ジョージ・カーリンとリチャード・プライヤーのラップバトルの和訳
はい、というわけで趣味の和訳です。
今回は「ジョージ・カーリンvsリチャード・プライヤー」。「誰やねんお前ら」と正直思ってしまいましたがアメリカにおける超有名コメディアンらしいです。それでは行ってみましょう。
【この記事の見方】
英語歌詞
日本語訳
解説
ジョージ・カーリン
Here we go, it's George Carlin. I'm a mad dog snarling.
さあ始めよう!ジョージ・カーリンだ、僕は唸る狂犬
(自分のガラガラ声と犬を比較してます)
I was born in the Bronx and brought up in Harlem.
僕はブロンクス生まれ、ハーレム育ち
(カーリンはニューヨークのブロンクス自治区生まれで、同じニューヨークのマンハッタン自治区近隣であるハーレム育ち。ともにヒップホップにおいてはその誕生にかかわったことで聖地という扱いを受けています)
I'm dope at spitting bars and getting crowds hardy harring,
ドープなバースを吐き、人々を爆笑させれるんだ
(前述でヒップホップの聖地「ブロンクス」と「ハーレム」に言及しているため、ラッパーがよく使うフレーズである”spit bars”や”dope”を交えながら自分のスキルを誇っています)
While you're the least threatening black dude since Carlton!
一方君はカールトン・バンクス以降テレビにおける黒人たちの中で一番怖くない存在だ
("The Fresh Prince of Bel-Air"「ベルエアのフレッシュプリンス」はウィル・スミス主演のテレビドラマ。カールトン・バンクスはこのドラマの登場人物。とても責任感もあり優しい人物ですが、身長が低いことや内気な性格の為にたびたびドラマの中でもネタにされていました。カーリンはこのカールトンバンクスが登場した以降で最も弱い、怖くない黒人であると述べています)
Now, there's seven words you can't say on a TV set,
現在、テレビに出るにあたっては「放送禁止用語」が七つ存在しているね
(ジョージ・カーリンは1972年のインタビューで「テレビでは言うことができない七つの放送禁止用語があるんだ」という名目で七つの放送禁止用語を上げました。ここからその七つの放送禁止用語を混ぜたラインを放ちます)
But this is the pissing fucking cunting Internet
しかし、ここは小便垂らしながらクソ女とファックできるインターネットだ
(実際ERBが投稿されているのはyoutubeや音楽ストリーミング配信サイトといったインターネットなので、放送禁止用語を気にする必要はないと言っています。ここにおける放送禁止用語は"piss","fuck","cunt"…意味はそれぞれすごくソフトに書くと「小便」「ファックする・性行為すること」「女性器・クソ女」。おそらく直訳すると「クソ、クソ、クソヤバイインターネット」みたいな感じですがそれぞれの単語を無理やり入れました。意訳にもほどがあるのはユルシテ)
And my cocksucking motherfucking bits are the tits!
そんで僕は間抜けなマザファッカーであり君の「パイ(倍)」以上最高なんだ!
(直訳すると「僕はクソ野郎でクソ野郎で超最高」なのですが、無理やり放送禁止用語を入れるためにかなり無茶しました。ここにおける放送禁止用語は三つで"cocksuck","motherfuck"."tit"…意味はそれぞれまたソフトで書くと「股間をしゃぶるような卑屈で間抜けな奴」「ママとヤる臆病なやつ」「乳・またはクソ女」って意味。なお"cock"だけでもだいぶ汚いフレーズ扱いされることもありますがここでは置いておいて…これらの言葉は「クソヤバイ」に近い意味でも使われることがあり、「the tit」で「最高」という意味になります。今回は元の意味の「乳」という意味をなんとか和訳に入れるために「倍以上」という原文に存在していない比較表現をぶち込んで倍の字を「パイ」として無理やりねじこみました…いやあ、翻訳のプロってすげえなあといつも思っております)
Non-stopping brain droppings like my wit’s got the shits!
僕の脳からのフンは止まらないんだ、まるで下痢のようにでまくる僕の頓智みたいにね
(そしてラストの放送禁止用語である「shit」、意味は「糞」。更に"have/get the shits"で「下痢をする」という意味になります。そして"brain dropping"はカーリンによって書かれた1997年に刊行されたコメディ本。タイトルを直訳すると「脳からのフン(droppingsで落下物と同時に動物、主に鳥のフンを意味しています)」になり、これらの言葉を使って自分の機転のよさを述べています)
So call this Pryor-rhea: I doo-doo on you constantly!
君を「下痢チャードプライヤー」って呼ぶよ、君に延々とクソをしてやる!
(前述のラインにも出てきた下痢を意味する"diarrhea"とリチャードプライヤー(pryor)の名前をかけていて、前述のような「頓智」を実践しています。恒例の名前いじり)
No pauses in my punchlines, no commas in my comedy!
