起業家の夢を信じ、最後まで向き合う1番の応援者でありたい デライト・ベンチャーズ永原健太郎|VCの素顔 #07
”日本における起業のハードルをとことん下げ、起業家が世界で活躍するのを全力で支援する”
これは、デライト・ベンチャーズが掲げる理念である。
この数年で、日本におけるスタートアップを取り巻く環境は改善され、「起業」「ベンチャーキャピタル」といった言葉をこれまで以上に頻繁に目にするようになった。
一方で、日本はスタートアップの資金調達額、ベンチャーキャピタル投資のGDP比などの指標から見ても、他の先進国のそれと比べ依然として大きく遅れをとっていることも事実である。
第七回目となる「VCの素顔(投資家の素顔)シリーズ」。今回は、DeNA創業者であり経団連主宰のスタートアップ委員会委員長も務める南場智子氏をマネージングパートナーとして2019年に立ち上がったデライト・ベンチャーズで、同ベンチャーキャピタル(以下、VC)の立ち上げから参画し、現在ベンチャー投資事業の責任者を務める永原氏に話を伺う。
永原氏は、これまで3社のVCを経験。インターネット業界の勢いに世間が期待を寄せる中、突然のリーマンショックによる大不況。その荒波をくぐり抜けてきた永原氏が考える「起業のハードルを下げる」とは、一体どういう意味か。その取り組みや思いを聞いてきた。
2000年代後半インターネット業界が勢いを増す中キャリアをスタート、リーマンショックで世界が混乱
波多江:
これまでの経歴について教えてください。
永原:
大学院を卒業後、新卒でCAI(現サイバーエージェント・キャピタル、CAC)に入社してそれから今まで3社ベンチャーキャピタル(以下、VC)という経歴です。
2005年に大学院へ入学しましたが、当時はサイバーエージェントの「アメーバブログ(現Ameba)」やミクシィの「mixi」などがサービスをスタート、アメリカではYouTubeやTwitterがサービスを開始するなどSNSを中心にインターネット業界が勢いを増していたタイミングでもありました。
大学院でファイナンス等を学んでいたこともあり金融×ITという掛け算でキャリアを模索していた時に、偶然VCのキャリアに関する記事を新聞で読んで興味を持ちました。
当時IT企業で投資事業をしていたのは、楽天とサイバーエージェントくらいでした。2007年にCAIに入社し、そこから2年間投資事業に従事しました。その後サイバーエージェントでの事業サイドでの経験も積み、2017年に政府系金融機関であるDBJキャピタルに入社し投資事業へ従事しました。
デライト・ベンチャーズへは、2019年の立ち上げから参画しています。当時、独立系VCを一から創っていきたいという気持ちがあり、南場から誘いがあったことで、良いチャンスだと思い参画を決めました。
会社員のままスタートできる、起業の精神的ハードルを下げるEIR制度
波多江:
デライト・ベンチャーズは、企業に在籍しながら起業できる環境を提供するベンチャー・ビルダー事業と、純投資を行うベンチャー投資事業の2つの事業をもつ特徴的なVCですね。理念として起業のハードルを下げることを掲げていらっしゃいますが、起業のハードルに対してどう考えていますか。
永原:
アメリカと日本との比較という観点でお話しすると、起業した後のサポートや次のチャレンジがしづらい環境があると思います。事業を始めるための土壌は整ってきましたが、やはり起業に対する精神的ハードルが高いと感じています。
僕たちとしては、学生も社会人も起業を自身のキャリアパスとして就職と同じように考えられる世の中にしていきたいと思っています。
そのための取り組みとして、EIR制度(客員起業家制度)をデライト・ベンチャーズとしては推進しています。
社会人で起業に興味がある方に対して、最初は業務委託のような形の契約形態をとって所属企業に在籍した状態で事業アイデアのブラッシュアップをしていただきます。ある程度形になったタイミングで、所属企業を辞めてデライト・ベンチャーズに有期雇用の契約社員として入社いただきます。
資金面では最大5,000万円までの支援をさせていただきますし、PoCやチーム作りも弊社の事業立ち上げのノウハウを活用して支援します。また、独立される際には、外部VCがリードで入ることを条件にしていますが、そのための外部投資家との橋渡しなど、ファイナンスも含めてフルサポートする制度です。
失敗を引きずらず次のチャレンジができる環境、事業立上げの専門家陣との定例・DeNAのノウハウ活用でスピード起業
仮に事業がうまくいかない場合、そのまま次のチャレンジに向けて進んでもらうこともありますし、デライト・ベンチャーズを辞めて事業会社に転職するというような選択肢も設けることで、起業家の精神的なハードルを極力下げるようにしています。
