英語の個人名は、なぜファミリーネームとしても使われるのか=英語にまつわるお話(その2)=

ジョン・レノンとエルトン・ジョン

 いつも高校生が知ってる例を出せずに申し訳ありません。
 現高校生の皆さんには馴染みがないかもしれませんが、あの「イマジン」をつくった元ビートルズのジョン・レノン。そして、ポップ・ミュージック界では広く知られるエルトン・ジョン。
 二人ともミュージシャンで、いっしょにライブをやってレコードも出したこともあります。アルバムタイトルは、「エルトン・ジョン&ジョン・レノン」。
 あれ、ジョンっていう個人名は、ファミリーネームにも使えるの。
 普段眺めている景色にはまるで気づかないことがあるように、ジョンと聞いても名前として普通に受け止めているだけでしょうから、私たちが疑問に感じることはまずないと思うのだけれど、ジョンという名前は、個人名にもなるし、ファミリーネームにもなっている現象…。
 気づいたことありますか。

サイモン・ニールとポール・サイモン

 もうひとつ例をあげてみますね。
 残念ながら私はまだ聞いたことがないのですが、グラスゴー出身のロックバンドで活動しているサイモン・ニールという人がいるそうです。一方で、あの「明日にかける橋」の元サイモンとガーファンクルで活動し、こちらは何枚ものソロアルバムを聞いてよく知っているポール・サイモンというシンガー・ソングライターがおります。
 そう。サイモンという名前が、個人名にもファミリーネームにも使われているのですね。
 もうひとつ、例を出してみますね。

サイモン・ニールとニール・サイモンもある

 先ほど紹介したグラスゴー出身のロックバンドのサイモン・ニール。そして、こちらも、またまた古い例で申し訳ありませんが、私の世代でよく知られている劇作家・脚本家として名声をあげたニール・サイモン。面白い喜劇が多いので今度是非チェックしてみてください。
 ということで、サイモン・ニールもニール・サイモンもあるのです。
 ちなみに、サイモンは、"Simon-Says"という子どもの遊びがあるくらい、英語名ではポピュラーな名前になっています。

言ってみれば、翔平 大谷と大谷 翔平ってこと?

 サイモン・ニールとニール・サイモンがありならば、これって、日本語であれば、翔平 大谷という人と大谷 翔平って人が、別々にいるってことじゃありませんか。
 そんなの、ありなの。

英語文化で、個人名が姓に変わることは普通にあること

 私たちにはあまり知られておりませんが、個人名 (first name) と ファミリーネーム (surname) とで、同じ名前が使われるということは、英語名においては実はよくあることなのです。何故かというと、個人名が姓に変わる、という現象が普通にあることがその理由です。
 家族名がまだ一般的でなかった中世において、「John の息子」などのかたちで名前に使われることがあり、やがてそれがファミリーネームとして使われるようになりました。たとえば、John の息子が Johnson というファミリーネームを名乗るようになるというようなことです。
 その一方、John をそのまま、ファミリーネームとして使うこともあったのです。
 まさに、「ええっ」って感じですが、何でもありなのが英語名の世界といったら、言い過ぎでしょうか。

ヨーロッパ中のあちこちで見かけるジョン

 ジョン・レノンとエルトン・ジョンのお話は、名と姓の転化の話でした。
 今度は別の話で、横の広がりという話になるのですが、John や Simon は聖書に登場する重要な名前であることから、歴史的に、広くヨーロッパ全体で使われておりました。
 ジョンの例で言いますと、ジョンは、ヘブライ語のヨハンがもとになって、英語ではジョン、スコットランド・ゲール語ではイアン、アイルランド・ゲール語ではショーン、フランス語ではジャン、スペイン語ではフアン、ポルトガル語ではジョアン、イタリア語ではジョバンニ、ロシア語ではイヴァンと、実は、みな同じヨハンという名前から発生しています。
 おそるべきジョン(ヨハン)。
 実にパワフルな名前なのですね。

