ソフトウェアが業務フローに合わせるか、業務フローをソフトウェアに合わせるか
ソフトウェアの仕様によって業務フローを設計する
業務フローに沿うようにソフトウェアの形を変える
これらは今までも現在もいずれのパターンも各所で混在してきていたが、大きなトレンドはあったように思う。
そしてその技術の進歩とともに新しいトレンドが生まれ、これからも(主に生成AIの登場・進歩によって)トレンドは生まれ続けるのではないかと考えている。
オンプレ時代
パッケージとカスタマイズによってソフトウェアを業務に合わせていた時代。これまでも現在も、日本は海外に比べてパッケージを自社向けにカスタマイズしていく傾向が強いようだ。
ちなみにネガティブに捉えられることも多い日本のカスタマイズ文化だが、ソフトウェアをカスタムすることが必ずしも非効率となるわけではない、というのが上記引用元の経済産業研究所のレポートの興味深い主張だ。
クラウドツール、SaaSの普及
クラウドツールの普及は、特に中小企業向けにカスタマイズ偏重の潮流を変えるきっかけになったと言えそうだ。
AWSのようなクラウドインフラにDBやサーバーを立て、同じDB構造・ロジック・UIを複数のユーザーや企業に提供することによってソフトウェアの開発費あたりの売上・利益を最大化するのがSaaSの基本的なモデルとなっている。
とはいえ大企業にSaaSを導入するためには、大企業の複雑な業務フローに対応したり既存の基幹システムとデータ連携をしたりと、一般化された仕様ではニーズに対応できなくなってしまうことも多い。特に中小企業・大企業の双方に顧客を持つようなSaaSにとっては、単一のDB構造とUI両社のニーズを同時に満たすのは非常に難易度が高い作業となる。
そのような課題に向き合うために外部APIを公開したり開発ベンダーとパートナーシップ組んだり、自社で受託リソースを抱えたりして大企業にも導入を広げていくSaaSベンダーも増えている。
APIを活用したエンプラ企業へのSaaSの導入開発はまさに我々ECUが得意な領域だが、SaaS企業側がAPIでの拡張を前提とした提案をしたり、エンプラ企業側もSaaS導入に合わせて業務フローを見直す機会もあったりと、今がまさに転換期とも言えるのかもしれない。
とはいえSaaSの「全ユーザーに対して同じDB構造でソフトウェアを提供する」という前提のもとではカスタマイズにも前提があり、 SaaSの登場によって生まれた「業務をソフトウェアに合わせに行く」というトレンドは、現段階では主に中小企業・新興企業の中での話と言えるだろう。
生成AIやAI Agentの登場
生成AI、またはAI Agentの登場により、そもそもこれからのソフトウェアが
データの保持や整形・出入力を担うバックエンド
人が優れたUI/UXでソフトウェアを操作するフロントエンド
という2つの要素によって成り立つという前提が崩れていくのではと思っている。特にAI Agentの存在によって、そもそもソフトウェアを操作する主体が人 → AIにシフトしていくことで、SaaSやソフトウェアはデータの箱としての役割が強くなっていくだろう。
このような世界では、SaaSやソフトウェアのUI/UX、仕様、データ構造に合わせて業務を構築するという概念も薄れていくのではないだろうか。ソフトウェアの操作主体がAIにシフトしていくことによって、必要な業務に合わせて、ソフトウェアが動いていく世界に近づいていくように思う。
生成AIは非構造化データすらも処理対象とできるため、システム間のデータ構造の違いが原因で生まれる業務は激減していくのではないだろうか。
このような背景から、生成AIやAI Agentによって再び「ソフトウェアが業務に合わせに行く」というトレンドの波が来るのではないかと考えている。
AIのさらなる進化
生成AIやAI Agentが更に進化していくと、そもそもデータの生成元すらもAIが主役になっていくのではないだろうか。
何年後・何十年後になっていくかはわからないが、多くの企業における多くの業務はAIが設計した最適な業務フローをもとに画一的になっていき、各企業独自の業務フローにソフトウェアが合わせに行くという概念も薄くなっていく未来も来るように思える(そもそも人が担う「業務」の概念も大きく変わっていそう)。
とはいえこれからも色んなものが混在し続けそう
AIやSaaSが大きなトレンドとなっている現在でもCOBOLで作られたオンプレのカスタムソフトウェアはモリモリ動いて金を生み続けているし、技術革新が起きようと革命が起きようと、ねっとりじっとりと変わっていくのが実世界だ。
新しいトレンドはキャッチアップしつつ極論に走らず、今必要なものを愚直に提供し続けたい。