例えばですが、2020年に創業したある起業家は実際にこの制度を利用して、事業アイデアを何度もブラッシュアップし、3つ目の事業アイデアで起業しました。
大体、半年ほどかけて事業をブラッシュアップして、そこから事業開発に入ります。実績としては、純粋にEIR制度を利用し、デライト・ベンチャーズで開発した上で独立した企業で3社、事業検証のみを弊社内で行い、クイックに独立したケースも入れると10社です。どこまで僕たちが関わるのが最適かというところも起業家の意志を尊重しながら柔軟に向き合っています。
波多江:
実際にその制度を利用すると、デライト・ベンチャーズの皆さんはどの程度起業家に関わってくれるのでしょうか。
永原:
投資担当者との1on1はもちろんのこと、支援者チームとEIR全員での定例を毎週実施しています。その場を活用して僕たちから何を提供する必要があるかを把握し、それに合わせたサポートをします。
DeNAからは完全に独立したVCですが、DeNAの新規事業開発のノウハウや人材などをフル活用した支援ができることは一つ大きなメリットだと思います。最初のゼロイチをとにかく効率よく早く飛び立てるように支えていくことができます。
南場に関しては投資先社長と四半期に1度の30分程度1on1を設けることもありますし、気軽な会ではありますが南場の自宅にピザ窯を利用してピザ会を隔月で開催するなどの気軽にコミュニケーションが取れるカジュアルな場を設けています。
デライト・ベンチャーズ、3つの投資テーマの重要性はコロナ禍でさらに浮き彫りに
波多江:
3つの投資テーマ、①情報の非対称性を解消するビジネス②社会生産性を劇的に改善するビジネス③社会の持続性(サステイナビリティ)に直接貢献するビジネス、についてそれぞれ具体的に教えてください。
永原:
現在、投資実績としては34社になります。3つの投資テーマを軸に、日本から世界に向けて大きく価値を提供し、世界を舞台に活躍できるような企業に投資したいと考えています。具体的には、グローバル市場を視野に入れた日本発のスタートアップ、特にシード・アーリーステージの優良なスタートアップを中心に投資を行い、海外展開を含め成長のサポートを行います。
情報の非対称性を解消するビジネスとは、当事者と取引相手の間に生じる情報格差による課題を解決するものです。例えば投資先では、Unlace(オンラインカウンセリングサービス)は精神科医と個人/法人、YOUTRUST(キャリアSNS)は求職者と採用担当/企業においてそれぞれ課題を解消します。
社会生産性を劇的に改善するビジネスとは、慣習や物理的な制限などにより生じる非効率やコストを解消するものです。例えば投資先では、HireRoo(エンジニアのスキル採用サービス)はエンジニア採用におけるスキルのミスマッチによる採用コスト、Shippio(貿易業務一元管理SaaS)はアナログな貿易業務による非生産性をそれぞれ解消します。
社会の持続性(サステイナビリティ)に直接貢献するビジネスとは、環境問題や健康福祉など、長期的に社会生活を営むにあたっての課題を解消するものです。例えば投資先では、TYPICA Holdings(コーヒー豆を直接取引できるプラットフォーム)と
ビビッドガーデン(生産者と個人が直接取引できる食べチョク)は、どちらも生産側と個人の間にある壁をなくすことで流通を促進しています。
アメリカでCFO等経験後、現在セブンイレブン・インク等の社外取も務める浅子氏も参画、海外展開支援体制を強化
波多江:
海外進出のための支援体制も強化していますよね。
永原:
実際にスタートアップが海外進出をするとなると、フェーズとしてはもう少し先の話になるので具体的な例はまだあまりないのですが、TYPICAなどは既にグローバル展開しています。海外での事業計画の壁打ちや、現地採用のサポートなどの支援をさせていただきました。DeNAは、アメリカのngmoco社(スマートフォン向けソーシャルゲームアプリを開発)を2010年に買収していますが、その際の経験も踏まえてサポートさせていただいています。
また、2022年5月にデライト・ベンチャーズにマネージングパートナーとして参画した浅子は、30年ほどアメリカで経験を積んでいますし、上場会社の経営ノウハウやネットワークもあります。上場前ラウンドでの戦略的な資金調達など、レイターステージになると更に具体的にサポートできる強みも持っています。
直近の株価見直し等市場環境「これから2年は正念場、最長で4,5年スタートアップには厳しい環境になるかもしれない」
