山下英子

英国在住ライター、PR、アーティスト 2001年ポーラ美術振興財団研究助成プログラムで渡英。2003年よりエディンバラ在住。二児の母。

山下英子

英国在住ライター、PR、アーティスト 2001年ポーラ美術振興財団研究助成プログラムで渡英。2003年よりエディンバラ在住。二児の母。

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「堂々としてるんですね」と言われた話

日本では自慢する子は嫌われる もうかれこれ6年も前になる。当時現地の日本語補習校の教諭の仕事をしていたのだが、現地に日本の某大企業が進出することになり、補習校に複数の生徒が一度に入学してきた事があった。 私は4年生の担任だったが、私のクラスにもなおちゃんという子が入学してきた。同級生の帰国が相次ぎ、クラスにはさわこちゃん一人しか残っていなかったので、私も父母も子供も大喜びだった。そして時を同じくしてもう一人ロンドンからやはり駐在員のさとるくんという男の子が転入してくること

    • 子を叩く重さ - 秋葉原通り魔事件に思う -

      前書き 7月26日。加藤智大死刑囚の死刑が執行されました。 無差別に7人を殺害し10人に重傷を負わせた犯人は極刑を免れる事はありませんでしたが、この事件に心がざわつく日本人、特に同世代は多いのではと思います。 氷河期世代という難しい時代に生きた事もそうですが、加藤とその弟が児童虐待の被害者だった事も、多くの人に犯人に対する同情や共感を呼ぶ一因ではないかと思います。 英国で私が見た事例を書き記しておきます。誰かを責める意味も、加藤の起こした犯罪を擁護する意図もないのですが、子

      • 黒死病と美しい庭

         日本、英国共にゆっくりとCOVID-19の状況が安定に向かいつつあるようですが、長い歴史の中でパンデミックは社会構造が大きく変化するきっかけにもなりましたーうちの近所にある美しい庭には、あるパンデミックにまつわる秘密が隠されています。せっかくの機会なのでツイートでつぶやいた内容をまとめておこうと思います。  私はエディンバラ南部の静かな住宅街Bruntsfieldに住んでいるのですが、この平和な地区には疫病にまつわる陰惨な過去が隠されています。15世紀から200年にわたっ

        • 「死ぬもんか」

           学生時代から慣れ親しんだ東京を離れ、故郷に錦を飾る事なく実家に戻った2000年頃、子供の頃から大好きだった叔父が亡くなった。彼が亡くなって間もなく、妻である私の叔母も後を追うように亡くなってしまった。まだ二人とも50代で、今思えば随分若かった。  母は「お金にも家族にもこんな恵まれていたのにね」とぼやいていたが、内心「人が亡くなるのに、そんな事は関係あるのだろうか」と思っていた。叔母は夫と子供が全てのような人で、昔から体が丈夫ではなかったが、叔父が亡くなって一気に健康状態

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        「堂々としてるんですね」と言われた話

          葬い

          待ち合わせ その日、私は西武線の駅で大学時代の友達と待ち合わせをしていた。19歳の呑気で明るい時代を一緒に美大で過ごした友人三人と。本当は四人で、いや六人で待ち合わせているはすだった。クリスマスや週末の飲み会、スキー旅行…輝かしい時代を過ごした仲間たち。  三人だったのには理由がある。一人は結婚して海外に住んでいた。あと二人はすでにこの世にはいなかった。  その日は、亡くなった友人Aの家にお線香をあげに行くために友人と待ち合わせていたのだった。イギリスからの一時帰国の最中

          Memory of Juliette

          私達は皆常に何かを怖がって生きている。無敵の人もいるが、多くの人は何かを恐れて暮らしている。怖がることが優しさや気遣いの元になる事もあるが、反面勇気にブレーキをかけてしまう。 私が怖いのは自分をさらけ出す事だ。アーティストとしては致命的だと思う、自分を正直に表現できない、恥ずかしい。上手に感情を創作物に表せない。どこかで格好つけてしまって、見るに耐えないものばかり出来てしまう。もう20年以上アーティストとして細々活動し大学院に行ってもいまだに駄目なのだ。結局筆が止まってしま

          Memory of Juliette

          僕たちの地下鉄ベビー

          昨日の夜はこれを読んで泣いてた。NYの地下鉄の駅での赤ちゃんと一人の男性との運命的な出会いの話。同居中の同性パートナーに反対されても父親になる事を決めたダニーさん。 いかに女に子供を産ませるかばかり考えている某国の政策とは真逆の、人が人を育てるというのはどういう事か、考えさせられた記事。愛がなくても赤ちゃんは出来るが、それを育てるのは愛なのだと思わされた。 内容を全部訳すのは権利上の問題がありそうなので、以下記事からの抜粋。 ダニーさんが見つけたはだかんぼうの赤ちゃんN

          僕たちの地下鉄ベビー

          そもそも不幸なのは誰ですか

          優生思想のディストピア感 まず私は思いやりがあり、面倒見の良い女だ、というのは前もって断っておく。男性でも女性でもどんな属性でもついつい面倒を見てしまう。お節介な昔ながらのおばさんタイプだ。 が、そのような私でも、女が「弱者男性に充てがわれるべき」という意見は聞き捨てならない。頭に来すぎて昨日の夜からツイートが止まらないので、この機会にちゃんとまとめておこうと思う。 問題となったツイート事の発端は、私のTLに流れてきた吉川ばんび氏のツイートから。氏の言う通り人権無視も良い

