英語学習にカラオケ、おすすめです=学習方法のお話(その3)=

アウトプットを意識した基礎練習としての音読やシャドーイング

 外国語学習では、真似るという作業を避けることはできませんので、音読やシャドーイング(発話を聞いてその発話についていって繰り返す練習方法)もよい練習と考えられています。私の場合、シャドーイングについやす時間的余裕がなかったので、もっぱら教室授業で、生徒のためのモデル音読を続けました。自分の発音に完璧に自信があるということではもちろんありませんが、教科書準拠の音声教材が機械的に感じたこともあり、自分の練習のために、教室で教科書の付属音声教材を使ったことはありませんでした。
 音読もシャドーイングも、アウトプットを意識した基礎練習といえるところがありますが、教材はなんでもよいのだと思いますが、歌や映画やテレビ番組を教材に使うのも、もちろん悪くありません。

字幕を使ってのコーラス・カラオケは電子黒板で音読しているようなもの

 この「リョウさんの英語教室」の「教材のお話」のマガジンのところに、エルビス・プレスリーの歌詞付きビデオをいくつか紹介しましたので、ためしに聞いてほしいと思います。
 ということで、今回は、カラオケの効用について書きます。
 カラオケは、英語で karaokeと綴りますが、発音は、カリオーキと発音することが多いと思います。これは「カラの」「オーケストラ」というそもそもの日本語の合成語の成り立ちを知らない英語母語話者にとっての発音だからなのでしょう。
 最近は、YouTube のコンテンツの充実がいちじるしく、歌手も歌っているヴァージョンならば、正確にはコーラス・カラオケと言うべきで、純粋な意味でカラオケとはいえませんが、カラオケ的に歌って楽しむことくらいはできます。
 歌詞 (lyrics) 付きなら、歌詞を見ながら歌える。これは電子黒板で音読しているようなものですね。少なくとも発音練習にはなります。昔は、歌詞カードを見ながらレコードを使って歌ったものですが、まさに隔世の感があります。
 "karaoke songs with lyrics" や ”YouTube"といった語句を並べて検索すればヒットすると思います。ご希望のアーティストの名前を入れてもよいでしょう。たとえば、60年代のヒット曲と、入れてもよいでしょう。
 インプットとアウトプットをバランスよく学ぶということが大切だというお話もしてきましたが、英語学習者に圧倒的にアウトプットが少ないもとで、実際に発音してみる、発話してみる、音読をしてみる、歌ってみるというのはとても大切なことだと思います。少なくとも発音練習にはなります。モデル・リピートという単調な発音練習よりは歌のほうが余程いいと思います。

「言語」学習と「言語活動」学習、別の言い方をするなら、ラングとパロール

 実際にアウトプットをしてみて、理解が深まる、インプットも伸びる、歌ってみて英語がよくわかるということがあります。
 これもすでに触れましたが、言語体系の文法を学ぶ際には、時間をかけることができます。これが「言語」学習。語彙増強も、じっくり時間をかけて蓄えることもできます。これは、別の用語で言うなら、ラング(言語体系規則)のお勉強と言ってもよいでしょう。
 一方、言語活動を学ぶ際には、時間をかけることはできません。リスニングなど、相手のスピードについて行ってそこに乗っていかないといけません。スピード・リズムが大切になるのです。そのためのパワーが必要になってきます。これは、別の用語で言うなら、パロール(言語行為)のお勉強と言ってもよいでしょう。

パロールのお勉強をするときこそ、スピード計測の基準であるWPMを考えましょう

 パロールのお勉強をするときに大切なもの、それは何かというと、スピードです。そのスピードをどう計測するのかといえば、これまでお話ししてきたWPM(1分間の語数)ですね。スピードをはかる基準としてWPMを考えましょう。50WPM、100WPM、150WPM、200WPMの4つくらいを基準に考えていきます。それぞれ、50WPM(第一基準)、100WPM(第二基準)、150WPM(第三基準)、200WPM(第四基準)と仮にしておきましょう。
 それで、エルヴィス・プレスリーのバラードは、だいたい50WPMくらい、第一基準でした。第一基準くらいは、なんとかクリアしましょう。

コーラス・カラオケの効用

(1)コーラス・カラオケは「言語活動」的だから、スピードの重要性について理解できるようになります。理解するだけでなく、後戻りできないので、ついていくしかない
(2)コーラス・カラオケはモデル歌手といっしょに歌うため、スピードとリズムの練習になり、音の連結(linking) や押韻、発音に意識的にならざるをえません
(3)こうした「言語活動」練習の結果として、語彙力増強 (vocabulary building) がはかられ、 慣用表現 (idiomatic expressions) も身につきます
(4)内容が理解できる歌であれば、「理解可能なインプット」という意味で、聞いているだけでも学習効果が期待できます