僕の笑い話の最中でも、「オチ」の部分でも話が行き詰まることはない!
(ヒップホップにのける「パンチライン」といえばインパクトのある歌詞の一節と使われることがありますがコメディにおいては少し意味が違い、俗にいう「オチ」に当たる場所を指します。カーリンのようにステージで一人でマイクを握り面白おかしい話をするスタイル…日本で言えば綾小路きみまろとか、あんな感じのスタイルを"stand-up comedy"と指し、カーリンの得意としたスタイルです。彼の延々としゃべり続けるようなコメディスタイルをこのラインでは表しています)
You'll be down for the count when this counter-culture counterman
君はノックアウトされることになるだろうな!このカウンターカルチャーのカウンター係が…
(『カウンター』という言葉がやまほど出てきますが…頑張って一つずつ解説していきます。まず"down for the count"でボクシングなどでノックアウトされることの意味になります。次にカーリンのコメディの基になる話題は政治や社会問題などを皮肉ったものでした。『カウンターカルチャー』とは日本でもしばしば聞く言葉ですが要は主流の考え方や慣習に対して反抗する形で表現する文化のことを指します。そして"counterman"はカウンター係、お店のカウンター係で注文などを受けたり商品を渡す仕事をする人のことです。なぜこのフレーズが出てきたかは次のラインで明らかになります)
Serves you with a stand-uppercut you can't counter, damn!
君にスタンド・アッパーカットをサービスしてもカウンターできないだろ、クソッタレめ!
(まず"serve"で「(サービスを)提供する」という意味である同時に「(食事)を出す」という意味もあります。前述のカウンター係がここに繋がってくるというわけです。さてその次の"a stand-uppercut"は「スタンド・アッパーカット」。一見ボクシングの技かなんかと思ってしまいますが、これはカーリンとプライヤーが行っていた前述の『stand-up comedy』の中で話される洒落、面白話のことです。カーリンはプライヤーに対してカウンターができないようなアッパーカットをお見舞いしてやるぞという攻撃的なラインをこのような言葉遊びを交えて伝えているんですね)
I'm Wilder than Gene when I'm killing the beat!
僕がビートの上でぶっかますときはジーンより「ワイルダー(Wilder)」なんだ!
(ジーン・ワイルダー(Gene Wilder)はプライヤーの相方的存在のコメディアン。彼の苗字に当たる"Wilder"を自分をほめたたえるための比較形として使ってます。)
You're steady taking second place, now that's a Silver Streak!
君はゆるぎない2位にいる、今や「シルバー」続きってやつだな!
(1976年公開の映画"Silver Streak"(大陸横断超特急)では前述のワイルダーとプライヤーがともに出演しています。Silver Streakは彼らが作中で乗る列車の名前。"second place"とは、スポーツなどにおける「二位」の人間を指す言葉です。オリンピックなどで二位の人は銀メダルをつけます。また『streak』で「~続ける」という意味もあるらしくカーリンはこの「シルバー」を銀メダルのようなものと位置づけ、揶揄しています。またジョニー・カーソンという方が司会を務めた番組「ザ・トゥナイト・ショー」で二人が共演したときにカーソンが「ジョージ・カーリンはこの業界の第一人者だ」と言った、という点も参考にしているのではと思われます)
リチャード・プライヤー
Any rap battles with you, I'll be winning 'em!
あんたとのラップバトルならいつでも自分が勝つだろうね!
(カーリンの最後のラインへの反撃)
Your style's like two drinks: it's the minimum!
あんたのスタイルはまるで「ツードリンク制」みたいに、「最低限」だな!
(日本でも音楽のライブイベントなどをライブハウスに見に行くとき、入場料とは別にドリンクを頼まなくてはなりません。アメリカではコメディショーを見るときも同じように最低限アルコールなどをツードリンク頼まなくてはいけないとされています。プライヤーはカーリンのスタイルは"minimum"…最低限の人しか笑わすことしかできないということをこのツードリンク制とかけてdisっています)
(Ooh!) It's ya boy from Peoria, Illinois!
(Ooh!)自分はイリノイ州のピオリア育ち!
(カーリンが自分の出身地を述べていたのでプライヤーも自分の出身地を述べています)
One hand on my mic, one hand on my groin
片手に一本のマイク、股間にもう片方の手を置いてな
(プライヤーは自分のジョークをしゃべっている間しばしばクセで自分の股間らへん、厳密にいうと"groin"、鼠径部あたりにマイクを握っていない手を置いていました)
'Cause ain't no set tighter in this whole damn game
だってこの対決をクリアするのは楽勝だからね
("tight five"と呼ばれるスタンドアップコメディの練習方法になぞって、カーリンを倒すことは簡単だと言っています)
Even the shit that I spit off the top: flames! (Stand up!)
