋台街のような複合施設を作ることも可能になる。
観光客の受け皿になるだけでなく、地域住民も楽しめて混ざり合えるそんな「場所」を作ることが安易になるのだ。移動手段が担保できれば宿泊場所も土地代が高い駅の近くにホテルを作るといった方法でなく、自然の中でゆっくりしてもらえる施設活用が有効になる。
人口が過密した土地代も高い都市部に高いビルを建てるよりこっちにお金をかけるべきだと私は思うのだがいかがだろうか……。
観光地の移動網整備については、移動中の楽しみを工夫するのも良いと思っている。タイのトゥクトゥクのような解放感のある車両を使ったりするのも良いし、私の構想はなんといっても「発射発車オーライ!!」バスガイドの復活だ!!
コストの問題があれば当面は地元の学生を使っても良いが、スキルのあるガイドはチップやおひねりを貰う工夫をすれば採算が合うのではないかと思っている。可愛いガイドの司会の元、バスの中で缶ビールをプシューと空けてカラオケや乱痴気騒ぎをしてもらえば1時間2時間の移動は問題がないどころか、それが楽しみでリピーターになる人もでてくるような気もする。
目的地に到着したのに酔っ払って延長をせがむオヤジも出そうな気もする。もちろんガイドにセクハラをするような悪酔いのお客様にはたっぷり料金を払ってもらうことを最初に決めておく。
安全性を担保することが重要だが、何よりネガティブな「移動時間」をポジティブなものに変える事で廃れるリスクのあるローカル観光資源を守り潤す。これがとても大事だと思うのだ。
<〇〇に会える街、〇〇と飲める街>
観光客を惹きつけるコンテンツとして、地元のキャラクターを活用することもとてもおもしろい。日本には世界的メジャーなアニメのキャラもたくさんいるし、その地域の歴史上の英雄を利用することも有効だ。
笠間市では先日「水戸黄門」一座に来てもらい稲荷神社等観光スポットを回ってもらったが、台湾のTVでは「水戸黄門」がオンエアされているとのことで、台湾からの観光客が異様に感動していて逆にこちらが驚いた。飲食店にそういうキャラを混じらせて、一緒に飲んでもらうこともおもしろい。
地元の人と旅行者が一緒に交じり交流する。そういう仕掛けが何よりも大事で、「陶芸作家と飲める」「栗農家の嫁が作る栗料理を食べる」等地域ならではの企画はとても好評だった。
何より受け入れ側の地元メンバーが観光客との交流を楽しんでいた。その結びつきによりリピーターとなる人が増えること。そのリピーターが新しいお客様を連れてくること。この流れが作れれば、つまらないプロモーションに高いコストをかける必要はない。オーバーツーリズムを防ぐ意味でも地道な取り組みが大事だと思う。
<市民全員が「キャスト」である~必要なマインドセット~>
旅先での楽しみには寺社仏閣めぐり、名物料理、絶景等様々なものがあると思う。
ただ、本当にまた行きたいと思わせるものは何かと考えると、その地域の魅力的な人とのつながりができることだと思う。世界の観光都市にはそういった魅力的な市民が沢山いて、皆自分の地元を愛していて観光客を大事にしている。
日本のローカルの多くの街の市民にはこのマインドが欠けている。「ここには何にもない所だから」良く聞くセリフだが、魅力的な観光資源や美味しい郷土料理がある街でこれを聞くと悲しい気持ちになる。
何もないと思っているのは、地元の人だけなのだ。観光を武器とする街作りをする上でこれを変えることが最も大切なことだと私は思う。確かに観光客がたくさん来ることは良いことばかりではない。騒音やごみ、渋滞の問題もあり、静かな地域の秩序が乱れることも多いだろう。
そこでそれを嫌がって排除しようとする人達のマインドを絶対に変えていかなければならない。これは大変なことで膨大な時間がかかる作業だがこれを成し遂げた街だけが生き残る時代が来ると思う。
学校はもちろん市民全員で地域の魅力・歴史について学び理解すること。そして、訪れる人達の考え方、諸外国の文化についても理解しようと努めること。そういった人たちと繋がる楽しみを前向きにとらえること。そういった市民を地道に増やしていき、地域の人と観光客が繋がり共に楽しみ学び合い成長していく街。
そんな街で暮らしたら楽しそうだと思いませんか?
先に述べた交通の課題や言語の問題は規制緩和やAIの同時翻訳等テクノロジーの進化で解決できそうだ。後は市民ひとりひとりが自分の住む街に誇りを持ち、訪れる人達を大切にもてなすマインドを持つ「キャスト」となることだ。
こういった取り組みを成功させる街を増やしていくことが6,000万人の受け皿を作ることであり、これを更に伸ばしていく道筋だと私は思う。
中国・韓国はもちろん日本から近距離の東南アジアには膨大な人口があり、その多くが日本への旅行を希望している。彼らに日本の文化を理解してもらうこと。日本を好きになってもらうこと。何回も何回も来てもらうこと、そして受け側の我々も彼らと交流することによりその文化を学ぶこと。
彼らを人間として理解し好きになること。
それは単に産業として観光で稼ぐということだけでなく、もっと大切なものをその地域や日本にもたらしてくれると私は信じている。
毛塚英俊
グラウンドワーク笠間特別アドバイザー
茨城県笠間市出身、立命館大学卒 通信会社勤務の傍らNPO法人「グラウンドワーク笠間」も特別アドバイザーとしてシニアによる町おこし活動に取り組んでいる。「犬も歩けば棒に当たる」をモットーとして「犬の道」を突き進み、全国各地の色々な町おこし系の団体の活動にも顔を出し最近では収拾がつかなくなっている。