内容を求めて歌を聞いたり歌うだけ

 パソコンやスマホで歌ってもよいのですが、テレビで YouTube を見るなら、YouTube で好きな歌を歌うだけです。もちろん、聴くだけでもOK。
 英語学習、とくに「言語活動」の学習に、カラオケはおすすめなのです。
 では、なんの歌を聞いたり歌ったらよいのかといえば、興味のある唄、比較的簡単な歌詞で、ゆっくりで、歌いやすいものならなんでもよいでしょう。
 実際に聞いたり歌ってみると、「よくわからなかったけれど、つまるところ、これは恋の歌なんだね」「これは失恋の歌なんだ」「ああ、こんな唄だったのか。知らなかった」「これは日本でいえば演歌だな」「たわいのない、毒にも薬にもならない唄だな」など、いろいろな発見があります。これは自分で経験しないといけない「言語活動」体験であり、その結果として、「言語活動」学習体験をつうじた「言語」学習となるのです。

教材としての歌は「理解可能なインプット」でないといけません

 クラッシェンの「インプット」仮説でお話をしたように、教材としての歌は、「理解可能なインプット」でなければなりません。
 したがって、コーラス・カラオケで選ぶ歌は次の観点で選ぶとよいでしょう。
(1)語彙的に文法的に、意味のかたまり(sense group)(breath group)として、わかりやすい歌詞を選びましょう
(2)スピードでは、ゆっくり感じられるもの(50~60WPMくらい)から、段階的に早く感じられるもの(140WPMや160WPMなど100WPM以上のもの)へと、それぞれの歌のスピードを意識しましょう
(3)音程で歌いやすいものを選びましょう
(4)YouTubeであれば、アクセス回数をみてどの程度人気があるのかを知り、歌の評価を相対化しましょう
(5)内容を理解できていれば、「理解可能なインプット」、すなわち聞いているだけでも学習効果が期待できます

理解がともなわなければ、「言語」学習という原点に戻りましょう

 「言語活動」的に聞いたり歌ったりしても、内容が頭に入ってこない場合は、「言語」学習という原点に戻る必要があります。
 時間をかけてじっくりと学ぶ「言語」学習としては次がおすすめです。
(1)語彙でわからないものを辞書で調べてみよう
(2)慣用表現を調べてみよう。慣用表現は、辞書を使うことはもちろんのこと、インターネットやAIも使ってみよう
(3)ヒットソングであれば、背景的解説も読んでみよう
 そして「言語」学習後、再度「言語活動」学習として、カラオケで歌ってみるのです。舌がもつれてうまく歌えないことがあるかもしれません。呼吸法も意識するかもしれません。身体にも意識が及ぶかもしれません。コーラス・カラオケで歌うことが「理解のともなう音読」の練習となって、徐々に語彙も慣用表現も単語帳に几帳面に書かずとも、身体に入ってくるかもしれません。そして、段々に、単語や語句を忘れて、唄の内容だけがイメージ豊かに頭に入ってくるかもしれません。そこまで行けば、しめたものです。

音読と理解がバラバラな音読から「理解のともなう音読」へ

 以前にも紹介しましたが、「理解のともなう音読」とは私の造語で、一分間に160語くらいのスピードでゆっくりと、自分で音読しながら、そのままの語順で理解できる直読直解式の音読のことを言います。初級者の段階では、「音読」と「理解」は分裂しているのが普通で、かなりの研鑽を積まないと「理解のともなう音読」は難しいものです。100WPMくらいで、「音読」と「理解」がなんとかつながってきても、不安定な状態が続くでしょう。
 また同一学習者であっても、「理解のともなう音読」が可能か否かは、語彙水準や使われている文法水準によって異なってきます。日本語と英語とでは、統語論と語彙がまるで違っているため、語順の違いを乗り越える「理解のともなう音読」は、「語順の征服」が不可欠であり、通常、日本人にとって簡単な課題とは言えません。けれども、この語順の征服をし、英語の語順に習熟しなければ、「言語活動」学習自体として、「理解可能なインプット」は不可能なのです。

英語の語順に慣れるためにもコーラス・カラオケは効果的

 ということで、「語順」に習熟する点でも、言語活動学習として、そして言語学習として、コーラス・カラオケはおすすめです。
 いくつかの歌の記事をマガジンに置きましたので、「教材のお話」に行って、歌を聞いたり、歌ってみて下さい。1回歌ってみて、理解できれば、あなたの勝ち。理解できなければ、あなたの負けというゲーム感覚で挑戦してみて下さい。意味がとれなければ、解説に眼を通すなり、自分で調べてみて、再度聞いてみたり、歌ってみることが、トレーニングとして大切ではないかと思っています。

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