思い付きで吐いた言葉でさえ「激アツ!」(スタンドアップ!)
("off the top"は思い付きで言葉を発すること。スタンドアップコメディにはたびたびアドリブというか即興で面白いことを言うこともあります。また、実際のMCバトルも即興で行われているのでそれとかけたのかなあと思います。また「激アツ!(flame!)」についてですが、動画の中でプライヤーの頭に火がついています。これは1980年にプライヤーが麻薬とアルコールの摂取による影響でおかしくなってしまい、自分の頭に火をつけ、自殺しようとしてしまった事件とかけています)
My delivery is rupturing the tummies!
自分はみんなの腹が破裂するくらいの話をするんだ
(日本でもかなり爆笑したあと「腹が破れるかと思った…」という人を見たことありませんか?アメリカでもこれと同じ表現があるんだなあとこれで知りました。プライヤーは自分のコメディの実力が高いことを述べています)
You tell a joke and people go, "Hmm, that's funny."
あんたのジョークのみんなの反応は「ふーん、おもろいやん」
(前述のプライヤーの場合は大爆笑に対し、カーリンのコメディは客が「面白い」とは思いつつも爆笑を取れるようなものではないと比較しています)
My mama was a prostitute and grandma ran the brothel!
自分の母さんは売春婦、おばあちゃんは売春宿の経営者だったけどさ
(プライヤーの育った環境はかなり劣悪で、自分の母親が売春婦、祖母は売春宿を所有していました)
Seen some shit but not as awful as your haircut debacle!
その中で経験してきた事よりもあんたの髪型のイメチェンのがひどいな!
(本来スタンドアップコメディにおいてはスーツ姿で行うというのが普通でした。現にカーリンも若いころはスーツなどきっちりした格好でした。そんな中で1970年代初頭、カーリンはその後彼の基本スタンスとなるTシャツ、ジーンズそして長い髪の毛に髭を生やすという格好をしたため多くの反発を受け、一時期干されてしまいます〈ただ彼の実力などによってまた大舞台に戻ることができました〉。プライヤーは前述のように劣悪な環境で育ってきましたが、そこで経験した事よりもカーリンのイメチェンした髪の毛がひどいとけなしています)
I'm the original brother (Hey!) to give the scene some color! (Hey!)
自分はこのコメディシーンに「色」をつけた第一人者なんだ!
(白人たちがメインであったコメディ界隈において、プライヤーは黒人コメディアンの第一人者として活躍しました。もともと「白」だった中に「黒色」をつけたということですね)
The most iconic stand-up comic! Stand down, motherfucker!
スタンドアップコメディの象徴だ!座っとけマザーファッカー!
("stand up"の反対語である"stand down"をつかって自分はスタンドアップコメディの象徴なのだと言い放ちます。また、プライヤー自身マザーファッカーのような汚い言葉をよく話の中で使っていました)
さあここでERBではおなじみにになった乱入者です。三人目はビル・コスビー。彼もまた有名なコメディアン・俳優です。
ビル・コスビー
Hey, you forgot the Cos and you know it's a mistake!
おいおい、コスを忘れてるなんてミスを犯すなよ!
(乱入してきたビル・コスビーが二人に自分のことを忘れてないか?と尋ねます。)
I eat emcees for breakfast like they're made of chocolate cake!
このMCどもを食うなぞ、自家製チョコレートケーキを食うように朝飯前だな!
("Chocolate Cake For Breakfast"は、ビル・コスビーのコメディの中でも傑作とされる作品の一つです。それにちなんでプライヤーとカーリンを倒すなんて簡単だと言っています)
I'm the greatest...
ワシは最高でな…
What's wrong... what's wrong with my lip?
あれ…変だな…唇が上手く動かんぞ…?
Did somebody put something in my pudding?
誰かワシのプリンの中になんか入れたのか…?
They put something in the pudding. It's in the pudding...