英語ファミリーネームの4つのルーツ

 英語におけるファミリーネーム(surnames)というものは、個人名(first name)、地名(local name)、あだ名(nickname)、職業名(occupational name)の4つから来ていると、「ペンギン 名字辞書」( "The Penguin Dictionary of Surnames")という本に明確に書かれています。
 ここから、英語では、この個人名(first name)由来の名字(みょうじ)がたくさんあるということになります。なにしろ4つの由来のうちのひとつなんですから、実態は違う割合でしょうけれど、単純に割っても25%はあるってことになりますからね。
 とくにキリスト教や古代からの個人名が家系を表わすファミリーネームに転化したものが多いようで、こうした名前が広く使われたため、名字として残るようになったというわけです。
 こうした名字の由来からすれば、個人名と姓とが共通することには、なんら不思議はありませんね。
 そういえば、日本も、平民には苗字(名字)なんてない時代が長くありましたが、家系と苗字(名字)を重んじる因習と英語文化とは、かなり違った文化ということになるのでしょうね。

個人名にもファミリーネームにも使われるポピュラーな英語名

 ということで、英語圏では、多くの名前が、個人名(ファーストネーム)にもファミリーネーム(ラストネーム)にも使われます。繰り返しになりますが、これはファミリーネームの多くが個人名から派生しているためなのです。
 以下は、そのよくある例になります。

  1. John

    • 例: John Lennon(ファーストネーム)/ Elton John(ラストネーム)

  2. James

    • 例: James Brown(ファーストネーム)/ LeBron James(ラストネーム)

  3. Michael

    • 例: Michael Jackson(ファーストネーム)/ George Michael(ラストネーム)

  4. William

    • 例: William Shakespeare(ファーストネーム)/ Robin Williams(ラストネーム)

  5. Thomas

    • 例: Thomas Edison(ファーストネーム)/ Dylan Thomas(ラストネーム)

  6. David

    • 例: David Beckham(ファーストネーム)/ Larry David(ラストネーム)

  7. George

    • 例: George Clooney(ファーストネーム)/ Boy George(ラストネーム)

  8. Henry

    • 例: Henry Ford(ファーストネーム)/ Thierry Henry(ラストネーム)

  9. Paul

    • 例: Paul McCartney(ファーストネーム)/ Sean Paul(ラストネーム)

  10. Richard

    • 例: Richard Nixon(ファーストネーム)/ Keith Richards(ラストネーム) 

いまどき英語文化にまつわる話なんて地味ではやらないけど

 いまはコミュニケーション重視の英語教育が主流でしょうから、こうした英語文化にかかわるうんちくは嫌われます。ま、私たちにとってそもそもたいした話じゃないんですが。
 むかしは、英語文化のお話ばかりでレッスンが構成されたような中学教科書もありました。日本では英語のコミュニケーション力などあまり必要性がないし、そもそもそんな環境もないし、それよりも、むしろ大英帝国のイギリス文化から学ぶんだという時代ですね。いまはそうした文化性を抜き取って道具として中立的な英語がもてはやされます。

違いを知るところから始めよう

 でも、うんちくはどうでもいいのだけれど、それぞれの社会、それぞれの共同体にさまざまな土着の文化があって、それぞれお互いに尊重しましょうよというのは、たいへんによい世界観ではありませんか。いえ、必要な世界観でありましょう。
 そのためには、「おっ、違うんだね。そうなんだ、面白いね」というところから始めたほうがよろしいかと思うのですが。
 マニアックなうんちくはどうでもいいんですけどね。

名前の話は英語学習では大切なこと

 でも、名前の話は英語学習ではけっこう大切なことだと思います。
 会話でもまず相手の名前を覚えないといけないでしょう。で、なんと発音するのかわからない名前が山ほどあるんです。リスニングで苦労するのが名前の発音。これがやっかい。私たちの名前だって、姓名を英語式にひっくり返して紹介するのか、それとも、日本式で押し通すのか。悩みどころです。
 名前の話は深く、なんとも、やっかいなものなのです。
 最後に、日本語で、ファミリーネームやラーストネームのことを、姓とか苗字(みょうじ)とか名字(みょうじ)っていいますよね。これらも、それぞれ由来があってどうやらかなりニュアンスが違うようです。興味のある高校生は調べてみても面白いかもしれません。
 最後の最後まで、名前はやっかいなものというお話でした。

いいなと思ったら応援しよう!