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森ノオトの次のステージを見たい|金子拓也さん(金子石油店代表取締役/森ノオト正会員)
森ノオトにかかわる人たちの声を聞きながら、ローカルメディアのあるまちの現在地を描くインタビュー企画。2023年の最後を締めくくるのは、森ノオトの拠点のある鴨志田町でガソリンスタンドを経営する金子拓也さんです。金子さんは森ノオトがNPOを設立した時から正会員として長年支え続けてくださいました。森ノオトの代表・北原まどかとは長年の友人である金子さんは、森ノオトの10年の歩みをどう見てきたのでしょうか。
(聞き手:宇都宮南海子、文:北原まどか)
「地元で何かしたい」という人を応援したい
——金子さんには「あおばを食べる収穫祭」で、リユース食器や備品の貸し出し、運搬や設営などで、森ノオトでは長くお世話になってきました。元々は理事長の北原と家族ぐるみの友人で、長いお付き合いだというのは周知の事実ですが、二人のなれそめ(笑)について教えてください。
金子:まどかちゃんというよりは、夫の北原くんと友達だったんだよね。今から20年前に、僕がガソリンスタンドを継ぐことになって、その時に地域の若手で何かしようという時に、知人から紹介されたのが北原くんだった。ちょうど二人が結婚するタイミングで、結婚式に電報を送ったことを覚えている。その年の秋(2003年)に、北原くんと、青葉台駅前郵便局の村野局長と一緒に「青葉区らしいお祭りをつくろう!」と言って、「よこはまハロウィン」を市が尾のスポーツ広場で開催したんだ。
何年かハロウィンをやって、毎回すごい量のごみが出るのにうんざりしている時に、行政の職員から「リユース食器がある」と聞いて、いろいろ調べていたら、まどかちゃんが元々エコに関心があってそういう仕事もしていたから、一緒にアースデイ東京に行ってみたり。リユース食器を貸し出すNPO法人Waveよこはまを立ち上げたのは、自分のイベントのごみを減らすためでもあった。
北原:私はWaveよこはまのブログで「リユースコラム」というのを書いていて、その後、森ノオトを創刊したあとは、森ノオトにWaveのコーナーを作って、3R啓発のコラムを書き続けていましたね。
金子:そんな時(2011年)に、鴨志田のうちのマンションの1階で飲食店をやることになって(現在のウチルカの前身・フラメシ)、できれば地元の食材を使いたい、地元の人を雇用したいと思って、いい人いない? とまどかちゃんに聞いて紹介してもらったのが、小池一美さん。最初、小池はうちの社員だったの。
北原:その後、小池さんは一人、あざみ野南に拓也さんが用意したフラメシのセントラルキッチンを任され、そこで「コマデリ」という屋号をつくり、2013年から現在のキッチンカースタイルになります。このキッチンカーも、実は拓也さんがつくったものだったりする……。
——なんというか、金子さんって、地元のキーパーソンの輩出基地みたいな存在なんですね!
金子:地元で何かしたい、という人を応援したいという気持ちがあって。それは会社の内部でも、外部でも同じで、その先駆けが僕にとっては森ノオトだったのかもしれない。
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鴨志田町の「森ノオウチ」「森ノハナレ」の生みの親
——そんな森ノオトが鴨志田町に拠点を構えるようになって、金子さんとは物理的な距離でもぐっと近くなりました。私たちにとっては、鴨志田町の事務所はとても器の広いところで、ありがたく思っています。元々そういう場所だったんですか?