プリンの中になんか入れたんだろ…プリンの…中に…
(おそらくここで初見の人は「えっ?」となると思います。僕もなりました。このバースの中でコスビーは徐々に意識が朦朧としていきます。そしてプリンの中に何か入ってるのではないかと疑い始めます。コスビーは1974年からしばしばジェロというお菓子会社のプリンのコマーシャルに出演していました。朦朧としていく中で彼は誰かに自分の食べたプリンの中に薬を盛られたと確信していき、最終的には気を失ってしまいます。このラインはコスビー本人の性犯罪スキャンダルが関係しています。彼は2004年の大学職員の女性の飲むワインに薬を混ぜ、そのまま性行為まで行ったとして起訴されてしまい、昨年2018年9月に実刑判決を受けました。この一件は世界で広まった「#me too運動」によって告発された有名人たちの中で初の有罪判決を受けたとして、更にそれがアメリカの中でも超有名人であるビル・コスビーであることもあって大きな話題になりました。まあ簡単にいうと時事ネタです。)
※ちなみにビル・コスビーはこれまでERBの歌詞の中で名前だけなら二度登場しています(「Mr.ロジャースvsMr.T」と「ドナルド・トランプvsヒラリー・クリントン」)
また退場の仕方もあり意外かもしれませんがこのあと二人乱入者が現れ、五人のコメディアンがラップするのですが、彼らの中で動画がアップロードされた時(2019年7月)に存命中なのはコスビーただ一人です。
四人目の乱入者はジョーン・リバーズ。アメリカのコメディ界隈において女性として最初に成功した人物と呼ばれています。
ジョーン・リバーズ
Oh, shut up, you stupid son of a bitch, you know you blew it!
あー、黙りなさいよ!このクソバカ男、あんたは大失敗を犯した
("son of a bitch"は人に使って使う場合マザーファッカーに匹敵するレベルの悪口。コスビーに向かって言った「大失敗」は前述の強姦容疑のことを指しています)
I'd have attacked you two first, but your hearts beat me to it! (Oh!)
あと私は最初にあんたら二人攻撃しようと思ったけど、もう自分の心臓にやられたみたいね!
(プライヤーとカーリンは二人とも心臓病で亡くなっています)
Cosby, you can't be here! (Ah!) You're making people nervous (Ah!)
てかコスビー、なんでここにいるのよ!みんなあんたに怖がってるの!
(コスビーは前述の様々な容疑があるので、"people"、ここでは「みんな、聴衆」がまた同じようなひどいことをするのではないか?と不安がっているのを伝えています)
So let me end you real quick like I was Hannibal Buress! (Ohh!)
ハンニバル・バーエスがネタにしたようにあんたをさっさと終わらせてあげる!
(ハンニバル・バーエスはアメリカのコメディアン。コスビーの強姦容疑が出たのは近年ではなく、実は2004年に一度起訴されています。しかし、裁判所はお互い合意の上だったという判決を下し、彼は無罪になります。
そういった中で、コスビーに対する風刺・批判を交えたスタンドアップコメディを行ったのがバーエスです。たとえば「ぼくの名前をGoogleで検索するよりも、『ビル・コスビー 強姦』で調べた方が検索結果の量が多いだろう」というもので、彼のこういったジョークが広まっていくことで多くの女性がコスビーから過去受けた性的暴行を告発するに至り、最終的には60人近くの女性から訴えられてしまいます。リバーズはこのバーエスの話を取り上げてバーエスがネタにした後のようにコスビーを終わらせてやると言い放っています)
It turns out you were just like your sweater: monstrous!
あんたが着てるセーターのデザインみたいにとてもひどい奴ってのは知れ渡ってる!
(“monstrous”は怪物的、とても醜いという意味の単語。コスビーのファッションの特徴として派手な柄物のセーターがあります。リバーズはこのセーターのデザインのようにひどい奴なのはみんな知っていると批判しています)
The men that I slept with only wish they were unconscious!
私と寝る男たちに対して唯一願うのは意識が無くなっていることなの!
(しばしばリバーズは性的なジョーク、つもり下ネタを得意としたコメディアンでした。コスビーが女性をこん睡状態、つまり意識が無くなっている状態で強姦を行ったという話にちなんで、「自分と今から寝る男は意識がなくなっている、つまり自分が相手だと分からない状態でいることを願っている」という自虐を交えた下ネタを言っています)
My sex jokes offend, you're on the sex offender registry!
私の下ネタはお嫌いかしら?だってあんたは性犯罪者のリストに載ってるものね!
(コメディは普通聞いたら笑うような話をするものです。しかし、ひとつ前のリバーズのラインはコスビーが行った強姦を踏まえたようなラインなのでこういった下ネタが嫌いでしょ、と言っているわけです)
Oh, who are you wearing now? Is that State Penitentiary?
ねえどこのブランド着てるのよ?州の刑務所の奴かしら?
(リバーズはコメディアンとしてだけでなく司会者としても活躍し、有名人のファッションチェックの番組「ファッションポリス」の司会を務めていました。”Who are you wearing?”は、芸能人たちに対して何処のブランドか、デザイナーは誰か聞きたいときに使われるフレーズです。またコスビー自身前述の容疑が有罪となり、2018年9月にペンシルベニア州刑務所での3年から10年の懲役刑を宣告されているので、「州の刑務所」というフレーズが出てきています)
Enough with the roofies, let me move on to Rufus.
