EDI・コラム「「妥当」な価格を見つけるには?オークション理論の活用(岡本 実哲)」
こんにちは!エコノミクスデザインです。
エコノミクスデザインは、アカデミアサイド3名、ビジネスサイド1名の計4名が2020年に「経済学をビジネスに活用すること」を目的に共同創業した会社です。
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この記事では、エコノミクスデザインで活躍する研究者が執筆したコラムをお届けします。
「妥当」な価格を見つけるには?オークション理論の活用
エコノミクスデザイン エコノミスト
岡本 実哲 (明治学院大学 経済学部経済学科 准教授)
何かモノを売りたいとき、どう値付けをすればいいだろうか。同じモノがすでに市場に出回っていれば、それらの価格や売れ行きを参考にできる。しかし、新商品を発表するとき、一点モノを売りたいとき、中古品を売りたいときなどは判断が難しい。類似品はあっても、まったく同じモノがないからだ。こういったとき、競争は「妥当」な価格を見つけるための優れた手段である。徒競走をすると「一番足の速い人が誰か」、「参加した人たちの速度」がわかるように、売りたいモノについて価格競争をすると「一番高く払えるのは誰か」、「買い手たちが払ってもいい金額」がわかるからだ。
オンラインフリーマーケットを展開するメルカリが、2024年5月に「価格なし出品」機能の提供を開始した。出品する際にどのような価格付けをすればいいのか悩んでいるユーザーが多くいることへの対応である。「価格なし出品」がされた場合、そのモノを買いたいと思った人は、価格を提示したうえで出品者に購入希望を出す。この購入希望を売り手が承諾すれば、買い手が提示した価格で売買が成立する。
この出品方法について考察をしてみよう。売ってもいいと思える価格で複数の買い手からで購入希望が出されたとき、売り手は買い手の評価などを考慮したうえで、基本的には一番高い価格を提示した買い手の購入希望を受諾する。つまり、買い手間で競争が起きている。この出品方法での競争は、オークション理論でいうところの封印型第一価格オークションという方式に似ている。
オークションは、価格について買い手に競争させることによって価格を発見する装置である。本稿では価格発見装置として働くオークションについて、いくつか方式を挙げながら考察していく。
封印型第一価格オークション:
各買い手は購入希望金額を入札する。一番高い金額を入札した買い手が、自分の入札した金額で落札する。
買い手としては購入できるならば、できるだけ安い価格で購入したい。そのため、この方式のもとでは、買い手は自身が払ってもいいと思える額を上限に、他の買い手にギリギリ勝てる金額を提示したい。すなわち、買い手は「払ってもいいと思える最大の金額」を正直に提示するインセンティブがなく、買い手間での駆け引きが生じるのである。
一方で従来のメルカリ出品方法ではどうだろうか。売り手は価格を提示したうえで出品する。それに対して買い手が購入希望を出すと、その価格で売買が成立する。一見すると、買い手が購入するかどうかは売り手が提示した金額が払ってもいい金額以上か以下かで決まるため、買い手間での競争がない。しかし、実際にはこの出品方法でも買い手間での競争が起きている。出品したモノが売れ残った場合、売り手は提示する価格を下落させていく。そのため買い手はすぐに欲しいなどの場合を除いて、できるだけ価格が下落したあとで買いたい。ただし、誰かに先に買われてしまったら買えないので、他の買い手が購入希望を出すギリギリ前に購入希望を出したい。出品者による価格変化のさせ方やコメントでの交渉機能など差異はあるが、従来の出品方法はオークション理論でいうところの競り下げ式オークションという方式に似ている。
競り下げ式オークション:
高い価格からオークションをスタートして、時間とともに徐々に価格を下げていく。誰か買い手が購入希望を出すと、その人がその時の価格で落札する。
メルカリの従来の出品方法と新出品方法について考察してみたが、どちらの方法も買い手の競争によって価格が決まっていることがわかった。また、どちらの方法でも買い手は「払ってもいいと思える最大の金額」をもとに正直に行動するのではなく、他の買い手にギリギリ勝てる行動をしたい。そのため売り手は「買い手たちがいくらまで払ってもいいのか」について真の情報ではなく、駆け引きが生じたうえでの情報しか集めることができない。それでは、駆け引きが生じず、買い手が「払ってもいい最大の金額」を正直に申告する方法はあるだろうか。ここで、封印型第二価格オークションという方式を紹介する。
