黒死病と美しい庭
日本、英国共にゆっくりとCOVID-19の状況が安定に向かいつつあるようですが、長い歴史の中でパンデミックは社会構造が大きく変化するきっかけにもなりましたーうちの近所にある美しい庭には、あるパンデミックにまつわる秘密が隠されています。せっかくの機会なのでツイートでつぶやいた内容をまとめておこうと思います。
私はエディンバラ南部の静かな住宅街Bruntsfieldに住んでいるのですが、この平和な地区には疫病にまつわる陰惨な過去が隠されています。15世紀から200年にわたって黒死病が猛威を古い、人口の三分の一が命を落としましたが、当時この地域は市街地の外にある緑豊かな森でした。
黒死病には治療法がなく一度罹患したら死が待っています。蔓延を防ぐために、当時城壁の外にあったこの地区(当時はBorouogh Muirと呼ばれていた)に収容所を作ります。市街地の住環境は悪く、富裕層は北のNew Townに新しい街を作ってそこに逃げ込み、患者はここまで到着する事なく命を落とします。
現在Ainsley Hospitalという病院の敷地周辺がかつての収容所でした。そうした事情の為か元の領主が真っ先に土地を手放し、黒死病が治ると新興富裕層が競って瀟洒な住宅を建て、陰惨な歴史は忘れ去られたように見えます。現在は市内屈指の高級住宅街ですがその中に誰も所有しない緑地が残っています。
ここは1600年代に53歳で死亡した薬剤師ジョン・リビングストンの墓地で、黒死病流行の最中、仕事上病人の近くにいたリビングストンも疫病から逃れる事は出来ませんでした。コロナでも病院で働く看護師や医師が多く犠牲になったのですが、400年前にも多くの医療従事者が亡くなったことを偲ばせる重要な記録ではないでしょうか。リビングストンは裕福な学者/薬剤師で家屋敷を持っていたために墓碑が残されていますが、何人の名もない人々が犠牲になった事でしょう。
不動産を求める人なら喉から手が出るほどの立地で、一時は元の持ち主が立ち入り禁止にしようとする動きもありましたが、近隣住民の反対もあり現在は最後の持ち主からカウンシルに譲渡され、手付かずで残される事に。誰でもベンチを利用し休憩する事が許されており、ちょっとした憩いの場になっています。同時に遠い昔に死と向き合い、命を医療に捧げた人を想う重要な記念碑だと思います。