睡眠薬(フルニトラゼパム)についての話はここらにして、ルーファスに話を移しましょうか
(ここでdisの対象をコスビーからカーリンへと移します。「ルーファス」とはERBにも出てきた「ビルとテッドシリーズ」の登場人物で作中ではカーリンが演じています)
※余談ですがビルとテッドシリーズがなんと2020年の夏に新作公開されるとか。楽しみ~~~
My jokes always had bite, you started out toothless
私のジョークはいつも何かに噛みついていたのよ、あんたの牙が抜け始めたころにね!
(リバーズのジョークは前述の下ネタのようにエッジの効いた皮肉やどぎつい表現が多かったです。彼女がこういったジョークで人気が出る頃にはカーリンはどぎついネタを控えるようになったためそれをdisっています)
And you just kept talking, you wouldn't shut up.
そしてあんたはほぼ黙らずに延々と喋るわよね
Honestly, I'm glad you died. Fourteen specials was enough!
ぶっちゃけ死んでうれしいわよ、14回の特番で十分だもの!
(“Fourteen specials”とは、カーリンを特集したHBOの特番のことで彼が死ぬまでに計14回組まれ放送されました。リバーズはカーリンの延々と長く続くおしゃべりにはうんざりしているので、その14回の特番でもう十分だとカーリンに告げます)
And Richard, can we talk? Can I call you Dick?
そんでリチャード、ちょっといい?あ、「ディックソ」て呼んだがいいかしら?
(「ディック」は「リチャード」という名前の人に対して最も使われるあだ名であり、”Dick”で「男性器」、またそこから意味が派生して「クソ野郎」という意味になります。また”Can we talk?”は、リバーズが頻繁に使っていたフレーズでもあります)
Like your fifth wife did when you remarried your sixth?
あんたが6回目の結婚をしたときの5回目の元嫁みたいにね
(プライヤーは合計で7回も結婚し、そのうちの2回は一度離婚した女性との再婚でした。ここでいう「5回目の嫁」は女優のフリン・ベレーンという女性。彼女とは1984年、ワシントンでの公演がきっかけで知り合ったとされており、1986年10月に結婚しましたが、結局その翌年の1987年7月に離婚しました。そのあとの1990年4月に再婚しますが、これも長くは続かず1991年7月にまた離婚。そして最終的にプライヤーはフリンと結婚する前の嫁であるインテリアデザイナーであるジェニファー・リーと再婚し、彼が2005年に死去するまで離婚することはありませんでした。このジェニファーがここにおける「6回目の結婚」をした相手。なお厳密にいうとジェニファーとの結婚は7回目なのですが、おそらくここの歌詞ではフリンとの結婚→離婚→再婚→離婚までのサイクルを一つとして捉えているのではないかと思います。リバーズは「ディック」と呼んだ前述のラインから続けて、まるで再婚を知った時のフリンのように侮辱した呼び方で呼んでやると言い放ちます)
At this point, I've got more plastic than flesh,
今んとこ私の体には肉よりもプラスチックのが多いわよ!
(リバーズは形成外科手術を行っていることを公言しており、1983年からトランプの元妻などの手術も行っているスティーブン・ヘフリンの元で手術を受けていました。その数はなんと348回にもなります。”plastic”で「プラスチック」という意味でもありますが、”plastic surgery”で「形成外科手術」という意味があり、この言葉とかけています。また”At this point”で「現段階で」という意味になりますが、リバーズは2014年、合併症によって死去しているので彼女が死んだ段階での体内の手術によるプラスチックの量とも考えられるのではと思ったり)
But my Tupperware body couldn't keep your raps fresh!
でも私のこのタッパーウェアみたいな体でもあんたらを新鮮にはできないわ!
(“Tupperware”は「タッパーウェア」というプラスチック製の保存容器を作っている企業。リバーズの手術をしまくったことを踏まえて実際に言った「私が死んだとき、タッパーウェアに体を寄付するわ」という発言からのライン。手術されまくってプラスチックだらけの体、つまりタッパーウェアのように対象を新鮮な状態を維持することができたとしても、カーリンやプライヤー、コスビーのような古臭いラップをフレッシュな状態にはできないと述べています)
ビル・コスビー
I think my pudding-
やっぱ原因プリンだと思うんだけど…
(コスビーはリバーズを遮るように自分のこん睡の原因を語ります。リバーズはそれに対してうんざりするように彼をランプで叩き、再び気絶させます)
※ちなみにリバーズは殴るわdisるわコスビーを散々な目に合わせますが、コスビーはまだ無名だったときの彼女を高く評価しており、1965年に自分のショーに参加させるなどしてたりしてます。だからこそのこういった繋がりで描いているのかも。
ジョーン・リバーズ
So don't throw down with Rivers! The flow is too relentless!
