北アイルランド出身のヴァン・モリソン=英語にまつわるお話(その11)=
北アイルランド出身のヴァン・モリソン
ヴァン・モリソンの名盤 "Moondance" から"And It Stoned Me" と "Caravan"を紹介してきた。
言うまでもなく、英語にまつわるお話(その8)で、「England, Scotland, Wales, Great Britain, Northern Ireland, the United kingdom, Republic of Ireland」のお話をしたように、ヴァン・モリソンの出身地ベルファストのある北アイルランドは、大ブリテン島(Great Britain)にはありませんが、イギリス(the U.K.)ではあります。
「アイリッシュはヨーロッパの黒人だ」
ロディ・ドイル作、アラン・パーカー監督の映画 "The Commitments"(1991)で、「アイリッシュはヨーロッパの黒人だ」という台詞をジミーというキャラクターが述べる場面があります。
"Do you not get it, lads? The Irish are the blacks of Europe. And Dubliners are the blacks of Ireland. And the Northside Dubliners are the blacks of Dublin. So say it once, say it loud: I'm black and I'm proud."
お前たち、わからないのかい。アイルランド人は、ヨーロッパの黒人なんだ。そしてダブリン市民はアイルランドの黒人なんだ。そしてノースサイドのダブリン市民はダブリンの黒人なんだ。だから、もう一度、大声で言おう:俺は黒人。黒人であることを誇りに思う。
Say it loud-"I'm black and I'm proud"は、1968年のジェームズ・ブラウンの革新的作品。「見えない存在」(invisible)としての黒人的存在が自己肯定と自己主張を始める、いわゆる「黒は美しい」(Black is beautiful)という、ブラックパワーの意味論的闘いです。
イギリスやヨーロッパに黒人移民も少なくない現在、ジミーの台詞が曲解される可能性がありますが、「黒人的存在」「アイルランド人的存在」という点で、差別されているという共通性があると言えるでしょう。
アイリッシュは「ヨーロッパの中の黒人」で、ダブリン市民は「アイルランドの中の黒人」で、なかでもノースサイドに住んでいるダブリン市民は「ダブリンの中の黒人」だと、俺は誇り高き黒人なんだと映画「ザ・コミットメンツ」の中でジミーは仲間に主張するわけです。
合州国の音楽を貪欲に学んだヴァン・モリソン
Van Morrisonのアルバム"Moondance"は、名曲ぞろいです。
The Band の The Last Waltzの中のVan Morrisonの"Caravan"のパフォーマンスにぶっとんだ想い出もあります。
レコードコレクターの父親からの影響もあって、合州国の音楽を貪欲に学んだヴァン・モリソン。とくに、黒人音楽文化では、レイ・チャールズ。マディ・ウォーターズ。サム・クック。そして、ボブ・ディランやザ・バンドとの交流。
もちろん、アイルランドのザ・チーフタンズへの共感と原点回帰。
ヴォーカリストしては、ある意味派手なのですが、ヴァン・モリソンは、基本、地味です。でもヴァン・モリソンの、音楽への向き合い方が、いい。それが個性になっているわけです。
ただ個人的には、The Band の The Last Waltzの中のVan Morrisonの"Caravan"のパフォーマンス以外に、これまでヴァン・モリソンのパフォーマンスで感心したことはありません。"It's Too Late To Stop Now"のDVDも例外ではありません。ヴァン・モリソンは、見かけではなく、シャウトするヴォーカルとして聞くべきと思います。