「特定投資家」の全貌とは?制度概要とリスクを徹底解説!
近年、さまざまな金融商品が生まれ投資の多様化が進む中で、より限られた投資機会を求める個人投資家が増えています。そのような中で注目を集めているのが「特定投資家制度」です。
2022年の制度改正により、特定投資家になるための要件が改定されました。これによって、特定投資家制度を利用する投資家の増加が考えられます。
本記事では制度の詳細について、メリット・デメリットを含めて解説していきます。
*本稿は、2024年11月末日時点での枠組みについて解説を行ったものです。
1. 特定投資家の概要
特定投資家制度は、2007年に施行された金融商品取引法に基づき、適切な利用者保護とリスク・キャピタルの円滑な供給を両立させる目的で創設された制度です。
この制度は「プロアマ制度」とも呼ばれ、投資家を特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)に区分し、金融商品の販売・勧誘を行うというものです。
特定投資家は、一般投資家と比較して情報収集力、分析能力、リスク管理能力が高いとみなされています。
そのため、特定投資家は特定投資家向けの金融商品にアクセスしたり、一部規制を受けずに投資を行うことが可能となります。
2. 個人が特定投資家となる場合の資格要件
特定投資家の要件は金融商品取引法(第2条第31項、第34条の3、第34条の4)に基づき規定されています。
銀行等の金融機関をはじめとした適格機関投資家や国、預金保険機構や上場会社などが特定投資家として区分されますが、個人でも一定の知識・経験・財産などの条件を満たすことで、特定投資家になることができます。
これまで特定投資家になる際には、数億単位の資産が必要でした。
しかし、2022年に特定投資家の要件が緩和され、「年収1,000万円以上で、特定の知識・経験を有し、かつ有価証券の取引経験が1年以上ある」ことを満たすことで、特定投資家になることが可能となり、裾野が拡大しました。
さらに、資産管理会社を設立している方は、その会社を通じて特定投資家になる方法も考えられます。法人の場合、特定投資家の要件は法律で具体的に定義されておらず、各金融機関が運用ルールに基づいて判断されることになります。
3. 特定投資家がアクセスできる投資機会
特定投資家になることで活用できる制度や投資できる金融商品があります。
特定投資家になると活用できる制度
株式投資型クラウドファンディングにおける投資上限額制限の解除
まず、株式投資型クラウドファンディングにおける投資上限額に制限がありません。
株式投資型クラウドファンディングにおいては、一般投資家が1社に対して1年間に出資できる上限金額は50万円以下と定められていますが、特定投資家であれば無制限に出資が可能です。
これまでに、住まいのサブスクサービスを提供する株式会社アドレスや、ペット向けの事業を展開する株式会社PETOKOTOなどがこの制度を利用しています。
株主コミュニティ制度の参加勧誘緩和
次に、株主コミュニティ制度です。この制度は、地域に根ざした企業等の資金調達を支援するために、非上場株式の取引や換金ニーズに応える目的で2015年5月に創設されました。
株主コミュニティは、証券会社が銘柄ごとに組成する必要があり、その会社の役員、従業員、その親族、株主、継続的な取引先といった会社関係者が中心となるため、証券会社による投資勧誘が前提とされておらず、証券会社から一般投資家に対しての参加勧誘も禁止されています。
一方で特定投資家においてはこの規制の対象外となり、さまざまな株主コミュニティ銘柄について知る機会を得やすくなります。
この制度を活用した企業には、出版物専門商社の株式会社トーハンや、ファスナーで有名なYKK株式会社などがあります。
特定投資家になると投資できる金融商品
J-Ships(特定投資家向け銘柄制度)
続いて、J-Ships(特定投資家向け銘柄制度)です。J-Shipsは、証券会社が「特定投資家」向けに非上場企業の株式や投資信託などを発行・流通させることを可能にするものです。
非上場企業にとっては、特定証券情報の準備などが必要ですが、IPO準備を進めている企業にとっては、IPO後の資本政策を考える上で投資家層の入れ替えが重要な論点となります。そのため、特定投資家を株主として迎え入れることが、大きな選択肢となりつつあります。
最近では、野村證券がこの制度を通じて、五常・アンド・カンパニーの約50億円、NOT A HOTELの約44億円の資金調達を支援し大きな話題となりました。
