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#31 「 姪っ子の結婚式 」

まったくそうは見えないらしいが、ぼくは三人兄弟の長男である。
仮に、すぐ下の弟を弐号、その下を参号としておこう。
父と母が意図的に等間隔にしたのか、それとも単なるアレのめぐりあわせなのかを今更訊ねる気にはならないが、二才ずつ年が離れたぼくたちは割と仲が良い。
高校卒業後に地元で就職してからずっと生まれ育った町で暮らしている参号は、東京在住のぼくや千葉在住の弐号が帰省して実家に泊まる度に、お嫁さんと娘二人を連れて会いに来てくれる。
仕事の話しや経年からくるからだの不調について話しては、お互い年取ったなと笑い合うのが最近のお決まりだ。

そんな参号の長女が結婚式を挙げるという。
一年ほど前に籍は入れていたのだけれど、厄災の影響で延び延びになっていたのだ。
あの、やんちゃでわがままで口が悪くてたまに顔を合わせてもずーーーっとスマートフォンとにらめっこしながらなにかしらを食べててジュースみたいに甘い酒を勢いよくぐびぐび呑み干すとすぐにゴロンと寝てしまい目を覚ましたかと思ったらすっくと立ちあがってばあちゃんちの冷蔵庫を勝手に漁りまくって一番高そうなアイスを目敏く見つけニンマリしながら独り占めしてしまう姪っ子の結婚式。
早々に飛行機を予約してその日を楽しみに待った。

スマートフォンを覗き込んでナイショ話
こちらこそ、よろしくお願いします
コンソメスープ一択

ぼくは羽田空港から、弐号は成田空港から飛ぶので、目的地の福岡空港で待ち合わせることにした。
結婚式は午後四時から。
親族の顔合わせがあるから午後三時に集合せよと言われている。
なんだ、まだ二時間以上あるじゃないか。
空港を出て店を探そうかとも思ったが、時間が惜しいという弐号の意見を採用して空港ターミナル内の店で検討する。
ラーメン?いやいや、五分で食べ終わるわ。
かつ丼は?油もんは最近胃もたれがひどくてな。
蕎麦・・・今じゃなくてもいいやん。
やっぱ海鮮やろう。
と言うことで、海鮮居酒屋の暖簾をくぐった。

土曜日のランチタイムで店内は混みあっていたが、運よく席を立つカップルと入れ替わりで無事着席。
あまり食べすぎると後に響くだろうと、酒のあてになりそうななんちゃら御膳のご飯抜きにごま鯖をたのみ乾杯した。
姪っ子たちの昔話もつまみながら、生ジョッキを二杯とハイボールを三杯ずつ空けたところで時計を見るとそろそろ移動の時間だ。
「よし、じゃんけんな!」
弐号が赤らんだ顔でニヤリと笑う。
どうやら男気じゃんけんをしたいらしい。
「最初はグー、じゃんけんポン!」
弐号は子供のころから大体最初にグーを出す。
チョキを出したぼくに一瞬喜んだ顔をしたけれど、男気じゃんけんなんだよね。
弐号が会計をする間に喫煙所で一服させてもらった。

はじまりの合図
ご飯抜きで吞む気満々
福岡でごま鯖を食べないのは罪

いい気分でタクシーに乗り込み、式場がある天神を目指す。
週末ということもあるだろうが、街は人で溢れかえっていた。
外国の方も多く、厄災前以上に賑やかな感じがする・・・と言っても、天神を訪れるのは十年ぶりくらいなのだけど。
天神ビッグバンで街は模様替えの最中らしく、そこここで工事をしている。
景色を眺めるのに夢中で、街の様子を撮り忘れたのが心残りだ。

思いのほか道が混んでいて、時間ぎりぎりで式場に着いた。
更衣室を借りて大慌てで礼服に着替えて受付を済ませた。
ウェルカムドリンクのビールでも吞もうかと話していると、式場のスタッフさんから「こちらへ」と声を掛けられた。
案内されたテーブルの上にはキャンバスが置かれてて、何やら数本の線が描かれている。
「参列者が縦か横の線を一本ずつ描いていって最後に新郎新婦が仕上げの線を描くと中島みゆき的なサムシングになります」みたいな説明を受けた気がするけれどよく覚えていなくて申し訳ない。

中島みゆき的な・・・
打ち合わせ中
ドレスの裾を踏まないか心配だ
厳かなシーンなんだけどちょっと思い出し笑い
撮られます
微調整
ほら、コケた
花と羽の詰め合わせ、祝福を添えて
ひらひらと

親族の顔合わせ、結婚式、集合写真からのフラワーシャワー、そしてブーケトス。
式は軽やかに進行していく。
老若男女、みんな笑顔、笑顔、笑顔。
幸せな時間だ。

そして披露宴。
新郎新婦の入場をあたたかい拍手が迎える。
端っこに設えられた親族席でその様子をずっと眺めていた。
普段おっとりしている参号が、各テーブルを挨拶して回ってる。
新婦の父も大変だなと感心しながら、ムシャムシャガブガブと美味しい料理とお酒をいただく。
食べるのに夢中で料理の写真を撮り忘れたのが心残りだ(本日二回目)。

披露宴は賑やかに
遠かったから画面を拝借
姪っ子2号
あま~い時間

披露宴の終盤で、定番の手紙を読む時間があった。
もしもぼくの娘が結婚式を挙げることになったら、このイベントだけは全力で阻止したいと思う。
だって、姪っ子の結婚式で泣くんだから。


号泣するに決まってる。


〈 了 〉

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