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編集者の心をつかむKindle出版とは?
電子書籍市場の拡大に伴い、Kindle出版から商業出版へとステップアップするケースが増えてきています。しかし、まだその数は多くありません。
その一方で、数多くのKindle本の中から編集者の目に留まり、商業出版化される事例も出てきています。
なぜ、編集者の心をつかむKindle本は少ないのでしょうか??
本記事では、24年の編集経験と、年間300本以上の企画書を見てきた立場から、編集者の心をつかむための具体的な戦略をお伝えします。
1. Kindle書籍のどこをチェックしているか
出版企画書を検討する立場にとって、電子書籍には、以下の2つの大きな利点があります。
①コンテンツの質を直接確認できる
編集者の心をつかむKindle本は少ない理由を端的に表現すると、「Kindle書籍を読んでみて、コンテンツの魅力が伝わらない」ものが多いから、です。
例えば、読者層がイメージできない内容であったり、読み終わった後に「で、このあとどうすればいいのか?」という疑問点が生じてしまうビジネス書であったり。
Kindle書籍の主流である1万字〜1万5000字の分量のなかであっても、読者に対しての有効性を示すことが必要です。示されていないものは「内容が薄い」と捉えられ、避けられる可能性があります。
少なくとも、私が<ほんたま>※1の配信企画として採用する基準には満たされません。出版企画書に記載されているKindle出版の実績は、そのように評価されています。
※1 〈ほんたま〉は、 無名でも力のある著者候補と日本中の出版社をつなぐマッチングサービスです。毎朝、本の企画を出版社の1400人以上の編集者に届けており、本を出したい人と出版社の出会いの場を提供しています。企画をお持ちの方は、初期費用を支払うことなく商業出版に挑戦できます(自費出版は扱っておりません)。ぜひ、ご利用ください。
②読者からの評価(レビュー)を確認できる
Kindle書籍に付いているレビューも私は必ず確認しています。読者がどのように本を受け止めているかを把握できます。
ただし、サクラのレビューはすぐに分かりますのでご注意を。プロの編集者であれば、サクラチェッカーを使わなくても、サクラは読むと分かります(その判断ポイントは感覚的なものなので、お伝えするのが難しくて恐縮ですが…)。
2. 編集者が求める「質の高いコンテンツ」とは
編集者が求める「質の高いコンテンツ」の要素はいくつかありますが、「市場性(需要)の明確さ」が大切と、私自身は捉えています。
商業出版では、企画段階で「誰に向けて、どのような価値を提供するのか」を明確にする必要があります。価値の提供は、単なるマーケティング上の理由だけでなく、本の存在意義そのものに関わる重要です(その理由はPostscriptでも触れます)。
市場性を示す具体的に有効な要素
明確な読者層の存在
実務家向け、初学者向け、特定の課題を持つ人向けなど、読者層が具体的に想定されていることが重要です。「誰にでも役立つ」という曖昧な想定は、実は「誰の役にも立たない」という結果につながりかねません。
解決すべき具体的な課題の提示
読者が抱える課題や問題点を具体的に特定し、その解決方法を提示することで、本の必要性が明確になります。
競合書との差別化
同じテーマを扱う本が既に存在する場合、なぜ新たな本が必要なのか、どのような新しい価値を提供できるのかを明確に示す必要があります。
3. 編集者の目に留まるKindle出版の戦略を
具体的にどのような戦略を取れば、編集者の目に留まるのか。例えば、シリーズ化による専門性の証明は効果的な方法の1つです。
特定のテーマについて、入門編から始めて、基礎知識を踏まえた上での応用編、実践的なノウハウを詰め込んだ実践編というように段階的に展開していくことで、著者の専門性を示せます。
また、各巻で扱うテーマを少しずつ変えながら、一貫した視点で解説を行うことで、その分野における著者の知見の広さと深さを証明することもできます。このような地道な積み重ねが、編集者からの信頼獲得につながります。
おわりに
Kindle出版は著者の実力を証明し、商業出版へのステップとなりうる強力なプラットフォームです。商業出版を目指している人は、「とりあえず出版する」という姿勢ではなく、徹底的に読者価値にこだわり、質の高いコンテンツを提供することを心掛けてください。
Unless Addition:蛇足
私が<ほんたま>で配信企画を採用する際には「目の前の誰かは救われる内容であっても、その内容が広まれば広まるほど不幸な人を増やす」ものは扱わないようにしています。
「そんな内容があるのか?」と思われると思いますが、目の前だけでなく、その後関連して引き起こされる事象までを想定する「システム思考」※2で検討しています。
※2 システム思考は、10年前に社会人学生として「慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科」の門戸を叩いて、学んできました。ついでにデザイン思考も学んできました。そのナレッジをベースに、編集スキルを体系化できるようになりました。そのうち自己紹介で紹介するかも。
書籍の例ではありませんが、ペットボトルという人間にとって便利なものは、またたく間に世界中に広がりました。しかし代わりに、海にペットボトルのゴミが大量に流されることになり、海洋生物が飲み込んでしまい環境問題へと発展しました。こんなイメージです。