          そもそも不幸なのは誰ですか

          書評:高校生を、もう一度 by浦部はいむ

          以前からソーシャルでも活躍されている漫画家浦部はいむさんの待望の単行本。ついにイギリスで入手してまとめて読むことができましたが、やはり心に火が灯るような優しさに溢れていました。人間関係のすれ違いで高校を中退しパートで働く22歳の七海の視点で描かれた、色々な事情があって定時制で学ぶ人達の生き様を描いた短編集のような本。 各々のエピソードが、七海とその相棒とも言える32歳のシングルマザー木村さん中心に描かれている。木村さんは幼く見えるけど17歳の娘がいるしっかり者。決してエリー

          書評:高校生を、もう一度 by浦部はいむ

          正しいけれど、つまらない

          最初に断っておくと、私は正しくてちょっとつまんない人が、割と好きだ。深く掘り下げて話をすると意外と面白かったりする事が多いし、同性でも異性でも、ちょっと真面目すぎる常識人間が好みだったりする。自分自身がちょっとエキセントリックだし、人は真逆の相手に魅力を感じるものかもしれない。 でも世の中には自分一人じゃ退屈な人、刺激が欲しい人、そして誰かに計画を立てて動いて、楽しませて欲しい人というのはいる。そういう人にとって相手の「つまらなさ」というのは耐えがたい。 それは男性の側で

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          悲しくなるのを止めてみた

          「こんな事を言われて悲しくなりました」 家族、友人、同僚にこんな事を言われて悲しくなった…という言い回し。優しげで控えめで、日本社会でならいい印象を与えそうなんだけど、私は誰かの無理解に対して「悲しくなる」のをやめる事した。  思えば悲しくなり続ける人生だったと思う。子供らしくない、女の子らしくない、落ち着きがない、母親らしくない、協調性がない、社会性がない、男にこんな事を言われた、女にこんな事を言われた、年上の人にこんな事を言われた、彼氏に言われた、日本人に言われた、イギ

          悲しくなるのを止めてみた

          借りたままの、5ポンド

          2002年の9月。私はエディンバラ某所でバスを待っていた。 ロンドンで修士論文を提出し、1ヶ月半の自由な時間に私はスコットランドのエディンバラに渡って、ずっとやりたかったリサーチをし、論文を書き、版画工房が閉まった後はサルサの教室に通っていた。 ロンドンにいた頃、現地のサルサシーンにすっかり夢中になった私は、エディンバラでたまたま通りかかったEl Barrioという南米風のバーの「サルサ教室、予約不要 £5」の張り紙に惹かれて、毎晩そのバーの教室に通い、フランス人の女友達

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          オールドマン・オブ・ストー|The Old Man of Storr

           オールドマン・オブ・ストーは、スカイ島の名所の一つである。まるで老人が聳え立っているような形の奇岩。高い丘の頂上に立っており、かなりの遠景からでもその姿が確認できる。  その奇岩のふもとまでの道のりは比較的容易なトレッキングコースだが、大人でも軽く息が切れる。2012年の10月に家族と行ったそのコースの入り口の駐車場で、私はインド人の家族と鉢合わせた。  父親、少し歳の若そうな母親、13歳くらいの息子と10歳くらいの娘の4人家族。夫と小学生の息子二人が先に行ってしまい、

          オールドマン・オブ・ストー|The Old Man of Storr

          「素敵なみよ子さん」が消えた日

          最近、年をとって忘れっぽくなってきました。特に日本の外にいると、日々思い出がおぼろげになり、日本語も怪しくなる。これは日本とイギリスの子供を取り巻く環境について、といったような社会問題についてでなく、あくまで私の子供時代の思い出についてですが、すっかり忘れてしまう前に書き記しておきたいと思います。 4歳の私が見つけた絶好の遊び場 私は現在イギリスの北のエディンバラという街に住んでいる。この街では、というかイギリスのどの都市でも、もし未就学の子供が一人でウロウロしているのを

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          昨日と今日の物語:映画『イエスタデイ』

           事故にあって目覚めたら世界が変わっていたというありふれた設定、演技のできないエド・シーランを本人役で起用する無謀さ、「大きなスクリーンに向かないコメディエンヌ」という悲しい側面を見せてしまったケイト・マッキノン、お約束過ぎる間抜けな親友、そして筋書きがもうリチャード・カーティスの過去の映画(特に『ノッティングヒルの恋人』)の焼き直し…『スラムドッグ・ミリオネア』のダニー・ボイルと、『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティスによる映画という事で期待を集めていた『イエスタ

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          居場所を探し続ける「異端」の物語-『ボヘミアン・ラブソディ』(2018)感想その①

           夫がいないのを良いことに、息子二人と話題の映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観てきた。思った以上にセクシャルな同性愛シーンが多かったので、多感な年齢の息子達にはどうかと思ったが、そこは流石にイギリス育ちで全く動じてはいないようだった。  『ボヘミアン・ラプソディ』は言わずと知れたバント<クイーン>のボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記的映画。彼らをよく知るファン曰く事実と異なる点も多いとのこと。私は<クイーン>はカラオケで「ボヘミアンラプソディー」と「ブレイクフリー(自由

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