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エンジェル税制って何?種類や控除の仕組み、確定申告の流れをわかりやすく解説

エンジェル税制は、スタートアップなどベンチャー企業に投資することで税制優遇を受けられる制度です。種類や要件が少し複雑だったり確定申告の方法が難しかったりしますが、税制優遇が受けられる魅力的な制度でもあります。この記事ではエンジェル税制の基本から利用方法、注意点までわかりやすく解説します。

エンジェル税制とは

エンジェル税制は、スタートアップ$${\small(ベンチャー企業)}$$に個人が投資を行う「エンジェル投資」$${\small(スタートアップ投資)}$$を促進することを目的として、経済産業省が推進している税制優遇措置です。

エンジェルとは、資金調達が困難なスタートアップ企業に対して、リスクが高いにもかかわらず将来性を見込んで支援する投資家を指します。このような投資家は、企業の成長を後押しする「天使」のような存在として例えられています。

もともと1997年に始まった制度ですが、当時のエンジェル投資は少なくとも数百万円規模の金額が必要だったり、投資先を見つけることが容易ではなかったりしたため、多くの個人投資家が利用する制度ではありませんでした。

しかし、2020年の法改正によって、株式投資型クラウドファンディング$${\small(ECF)}$$を運営するイークラウドなどの事業者が認定を受けることで手続きが簡素化され、エンジェル税制の対象企業に関する要件も緩和された結果、個人投資家がエンジェル税制を利用する機会は大幅に拡大しました。

エンジェル税制で受けられる税制優遇

エンジェル税制にはいくつかの種類があります。詳細は後述しますが、ここではどんな税制優遇があるかイメージできるように代表的な活用例を紹介します。なお、本稿では給与所得者$${\small(会社員)}$$の方を想定して解説を進めていきます。

1. 所得税の還付を受けられる

「優遇措置A」という制度を利用すると、その年に投資した額から2000円を差し引いた額を、その年の総所得金額から控除することができます。つまり、確定申告を行うことで所得税の還付を受けることができます。

2. 株式で利益が出た際の所得税の還付を受けられる

「優遇措置B」という制度を利用すると、その年にエンジェル税制の対象企業に投資した額を、その年の株式譲渡益から控除することができます。つまり源泉徴収ありの特定口座を利用している場合、確定申告を行うことで所得税の還付を受けることができます。

会社員が利用できる税制優遇

会社員が利用できるオススメの税制優遇として「NISA」や「iDeCo」「ふるさと納税」などが有名ですが、「エンジェル税制」はあまり知られていません。スタートアップ投資はハイリスク・ハイリターンであるためすべての会社員が取り組むべきものではありませんが、余裕資金を運用する際の選択肢になるかもしれません。

エンジェル税制の種類

エンジェル税制には「優遇措置A」「優遇措置B」「プレシード・シード特例」という3つの種類があり、それぞれ「投資した年」と「売却した年」に利用することができます。

まずは投資家が、どんな優遇を受けられるか3つの種類を紹介します。なお、NISA口座は利用せず、源泉徴収ありの特定口座の利用を前提として解説します。

優遇措置A

エンジェル税制の対象企業への投資額から2000円を差し引いた額をその年の総所得金額$${\small(※1)}$$から控除することができます。ただし、「総所得金額等$${\small(※2)}$$×40%」と「800万円」のいずれか低いほうが控除額の上限になります。

※1:総合課税の対象となる租税特別措置法上の総所得金額(株式の売買益等を除いた、エンジェル税制で特別に扱う「総所得金額」)
※2:所得税法上の総所得金額(株式の売買益等を含む、本来の意味での「総所得金額」)のことで、退職所得金額と山林所得金額を含む

例えば総所得金額が600万円の人がエンジェル税制の対象となる企業3社に50万円ずつ投資した場合、控除額は2000円を差し引いた149万8000円になります。この方の控除上限は600万円×40%の240万円ですから、149万8000円全額を総所得金額から控除できます。

