"Hound Dog"(133WPM) Elvis Presley の Official Lyric Videoシリーズ=英語教材のお話(その10)=
ヒット曲中のヒット曲 "Hound Dog"
エルヴィスは、ゆっくりとしたバラードも得意ですが、エルヴィスの真骨頂とも言えるロックも大得意です。本日紹介する教材は、WPMとしては早めの "Hound Dog"。
以下、YouTube のオフィシャル歌詞付きビデオからです。
エルヴィスのオフィシャル歌詞付きビデオの字幕がいいですね
これまで紹介してきた歌でも書きましたが、このオフィシャル歌詞付きビデオはよいと思います。なにしろ字幕が楽しい。フォントや字のサイズ、単語の出し方が、いい感じ。プレゼンのセンスが光ってると思います。字幕効果なんでしょうね。字幕見てるだけで飽きません。
今回紹介する "Hound Dog" はもちろんベストアルバム "30 #1 Hits" に収録されています。
非標準英語だからこそウケた"Hound Dog"
"You ain't nothin' but a hound dog"という歌詞を高校の英語授業で扱うと怒られそうです。何故かといえば、非標準とされている英語だからです。標準英語であれば、"You are nothing but a hound dog." (「おまえは猟犬以外の何ものでもない」)でしょうか。ain't は、am not、is not、are not などの短縮形なのですが、非標準英語とされています。でも、べらんめえ調と言うべきか。強調された感情表現としてこれがウケた。
あのローリングストーンズの代表曲 "(I Can’t Get No) Satisfaction"(1965) というヒット曲も、「満足できない」と言いたいのなら、"I can’t get any satisfaction." が標準英語で、”I can't get no satisfaction." は非標準とされます。でも、そう歌ったからこそ黒人文化の橋渡しとなって白人にウケた。「満足できねぇねぇんだよ」という感じでしょうか。
黒人英語の影響である二重否定
繰り返しになりますが、歌詞の"You ain't nothin' but a hound dog" や "I can't get no satisfaction"は、非標準英語とされます。
標準英語では、否定語が2つ使われると肯定の意味になるというルールがありますが、こうした二重否定が意味を強調するために使われるという用法は、特定の言語共同体の特徴を示しており、そこには、標準英語なんてクソ食らえ、俺たちは俺たちだという気概が感じられます。
こうした二重否定は、アフリカ系アメリカ人英語(African American Vernacular English / AAVE)に特徴的と言われ、AAVEでは、二重否定が強い否定の意味で使われます。"I ain't got no money" は「お金が全くないないんだ」という強調の意味になります。
エルヴィス・プレスリーやローリング・ストーンズは、ブルーズやR&Bなど黒人音楽から大きな影響を受けています。これらのジャンルの歌詞にはAAVEの特徴がしばしば取り入れられており、そのスタイルが反映されたのも当然のことと言えるでしょう。
後ほど動画でも紹介しますが、エルヴィスの "Hound Dog" は、そもそも黒人女性歌手のビッグ・ママ・ソーントンの歌であり、その歌詞やスタイルは黒人文化の影響を色濃く残していました。黒人英語(AAVE)や南部方言の特徴が、リズム感や表現力を強める役割を果たしているわけです。
"Hound Dog"の歌詞解説を少しだけ
"you ain't never caught no rabbit" の ain't は ここではhaven'tの代わりですね。それでまた二重否定。「ウサギをつかまえたことなんて全くねぇねぇくせに」といった感じでしょうか。
"you ain't no friend of mine"の ain't は、もちろんaren't 。何でもain't で済ましてしまう。ain't は、are not にも、have not にも、am not にもなるんですから、ある意味、便利といえば便利です。
"they said you was high-classed"の、この they say that ~は、「連中が言うには」「世間が言うには」「~ということらしい」と、伝聞情報を言うときにつかう常用表現。"you was high-classed"は、標準英語ではもちろん、"you were high-classed"と、 were を使うべきところです。「あんたは上流階層だという噂だが」ということですね。で、「それは真っ赤なウソっぱちだ」(”that was just a lie") と。英語のlieは、日本語のウソより深刻な意味になります。
"you ain't no friend of mine"は、もうおわかりですね。「おまえなんかオイラの友達なんかじゃねぇねぇんだよ」という感じです。
ビッグ・ママ・ソートンのブルーズをカヴァーしたエルヴィス
先ほど紹介したビッグ・ママ・ソートンの1953年のオリジナル"Hound Dog"。
お前はしっぽを振る猟犬以外の何物でもないと、ビッグ・ママ・ソートンは力強く歌います。そもそもが、女性を食い物にするヒモを追い出すブルーズの歌でした。エルヴィスヴァージョンは少し歌詞を変えていることがわかります。
この「ハウンド・ドッグ」を1956年にエルヴィスがカヴァーしました。
猟犬の歌で大ヒットとなったのですが、もちろんこれはメタファーで、犬の歌だからヒットしたということではありません。
ビッグママが歌った相手はろくでなしのヒモのやどろくでしたが、エルヴィスの相手は番組のホストだったスティーヴ・アレンだったのかもしれません。
"Hound Dog" の WPM を計測してみた
さて、高校生のみなさんのために、"Hound Dog" のWPM (1分間の語数)をはかってみると、全語数は233語。エルヴィスが歌っている時間は101秒。ということで、133WPMでした。
バラードが第一段階の50WPMだとすれば、これは第二段階の100WPMを楽にこえて第三段階の150WPMに届きそうな速さ。
エルヴィスの歌を実際聞いて感じる通り、これは比較的早い歌ですね。
歌がとってもうまいエルビスでリズム感を養うのもいいかもね
エルビスのリズム感は抜群ですね。
ハウンドドッグは、単なる猟犬の歌ではありません。大衆は、簡単な歌詞を繰り返し用いて、自由に歌いまくり踊るエルヴィス・プレスリーのパフォーマンスに釘づけになったのだと思います。
エルビスは英語学習にもおすすめです。とにかくうまい歌手ですから。すでにポピュラー音楽の古典ですから教養として知っていて損はありません。いまどきの高校生でエルビスを知ってるなんて、ちょっといい感じがしませんか。