始めるまでの話
前回はこのプロジェクトを行う動機について書きましたが、今回は始めるまでの話。
私は以前ソニーで働いていたので、ソニーソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)とも何度か関わりがあり、最近農業を始めた人がいるという記事をチラッと見たことがありました。余談ですがソニーCSLはとてもおもしろい研究所で、「コンピュータサイエンス」という名前でありながらテーマはとても多彩で、ソニーの事業やコンピュータサイエンスそのものとはかけ離れているように見えるものがたくさんあります。
Explaygroundの今後の方向性として、人々の自律的な暮らしかたという視点が大事だという話が出て、同僚がソニーCSLの協生農法の研究室で活動している人を紹介してくれたことが、協生農法との出会いでした。私のそれまでの農業体験といえば、子供の頃に父親が作っていた家庭菜園を手伝っていたことがある程度で、それ以降もっぱら「野菜や果物はお店で買うもの」という意識でした。自宅に庭があったとしてもたぶんそこで野菜を育てようとは思わなかったでしょう。畑を耕して、肥料をやって、病気の手当てをして、など色々と決まったことを忠実に手間をかけてやるとようやく売り物よりやや劣るものが手に入る、という先入観があり、なんか性に合わない気がしていました。
そんな気持ちを持ちつつ、協生農法についての動画を観てみました。
印象に残ったポイントは、地球環境の持続性に重要な考え方であること、アフリカの砂漠地方に緑と収入を取り戻すことに成功していること、将来的にビッグデータとコンピューティングパワーを活用しようとしていること、これを推進している舩橋さんがワイルドな生き方とコンピューティングという一見ギャップのありそうな感覚を兼ね備えていらっしゃることでした。
地球環境については、Explaygroundの活動フィールドである東京学芸大学にも環境教育の分野があります。私自身は、環境破壊や地球温暖化などの環境問題は当然認識しつつ個人で必要以上に環境に負担をかけるようなことは控えたいと思ってはいますが、環境問題への取り組み方として不便を我慢するという方向はなかなか難しいなと感じていました。一方で、私は科学技術を進めて新しいことが解明されたり新しいことが実現できるようになったりすることは大好きですが、その裏をかいているのではないかと思えるくらいの災害が近年頻発しているように見えることも気になっていて、「果たして人類はすべてを解明してコントロールしようとするだけで良いのだろうか」という疑問も感じていました。手放したくないけど頼り切るのも心配、という感じ。もしかすると協生農法はそのモヤモヤを考えるヒントになるのではないか、と感じました。
次に、舩橋さんの講演動画を観ました。
そして、公開されているマニュアルも読んでみました。
そうして「これはやってみたいな」と思ったことの要点が前回の記事で書いたことです。個人的には、初めて菜園を作ってみたいと思いました。前回の記事で書いていなかったポイントとしては、以下のようなことがあります。
- 小規模でも始められる
- 道具にほとんど投資しなくて良い
- 毎日面倒を見なくてもやれる
- でも放ったらかしではなく頭を使う
- どうなるか完全には予測できないので、飽きない
- まだやってる人が少ないので、素人でも引け目を感じない
これは実はExplaygroundとしても重要なポイントである気がします。Explaygroundは東京学芸大学とMistletoeが産学連携で新しい学びのありかたを模索している活動です。東京学芸大学は先生を生み出す(教員養成)大学であり、かつ様々な分野で「○○ x 教育」を研究している大学でもあります。未来の学びのありかた、しかも子どもだけでなく全世代に渡る学びのありかた、そしてそのサポート(広義の教育)のあり方を考えるとき、それぞれが自分の興味に取り組む敷居をもっと下げたいし、学びの集積が社会を良くすることに役立つとうれしいし、教育も「知識を授ける」だけではなく学ぶ人に寄り添って共に学ぶという姿勢を大事にしたい。実際に自分が一人の「学ぶ人」になってみたとき、上記のようなポイントが一歩を踏み出す鍵なのであれば、それはもしかすると他の分野の学びにも共通するのかもしれませんし、学ぶ人によって異なる個性なのかもしれません。
(フジムー)
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