封印型第二価格オークション:
各買い手は購入希望金額を入札する。一番高い金額を入札した買い手が、二番目に高い入札金額で落札する。
この方式のポイントは、落札した買い手の支払額が自分の入札額に左右されないところである。例えば、自分が最大払える金額が1500円で、他の買い手の中で最も高い金額が1000円だとしよう。このとき、1001円とギリギリ勝てる入札をして勝った場合と、1500円と正直に入札して勝った場合で支払額は変わらない。またギリギリ勝とうとすると、他の買い手を下回ってしまって勝てなくなる可能性もある。そのため、この方式のもとでは買い手は「払ってもいい最大の金額」を正直に入札するインセンティブがある。そして、売り手は「買い手たちがいくらまで払ってもいいのか」について真の情報が集めることができる。同様に、オークションといったときに多くの人が思い浮かべる競り上げ式オークションも買い手は正直に行動するインセンティブがある。
競り上げ式オークション:
低い価格からオークションをスタートする。徐々に価格があがっていき、最後に残った一人が、その時の価格で落札する。
※価格は最後に降りた人の金額で決まる。つまり、落札者の支払額はその人がいくらまで残るつもりだったかに左右されない。そのため、買い手は自分が払ってもいい最大の金額まで競争し続けるインセンティブがある。
本稿では、モノの「妥当」な価格を見つける手段として、さまざまな競争について論じた。方式ごとに性質が異なり、特に買い手が「払ってもいい最大の金額」に対して正直に行動する方式と、そうでない方式があることを紹介した。メルカリの出品方法はどちらの方法も、買い手は正直に行動するインセンティブがなく駆け引きが生じてしまうが、ルールがわかりやすい、買いたいときにすぐ買えるなど、参加がしやすい。売り手の多くは、出品物を売りたいのであって、買い手がいくらまで払ってもいいのかについて真の情報を集めたいわけではない。そのため、ユーザーを多く集めて活発に売買活動をしてもらうという観点では優れたプラットフォームデザインだといえるだろう。
こういった制度設計では、何を売りたいのか、何を目的としているのかに応じて適切なデザインが重要となる。オークション理論では、本稿で紹介した特徴以外にも、落札金額を高くするための手法や、買い手が参加しやすくするための手法などについても研究している。このような学問の知見を応用することは、望ましい制度を設計するうえで重要である。
様々な分野で活用が広がる制度設計の知見
エコノミクスデザインでは、経済学の専門知を起点とした制度設計を様々なクライアント様と共同で行っております。
公開している事例としては、マイベスト様、AppBrew様などとの事例がございます。
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商品やサービスに対する新たな評価手法を、おすすめ情報サービス「mybest」がエコノミクスデザインの慶大教授と開発
マイベスト様プレスリリース:
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今回のコラムで取り上げた複数アカウントによる不正行為などに関連して、何か知見が必要となった場合には、ぜひご相談ください。
終わりに
エコノミクスデザインでは、様々なメンバーが自身の担当領域に関する案件に従事し、企業の課題に対して、経済学を用いたコンサルティングを行なっております。
現在、多くの研究者がエコノミクスデザインに参画し、様々な分野の研究者が案件に従事しています。
また、今では、上場企業やグローバル企業を含む、数十社以上の企業にコンサルティングを提供するまでに成長しました。
エコノミクスデザインでは今回のコラムに関連しない分野の研究者も多く在籍しています。今回のコラムに関連しない分野でも、何かビジネスでお困りの課題があったら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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