だからリバーズに喧嘩売るんじゃないわよ!フローだって容赦なし!
(“throw down”で本来は「投げ捨てる」という意味ですが、別の意味で「戦いを挑む」という意味もあり、ここではそちらの意味として使われています。また”flow”はラップでは「ラップのやり方、歌い方」として使われる単語ですが、リバーズの”Rivers”、つまり日本語に訳すと「複数の川」という名前にちなんで水の流れを意味でもあるこの単語を使っていると思われます)
I haven't thrashed celebrities this bad since The Apprentice!
私はセレブにアプレンティスから負けたことなんてないんだから!
(“thrash”で「打ちのめす、勝つ」という意味の英単語。ドナルド・トランプが司会をしていたことでも有名なアメリカの素人参加型の人気テレビ番組「アプレンティス」〈原題:The Apprentice〉に言及したライン。トランプからミッションが与えられそれをクリアできなければ脱落、これを繰り返し最後の一人まで戦うという内容。リバーズはこの有名人バージョンである「セレブリティ・アプレンティス」に出演し、見事最後の一人となりました)
I'm closing this battle! No one else compares!
このバトルは私が締めるわ!だれも私には追い付けない!
The only place I'm in the middle is on Hollywood Squares!
私が真ん中を務めるのはハリウッドスクエアだけよ!
(ハリウッドスクエアは1965年に放送が開始されたアメリカのクイズ番組。80年代、90年代、000年代にそれぞれ放送されており、リバーズは80年代の時のこの番組の出演者のひとりでした。ハリウッドスクエアのおおまかなルールはまず3×3に区切られたボックスの中にそれぞれ一人ずつ芸能人が入り、彼らとは別の出場者がボックスの中の芸能人たちをひとり指名します。指名された芸能人は〇×クイズを出し、どちらか当てることができればそのボックスが出場者のものになります。手に入れたボックスの配置が三目並べの要領で縦、横、斜めを揃うか、または時間内に決着がつかない場合は多くのボックスを獲得した方が勝利というもので、リバーズはこのハリウッドスクエアにおいてよく中心の位置を担っていました。ハリウッドスクエアにおいては真ん中を担当していたが、このバトルでは真ん中ではなくトリ、つまり最後なのだと言っているわけです。ちなみにハリウッドスクエアのセットがリバーズのラインの締めに彼女の背後に登場しています)
↓実際にリバーズがハリウッドスクエアのボックスの中心を務めている映像
最後に登場するのはロビン・ウィリアムズです。日本でもおなじみの役者ですね。
日本だとイメージはあまりありませんが、アメリカではスタンドアップコメディから彼のキャリアは始まっており、そのあと1978年から82年にテレビ放送されたドラマ「モーク&ミンディ」で知名度を上げ、1980年公開の「ポパイ」の主演から映画デビューしたそうです。
リバーズがコスビーを殴るのに使ったランプから、ウィリアムズが演じた役でも有名な1992年公開の「アラジン」のランプの魔人、ジーニーのように乱入します。
※ちなみにこのバースはほぼほぼ出演した作品のネタがちりばめられておりクッソ訳すのが大変でした
ロビン・ウィリアムズ
Good morning, movie bombs! Nice shoulder pads, chief!
グッドモーニング、ダメ役者!おばさん、いい肩パッドじゃん!
(ウィリアムズが主演した映画、1987年公開の「グッドモーニングベトナム」にちなんだライン。「movie bomb」はコメディアンが主演のダメ映画に対して使われる言葉です。前述の四人とも映画などに出演してはいるのですが、この映画がきっかけでゴールデングローブ賞を受賞したウィリアムズに比べると実績には差があると言えます。コメディアンでありながらも名優として名高いウィリアムズだからこそ言えるラインですね。また「おばさん」とはリバーズのこと。彼女の服には肩パッドが入っているものが多く、それを揶揄しています)
I'm a genie in the bottle for some comic relief!
俺は「ジニー・イン・ザ・ボトル」、コミックリリーフってやつさ!
(ウィリアムズの代表作品のひとつといえば、彼が乱入の時映像でもわかるように「アラジン」のジーニーですよね。またこの”genie in the bottle”というフレーズはリスティーナ・アギレラの代表曲”genie in a bottle”(ジーニー・イン・ア・ボトル)にもかかっています。そのあとの”comic relief”(コミックリリーフ)はシリアスな作品の中の緊張を和らげるために登場するギャグキャラクターであり、様々な作品でこの役割を担ったキャラクターが登場します。ウィリアムズはボブ・ズブダがイギリス発祥の慈善団体から着想した「コミックリリーフ・USA」をビリー・クリスタルや「天使にラブソングを…」で有名なウーピー・ゴールドバーグらと共催し、他にも多くのコメディアンたちとホームレス支援などのために募金活動や啓蒙活動を行いました。「コミックリリーフ」という単語はこの慈善団体名にもかかっています。ウーンおそるべしダブルミーニング量)
※ちなみにこの「コミックリリーフ・USA」にはジョージ・カーリンが参加してたりします。それなのに次のラインでぼろくそ言うのおもろいです
O Carlin, my Carlin, what can I say about you?