優遇措置B

エンジェル税制の対象企業への投資額全額を株式譲渡益から控除することができ、上限はありません。株式譲渡益には投資信託やETFの譲渡益も含まれますが、配当金や分配金は対象外です。

株式譲渡益には通常20.315%の税金が掛かりますが、控除の対象になるのは所得税15%に復興特別所得税0.315%を出した15.315%分で、住民税5%は対象外です。以下の説明では、復興特別所得税を割愛し、所得税15%のみで説明します。

例えばNISA以外で100万円の株式譲渡益があった場合、所得税として15万円を納めることになります。しかし優遇措置Bの対象企業に20万円投資していれば全額を控除でき、100万円-20万円で株式譲渡益は80万円となります。したがって80万円の所得税は12万円となり、その差額3万円について、源泉徴収ありの口座であれば確定申告によって還付を受けることができます。

プレシード・シード特例

こちらは3種類目というより、優遇措置Bの一種と考えたほうが分かりやすいかもしれません。投資した年に受けられる優遇措置はBと同様ですが、売却時の取得価額の計算が異なります。

通常、株式を売却して利益が出た場合は15%の所得税が掛かります。例えば50万円で取得したスタートアップの株式が上場時に450万円になった場合、売却すれば400万円の利益となって60万円が所得税として徴収されます。

しかし、優遇措置Bで取得時に50万円全額を控除していた場合(還付は7万5000円)、取得価額から控除額を引く調整が行われ、取得価額は0円になります。売却時の450万円に15%の税金が掛かりますので徴収される所得税は67万5000円になり、還付された7万5000円と差し引くと結果的に優遇措置Bを利用しなかった60万円と変わりません。

つまり、売却時まで見るとエンジェル税制の優遇措置B$${\small(Aも同様)}$$は課税の繰り延べ$${\small(先送り)}$$措置であることがわかります。それに対して売却時に取得価額を調整しないプレシード・シード特例が新たな制度として設けられました。

プレシード・シード特例が適用された場合、売却時に徴収される金額が通常の株式譲渡益に対する課税と同じになります。先ほどの例に当てはめれば400万円の利益に対して60万円を納めるということです。ただし適用上限$${\small(取得価額の合計)}$$は20億円までとなっています。

株式売却時の損益通算

エンジェル税制対象企業の株式を売却したり、その企業が倒産・解散してしまったりして損失が出た場合、その年の上場株式の譲渡益と通算$${\small(相殺)}$$することができます。

通算しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって順次株式譲渡益と通算可能です。ただし、確定申告しない年があると3年の間であっても次の年以降に通算できなくなってしまいます。

どの優遇措置を使うのがお得か

投資家は投資先ごとに、自分にとって3つのうちどれを利用するのが有利か考えて選ぶことができます。ただし、優遇措置Aやプレシード・シード特例は優遇措置Bに比べて対象企業の適用要件が厳しいため、投資家がこれらの制度を選択できない場合もあります。参考として以下の条件で計算した例を紹介します。

  • エンジェル税制対象企業への投資額:300万円

  • 総所得金額:1000万円

  • 他の株式譲渡益:100万円

なお、所得税は所得金額に応じた以下の税率を適用して計算します。

優遇措置Aの場合、控除の上限は1000万円✕40%で400万円です。投資額の全額300万円が対象になりますので、控除額は2000円を差し引いた299万8000円になります。控除後の課税所得金額は700万2000円となり、適用される所得税率の上限は33%から23%に変わります。

控除前の所得税額が1000万円に対する33%で176万4000円だったのに対して、控除後は700万2000円に対する23%で97万4460円が所得税額になりますので、確定申告で差額の78万9540円の還付が受けられます。

優遇措置Bの場合、エンジェル税制企業への投資額が他の株式譲渡益を上回っていますので株式譲渡益の全額が対象となり、100万円✕所得税15%で確定申告をすれば15万円の還付$${\small(源泉徴収されている場合)}$$が受けられます。よって今回の条件では優遇措置Aを利用するのが有利になります。