TOKYO PRO Market
最後に、東京証券取引所のプロ向け市場であるTOKYO PRO Marketです。TOKYO PRO Marketは、日本やアジアにおける成長力のある企業に対して、新たな資金調達の場を提供し、他市場にはないメリットを提供することを目的として2008年に創設されました。
また、国内外のプロ投資家に新たな投資機会を提供し、日本の金融市場の活性化と国際化を促進することを目指しています。
これまでに、C Channel株式会社や琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社などがこの市場に上場しています。
4. 特定投資家の申請と手続き
個人で特定投資家として申請するためには、各証券会社で手続きが必要です。手続きに必要な書類は要件によって異なりますが、以下のような書類が求められます。
有価証券等の金額:証券会社等の取引残高報告書など
純資産:銀行預金通帳のコピーなど
年収:前年度の源泉徴収票など
特定の知識・経験:各種資格の証明書、社員証、名刺など
特定投資家への移行は、各証券会社で審査が行われます。また、特定投資家の有効期限は1年間であり、各証券会社において毎年手続きが必要です。なお、途中で特定投資家から一般投資家への変更を申請することも可能です。
5. 特定投資家になるリスク
特定投資家になると、以下の規制の対象外となります。また、特定投資家として認定されることで、高額な投資商品やリスクの高い金融商品が案内されることに対する許諾を意味するため、この制度を十分に理解した上で、特定投資家への移行をご検討ください。
広告等の規制(金商法第37条)
通常、金融商品に関する広告には、適切な内容を表示する義務がありますが、特定投資家向けの広告ではこの規制が緩和され、情報が一部省略される場合があります。取引態様の事前明示義務(金商法第37条の2)
一般投資家に対しては、取引の内容や条件を事前に明示する義務がありますが、特定投資家向けの場合、これが省略されることがあります。これは、特定投資家が十分な知識と経験を持っていると想定されているためです。契約締結前交付書面の交付義務(金商法第37条の3)
一般的には、契約を締結する前に重要な情報を記載した書面を交付する義務がありますが、特定投資家にはこの義務が適用されません。特定投資家は、自ら必要な情報を収集・判断できるとされています。契約締結時書面の交付義務(金商法第37条の4)
契約時に、契約内容を記載した書面を交付する義務も、特定投資家に対しては適用されません。これにより、取引が迅速に行える一方、自己責任が求められます。書面による解除(金商法第37条の6)
一般投資家には契約を解除できる「クーリングオフ」のような制度がありますが、特定投資家には適用されません。したがって、特定投資家は一度契約した場合、その契約から簡単には解約できません。適合性の原則(金商法第40条1号)
金融機関は、一般投資家に対して、その投資家に適した商品を勧める義務がありますが、特定投資家にはこの義務が緩和されます。つまり、リスクの高い商品であっても、特定投資家には勧められることがあります。
6. まとめ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本稿では、特定投資家制度の概要、特定投資家としてアクセスできる金融商品の種類、そして特定投資家になるために必要な手続きについて解説しました。特定投資家になることで、一般投資家ではアクセスが難しい金融商品や投資機会にチャレンジすることが可能となりますが、その一方でリスクの高い投資にもつながる可能性があるため、慎重な判断が求められます。特定投資家制度は、投資の幅を広げたい方や、より高度な投資機会を検討されている方に向いています。
イークラウドでは特定投資家への移行手続きを希望される方の受付も行っています。魅力的なスタートアップ企業に対するエンジェル投資や、さらに大きなリターンを目指したい方にとって特定投資家は一つの選択肢です。ただし、リスクとリターンのバランスを十分に理解し、ご自身に最適な投資戦略を考えた上でご検討ください。
特定投資家制度についてのご質問やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。イークラウドは、投資家の皆さまに最適な投資機会を提供し、安心して投資活動を行っていただける環境を整えていけるよう努力してまいります。