おぉカーリン、わがカーリンよ、お前についてはなんていえばいいんだ?
(1989年公開の映画「いまを生きる」にちなんだライン。作中でウィリアムズは厳格な指導体制が敷かれている学校に赴任してきたジョン・キーティングという教師を演じており、型破りな独特な指導で規則によって縛られている生徒たちを導いていきます。また1865年にウォルト・ホイットマンによって書かれたリンカーンの死を追悼する詩である”O Captain, My Captain”「おぉ船長、わが船長よ」という一節がこの映画の中でキーティングによって授業教材として登場し、作中で重要なシーンで登場します。これにちなんでカーリンに呼びかけています。)
※これは個人的な意見ですが「いまを生きる」はマジでいい映画なんで皆さん見てください
Except I don't think you've had a good shit since 1962!
俺はお前が1962年から「クソやばいモノ」を持ってたとは思えないぜ!
(1959年、カーリンはテキサスにて当時ラジオDJだったジャック・バーンズと出会います。バーンズと組んだカーリンは” Burns and Carlin”としてユニットを結成し、名声を得ていきました。彼らの活動は1962年、個々のキャリアを高めるためという理由で終わり、それぞれソロ活動を始めることになります。”good shit”で「素晴らしいことや物、人」を指すスラング。ウィリアムズはカーリンがバーンズと別れて以来、素晴らしい物=才能は持っていないと考えており、カーリンの経歴をバカにしています。またカーリンは話しているときにステージの上を歩き回るので、それが解消するためにウォーキングしている便秘中の人のようだと揶揄しています)
Mork aged backwards and Joan, you must too!
モークの歳の取り方と同じだなジョーン!
80 years old but that nose looks brand new! Nanu!
80歳のなのに鼻だけはおニュー、ナヌ!
(前述でも説明したウィリアムズが有名になったきっかけのひとつであるテレビドラマ「モーク&ミンディ」にちなんだライン。地球人の生態調査のために地球にやってきた宇宙人であるモークが地球人であるミンディと同居するドタバタコメディなのですが、ウィリアムズ演じるモークの挨拶である”Nanu-nanu”「ナヌーナヌ!」はこのドラマから有名になった言葉です。更にモークたち宇宙人は作中でベンジャミンバトンよろしく年齢が逆行することが分かっており、モークとウィンディの間に生まれた子供はおじさんのような見た目でした。ウィリアムズはリバーズの整形手術の中でも特に特徴的な筋が通った鼻を、このドラマにちなんでバカにしています)
Yo Pryor, I Doubtfire makes a good shampoo!
よう、プライヤー!炎はいいシャンプーにはならんぞ!
(1993年公開の映画「ミセス・ダウト」にちなんだライン。ウィリアムズが演じるダニエルは子煩悩な父親なのですが無職でうだつの上がらないことから妻に離縁を言い渡されてしまいます。失意の中妻が家政婦を募集していることを知りメイクを施して女装し正体を隠したうえで老婦人の「ダウトファイア夫人」として子供たちと会うために働くという話。”doubtfire”という家政婦の時の名前とかけつつ、プライヤーのバースでも出てきた、自分の頭に火をつけて自殺しようとしてしまった事件に言及しています。)
Left you running down the street like "Oh, no!"
お前が路上を走り回ったときはこうだろ?「オーノー!」
(自殺未遂を行ったプライヤーが警察に保護されたのはロサンゼルスのパーセニア・ストリートで走り回っているときでした。ウィリアムズは彼がパーセニア・ストリートを走り回っていた時の姿が滑稽だと言っています。そしてウィリアムズはここでケーキに顔を突っ込みますが、これも「ミセス・ダウト」にちなんだ動作。彼が老婦人の顔のマスクを失った状態で、家にソーシャルワーカーが訪問してきたために、正体を隠すためのとっさの行動で手に持っていたケーキに顔を突っ込むというシーンが元ネタ。ちなみに原作の映画では”Oh no!”ではなく”hello!”と言っています)
Comedy ain't easy, I've played plenty of dumps,
コメディは簡単じゃないぜ、たくさんバカやってきたけど
(“dump”で「バカげたこと」のスラングです。また、「あまり人がいない場所」という意味もあり、コメディアンは全員そういった下積み時代があるのだという意味でもあります)
And believe me, we've all hit plenty of bumps (Yeah!)