金子:あの場所は元々、今は桜台にあるデザイン会社の「明日の株式会社」さんが使ってイベントを開いたりしていた。僕もまどかちゃんもその時に「こういうふうに使えるんだ」という雰囲気をわかっていた。後ろにあるもう1棟も借りることになるとは思っていなかったけど、まどかちゃんには最初から「この場所ならその先の展望もあるかも」と見えていたんじゃないかな。
北原:森ノオトが少し大きな拠点が必要になるタイミングと、コマデリの小池さんがキッチンカーの仕込み場を移転したい時が重なって、それぞれ一人で借りるほどの事業規模じゃなかったから、「あの建物をシェアオフィスにしよう!」と思い立ったものの、どうやって契約しようかと……。そんな時に、拓也さんが間に入って大家さんを説得してくれて、「森ノオト+コマデリ」という形であの建物を借りることができたんです。
——その後、裏にあるもう1棟を借りて青葉台工務店とDIYリノベーションをしたり、布市の倉庫を建てたり、コロナで家賃が払えなくなるかもしれないという時に大家さんへの相談に立ち会ってくださったり、困った時にはとにかく金子さんに相談して、いつも助けてもらっています。この10年で、森ノオトで働くスタッフも増えて、組織っぽくなってきた変化を、金子さんはどう見てくださっていますか。
金子:これは難しい質問だけど、僕は別に何も心配することもないし、思っているののはるかに次元を超えて行動していることが、傍目で見ればうらやましくも思うくらいの成長のスピードだったりして、まさに成功、サクセスストーリーだよね。表面しか見ないとみんなそう思うんじゃないかな。
ただ、僕も会社をやっているから、中が大変なのはよくわかるよ。そんなに簡単なもんじゃないし。机上論のようにうまくいっていないこともあるのもわかるけど、だから余計に、(NPOのような組織を)そういうふうに続けていけることがすごいなと思うよ。
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森ノオトが青葉区の「普通」になる日
——「あおばを食べる収穫祭」は、初年度から地産地消とリユース食器をテーマに続けていて、Waveよこはま=金子さん抜きにはできないお祭りだったし、実際に収穫祭の運営にもずっと深く関わってくださっていました。昨年の収穫祭からメイン担当を私がやることになって、金子さんが「まどかちゃん以外の人が(収穫祭を)やらないとダメだ」みたいなことを言ってくれたのが、組織としても一つ大きかったなと。
金子:それはまどかちゃんがそう思っているから。本人以外で具体的にそう言う人が必要だと思ったから僕が言っただけ。もしまどかちゃんが「この祭りはずっと私がやる!」と言っていたら、今でも僕が朝一番早くに行って手伝っていると思うけど、「自分以外の人がやらないと(先に)続かない」というのが彼女の姿勢だから。
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——こういうことを、組織の外の、地域の兄貴分的な存在からダイレクトに言われる影響力は大きいです。ああ、なるほど、と。妙な納得感というか。この2―3年、コロナをはさんで、収穫祭を軸にしながらまどかさんでない人が動いていくというあり方が、しっかりと形になってきた。あの時に金子さんからビシッと言われたことが影響しているように思います。そんな金子さんからは、今年の収穫祭はどう見えましたか?
金子:いいお祭りだったよ。売れたし。いいまちだよね。いい組織だからいい人が集まってきて、森ノオトのカラーがすごく出ている気がする。来ている人たちも含めてね。
——もし森ノオトがこの地域になかったら、違ったまちになっているんですかね。
金子:そういうことではないと思う。これからもそうだけど、森ノオトがなくても、大多数の人にとっては、多分普通に日常は流れていくんだと思う。むしろ、これからが、もう一つ(森ノオトの)ステージが上がる時なのかもしれない。
結局あの収穫祭って、雨の時でも人が来るじゃん、怖いくらいに。俺からすると正直気持ち悪いよ(笑)。大雨の中でお母さんが赤ちゃん抱えてお祭りにくる、そんな人があんなにおおぜい来るって、普通の人から見るとクレイジーだよね。だけど、まどかちゃんが一人で始めた活動が、組織になって、みんなで運営できるようになって、森ノオトが掲げる「エコで、子育てしやすくて、いいまち」というのが本当に根っこから生えてきて、みんなが活動できるようになるものが、青葉区とイコールになるような、そんなタイミングがこの数年で来るかもしれない。その自覚は持っておく方がいいよ。
もしかしたら、枝分かれも必要かもしれない。収穫祭みたいな大きなもの(軸)が一つあって、小さいのがいくつもあって。
——それが青葉区のカルチャーになる?
金子:そうなるには、大雨の日でも来るようなクレイジーな人(ファン)じゃなくて、普通の人に(森ノオト的な感覚が)おりてくる必要がある。つまり、普通にパートをしている人や近所のおじいさんとかがコミットしていけるようになることなんだと思う。お祭りに来るだけでいい。そういう人が関わることが、次のステージなんじゃないかな。
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(取材を終えて)
森ノオトは女性たちが運営する団体、という印象が強い方も多いかもしれません。でも、金子さんのように正会員やサポーターの皆さんには男性も多くいて、ときにそうした男性目線の助言にハッとさせられ、内輪で同質的になりがちな視点に気付かされることがあります。森ノオトが次の10年、自分たちが金子さんのような大きな大きな器になっていく、そんなイメージが浮かぶインタビューになりました。(宇都宮南海子)
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