波多江:
直近の株価見直しなどの影響を受けて何か変化を感じられていることはありますか。
永原:
今のところ、直接の影響はないです。一方で、これから次のファイナンスをする際、特にシリーズA・BあたりのVCだと、これまでより指摘する事項が細かくなってきた感覚はあります。
昨年バリュエーション高く調達できてしまったスタートアップは来年、再来年に次の調達ラウンドがくると思いますが、その時予定通りの調達ができるかどうか。これから2年くらいは資金調達に苦労するスタートアップも今までよりは増えるのではないかと思います。
資本政策はより堅めに、必要以上の背伸びにならないよう計画の見直しを
難しいところですが、改めて、必要以上に背伸びをするとどこかで辻褄が合わなくなるというのは直近の状況を見て学びました。それは、投資家側にも起業家側にも言えることだと思います。
起業家が目を瞑りたくなるような、これって本当に必要な資金だっけ?という事業計画の部分を含めて、これまで以上にケアをして、起業家が意思決定するための材料をより具体的に提示していく責任を感じています。
また、起業家のことを最後まで信じたいという気持ちもあるので、仮に周りがついてこなかったとしても、僕たちでしっかり資金提供する覚悟で動くということが、これまで以上に重要だということも身をもって感じています。
起業家の夢を信じ、最後まで向き合う1番の応援者でありたい
波多江:
これまで3社のVCを経験されて改めて投資家という仕事の魅力と、起業家にとってどういう存在でありたいと考えていらっしゃるか教えてください。
永原:
起業家の夢の実現に対して、僕たちが本気で信じて最後まで応援し続ける1番の応援者でありたいと思っています。これは自分の中で1番大事にしている起業家との付き合い方です。
投資家って難しいですよね。結局僕たちが起業家に対してできることは、一部でしかないと思うので、イグジットした時に起業家からありがとうって言われたり、その後もお付き合い続く関係になれたら、お互い良い人生だったなって振り返れるんじゃないかなと思っています。
起業家の資金調達の選択肢が増え、個人投資家には投資の機会ができた社会的意義は大きいー株式投資型クラウドファンディング
波多江:
最後に株式投資型クラウドファンディング(以下、株式型CF)についてどう思っているか聞かせてください。
永原:
起業家としては資金調達の選択肢が増えること、個人投資家としては非上場企業に投資する機会ができたという意味で社会的意義は大きいと思っています。
一方で、特に日本ではまだまだ株式型CFの実績が少ないと感じています。ただ、イークラウドでも先日のM&Aの事例が出ていたように、これからもっとわかりやすい事例が出てくると良いなと思います。事例を参考にして、起業家側もより具体的に成功イメージを持って活用できるんじゃないかなと考えています。
波多江:
そういった事例をこれからも作っていくと同時に、僕たちとしては株式型CFで資金調達するメリットも起業家に対してもっと提示していかないといけないと思っています。
ユーザーやファンを株主として巻き込んで強固なコミュニティを作っていくことができるというのは、株式型CFの大きな活用メリットです。
デライト・ベンチャーズさんはDeNA出身の起業家も積極的に投資をしていると理解しています。卒業生の起業家を応援したいという方は現役のDeNAの方にも、OBの方にも多数いらっしゃるのではないかと思います。
そこに、株式型CFを活用することで、起業家と現役のDeNAの方やOBの方たちを投資という形で繋ぎ、長期的に応援できるようなコミュニティを作るということも可能ではないかと考えています。
そういった事例をデライト・ベンチャーズさんと一緒に作っていけたら嬉しいです!
永原さん、ありがとうございました!
◆永原さんにいますぐ相談する!
◆デライト・ベンチャーズの、会社員のまま起業に挑戦できるEIR制度をチェックする
◆資金調達済のスタートアップ向け優遇プランを開始しました!by イークラウド
昨今のスタートアップを取り巻く環境の変化を受け、イークラウドでは資金調達手段の選択肢を増やすことを目的とした優遇プランをリリースしました!イークラウドと提携するベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けたスタートアップがイークラウドを通じて株式型CFで資金調達を行った場合に優遇プランを適用します。
◆株式型CFについてイークラウドに相談する
⇒事業壁打ち・資金調達相談のリクエストはこちら
⇒将来起業したい、起業家の近くで働きたい方はこちら