なあ信じてくれよ、俺たちは薬物をやり続けてたもんな
(“hitting a bumps”で「コカインを摂取すること」を意味します。ウィリアムズは「モーク&ミンディ」のヒット後、薬物とアルコール中毒になってしまい、一度は克服するもそのあとも何度もこれらの依存に苦しめられていました。気絶しているコスビー以外の三人も薬物依存の経験がありそれにちなんだラインです)
But now I've got the Flubber flows that'll get the club jumping!
でも今や俺はフラバーみたいなフローでクラブをぶち上げる!
(1977年公開の映画「フラバー」にちなんだライン。ウィリアムズは作中で科学者のフィリップ・ブレイナード博士を演じています。フィリップ博士は強力なエネルギー物質である「フラバー」を開発するのですが、このフラバーの特徴としては緑色で粘着質なスライムのような見た目でありながら、ぴょんぴょんと跳ねたり二足歩行のように歩き回ることができる点です。ウィリアムズは自分のフローがフラバーのように自由でクラブをもあげることができると自分のスキルを述べています。また、”Jumping”という単語もフラバーの動作にちなんできています)
You got second-hand raps. "Found 'em Goodwill Hunting!"
お前らは誰かのお古のラップだな、グッドウィルで買ったみたいだぜ!
(“second-hand”で「中古」という意味の英単語。直訳だと「お前は中古のラップを手に入れた、グッドウィルハンティングしてそれを見つけたんだろ」。なんのこっちゃですね。1997年に公開された映画「グッド・ウィル・ハンティング」にてウィリアムズは精神科医のショーン・マグワイアを演じ、アカデミー助演男優賞を獲得しました。この映画のタイトルと、リサイクルショップである”Goodwill”をかけたラインがこれ。自分のフローはクラブを上げるほどイケてるのにお前らは中古、遅れているようなラップだとけなしています)
Got more hair on my arms than a Monchhichi!
俺の腕はモンチッチを越す毛量だぜ!
(モンチッチは知っている方もいるかもしれませんね。日本の株式会社セキグチによって1974年に販売された猿の人形で、日本で爆発的な人気を得たあと世界各国でも販売されるようになりました。ウィリアムズは毛深く、実際に腕毛も濃いのでその濃さを全身毛むくじゃらのモンチッチに例えています)
And I'll finish this battle like it's Jumanji!
ジュマンジみたいにこのバトルを終わらせてやるよ!
(ウィリアムズは1995年公開の「ジュマンジ」にて、主人公であるアラン・パリッシュを演じています。ジュマンジはプレイヤーをゲームの中のジャングルに閉じ込めてしまうというゲームで、アランはこのゲームの中に12歳のときから閉じ込められていましたが、ひょんなことから26年後、38歳のときに親戚の子供たちに助けられ、出たマスの内容によって現実世界に影響を及ぼしてしまうジュマンジを終わらせるために奮闘します。ウィリアムズはこのジュマンジを終わらせることとバトルを終わらせること、つまり自分がトリを務めることに例えています。リバーズの最後のラインのアンサーとも取れますね)
I love the prince, but you'll never have a friend like me!
俺はプリンスがだいすき!でもこんな「フレンド・ライク・ミー」はお前らにいないだろ?
(映画「アラジン」の中でジーニーがアラジンに対して自分の力を説明する楽曲「フレンド・ライク・ミー」にちなんだライン。”the prince”とは、アラジンのことを指しているとともに2019年に公開された実写版アラジンにてジーニーを演じたウィル・スミスのラッパー名である「ザ・フレッシュ・プリンス」にもちなんでいます)
※カーリンのバースに出てきた「ベルエアのフレッシュプリンス」の主演もウィル・スミスで、彼は「ザ・フレッシュ・プリンス」として自分自身を演じています。ここらへんも繋げているのかな~
Thanks folks, that's my time! Gotta set myself free!
これで俺の時間は終わりさ、俺は自由になったんだ!
(“Thanks folks, that's my time”はコメディアンが自分のパフォーマンスの時間が終わった時に使う言葉です。2014年、ウィリアムズは自殺してしまいました。享年64歳。死因は首吊りによる縊死。鬱によって精神的に追い詰めてしまっただとか、レビー小体病という認知症によるものだとか様々な要因が語られていますが、原因ははっきりと分かっていません。突然亡くなってしまった名優に対してアカデミー賞のTwitter公式アカウントをはじめとした多くの人達がSNSで彼の死に悲しみ、”Genie, you're free”「ジーニー、君は自由だ」と書き込みました。これはアラジンの物語の中でアラジンが最後の願いを使ってジーニーを自由にしてあげたときのセリフです。ウィリアムズはこの話にちなんで自分は自由になったと言って、登場したときのようなジーニーのような姿に戻り、バトルから抜け出します)