ただし、控除はエンジェル税制だけではないため、どの優遇措置が有利になるかは個々人の状況によります。たとえば住宅ローン控除によって所得税が全額控除されている場合、優遇措置Aを利用しても所得税を減らす効果はありません。自分に最適な優遇措置を知りたい方は、税理士等の専門家や最寄りの税務署にご相談ください。

エンジェル税制を利用する際の注意点

エンジェル税制はスタートアップに投資することで税制優遇を受けられる制度ですが、すべての投資家がすべてのスタートアップ投資の際に利用できるわけではありません。それぞれ「投資家の要件」と「対象企業の要件」を満たす必要があります。

ただ、要件は投資家がスタートアップに直接投資する場合と、株式投資型クラウドファンディング$${\small(ECF)}$$などを利用する場合で異なります。ここではより多くの投資家が利用する後者について解説します。

直接投資の要件については、経済産業省の解説ページ「エンジェル投資に対する措置」をご確認ください。

投資家の要件

個人が株式投資型クラウドファンディングなどを利用して投資を行う場合、以下の3つの要件を満たす必要があります。

1. 家族が経営する会社ではないこと
家族が経営している会社に投資する場合、その会社の大株主$${\small(トップ3)}$$に該当してはいけません。

2. 事業を承継させていないこと
自分が以前運営していた事業の承継先が投資する企業であってはいけません。

3. お金で株式を手に入れること
株式を取得する際は、現金で投資しなければいけません。

これらの条件は、スタートアップへの健全な資本提供を促進し、濫用を防ぐために設けられています。

対象企業の要件

企業がエンジェル税制の対象になるためには、それぞれ「優遇措置A:設立5年未満」「優遇措置B:設立10年未満」「プレシード・シード特例:設立5年未満かつ営業損益0未満」といった要件を満たす必要があります。

その他にも細かい要件がありますが、株式投資型クラウドファンディングなどを利用する場合は、経済産業大臣の認定を受けたイークラウドなどの事業者が要件を確認するため、投資家は確認の手間を省けるメリットがあります。

エンジェル税制の申請と確定申告の流れ

エンジェル税制の申請方法は、直接投資や株式投資型クラウドファンディングなどを利用するかで異なります。ここでは、より多くの投資家が利用する株式投資型クラウドファンディングを利用した際の申請方法と確定申告の流れを解説します。

なお、本稿で紹介する申請手順を参考にして万一損害等が生じた場合、弊社は一切の責任を負いませんのでご了承ください。確定申告に関する質問や相談は、税理士等の専門家や最寄りの税務署にお問い合わせください。

エンジェル税制の申請方法(イークラウドの場合)

エンジェル税制の適用を受けた企業に投資した場合、税制優遇措置を受けるには、以下の3ステップでの手続きとなります。

1. イークラウドに書類作成依頼をする
書類作成受付の開始をメールやマイページのお知らせ等でお伝えしますので、受付期限日までにマイページより「株式投資契約書」の記載内容をご確認いただき、「書類作成依頼」を押してください。

2. イークラウドから必要書類を受け取る
イークラウドから確定申告用書類をお届けします。

【郵送にてお届け】
少額電子募集取扱業者が投資家に交付する確認書

【マイページからダウンロード】
株式異動状況明細書
個人が一定の株主に該当しないことを確認した書類
認定証の写し
株式投資契約書(押印のうえコピーを税務署に提出)

3. 確定申告書を作成し、確定申告
確定申告書に捺印した株式投資契約書のコピーと他の書類を添付して、管轄の税務署に提出してください。

まとめ

エンジェル税制は、個人がスタートアップ企業に投資することで税制上の優遇を受けられる制度であり、スタートアップ$${\small(ベンチャー企業)}$$への資金提供を促進する目的で設けられています。

投資家は、この制度を通じて所得税や株式譲渡益に対する税制優遇を受けられ、資産運用の一環として注目されています。ハイリスク・ハイリターンのスタートアップ投資を行う投資家にとって、有用な選択肢となっています。


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