ファミリーネームを用いたバンド名か個人名を用いたバンド名かーCrosby, Stills, Nash and Young と Peter, Paul and Mary =英語にまつわるお話(その4)=
英語の個人名とファミリーネームは、話題にこと欠かない
英語の個人名とファミリーネームについて、個人名が転化してファミリーネームとなる理由や発音のわからない名前に出会ったときの優れもの、読み上げサイト(アプリ)について紹介してきた。
材料例が昔のバンドで申し訳ないが、今回は、ファミリーネームをつかったバンド名と、個人名をつかったバンド名を考えてみる。
クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングを聞いていた高校時代
Crosby, Stills, Nash & Young のライブアルバム"4 Way Street"。
いま聞くと粗っぽく冗長なところもあるが、高校時代に愛聴した思い出がある。
この Crosby, Stills, Nash & Young というバンド名だが、たとえば、Crosby, Stills, Nash というファミリーネームをもった弁護士3名が新たに弁護士会社を設立するとき、Crosby, Stills, & Nashというようなファミリーネームを単に並べただけの会社名にするという命名方法はよくあることだ。合併はするけれど、誰がリーダーということではなく、3名が対等・平等ということなのだろう。
60年代の The Rolling Stones のように、多くのバンドがそのイメージを表現するバンド名を採用しているのに対し、Crosby, Stills, Nash & Young というバンド名はファミリーネーム (surnames) を並べるという、言ってみれば、弁護士4名による新会社のようなバンド名である。
そうしたのは何故なのか。
個性尊重ということか。もしそうだとすると、なぜ個人名 (first names) でなく、ファミリーネーム(surnames) なのか。個性を尊重するのであれば、個人名 (first names) のほうが適切ではないのか。
別々のところで功績ある個人が結集したスーパーグループ
Crosby, Stills, Nash & Young のようにメンバーのファミリーネームをただ並べたバンド名は、異例に見えるかもしれないが、ひとつは、Crosby, Stills, Nash & Young のメンバーそれぞれが、すでにそれぞれ有名なバンドでキャリアを築き個々の名声が確立されていて、そうした個性が結集してスーパーグループをつくったというイメージをつくるために、単にファミリーネームを並べたグループ名にしたのだろう。実際、メンバー個々のアイデンティティと功績を尊重し、その上での結束を強調し、ソロでやったりバンドでやったりと、演奏構成もパフォーマンスも組合せが自由で、そうした自由こそがバンドを体現していた。
フォーマルでプロフェッショナルな印象を与えてくれるファミリーネーム
さて、名前を使ったバンドにしようと考えるとき、個人名なのか、ファミリーネームなのかという問題が生じる。この点で、個人名ではなくファミリーネームを用いたのは、そのほうがフォーマルでプロフェッショナルな印象を与えられるからなのだろう。とりわけ、個々の名声が高く、それぞれが独立したアーティストである場合、ファミリーネームを並べることで、メンバー個々の独立した存在感を示しつつ、グループとしての結束も表現できる。弁護士や会計士が共同事務所を立ち上げるときに、この形式を用いるのも、それぞれの専門家の独立した実績を重視しているからなのだ。こうしたファミリーネームを用いたバンドは、他に、サイモンとガーファンクルとか、個人的にはほとんど聞くことのなかったエマーソン、レイク&パーマーなどがあった。
個人名を並べたバンド名
その一方、個人名 (first names) を並べたバンド名は、カジュアル過ぎるためか、ほとんどない。
唯一思い出すのは、Peter, Paul and Mary 。PPMだ。
中学時代にたくさん聞いた Peter, Paul and Mary
中学から高校時代にかけてPPMはよく愛聴した。PPMが来日したとき、渋谷公会堂に聴きに行ったのが外国人ライブ初体験だった。当時のアメリカ合州国のフォークソングリヴァイヴァルから、社会問題や平和の問題も透けて見えた。中学時代に英語を習ってPPMを聴き込んだのは子どもの頃の貴重な経験だった。
個人名を並べたバンド名がほとんどない中で、なぜPPMなのか
この Peter, Paul and Mary は、バンド名にファーストネームをに使った珍しい例である。個人名を使うことで親しみやすく温かみのある印象を作り出している。またPeter, Paul, Mary というキリスト教における典型的な名前を使うことで、さまざまな宗教とさまざまな人種をかかえるアメリカ合州国の広範な聴衆に親しみをもたせる効果をねらったのかもしれない。サイモン&ガーファンクルの初期の、英語化された(Anglicized) 名前 トム& ジェリー が、すでに知られた親しみやすいキャラクター名を使用することで(そこにはユダヤ系という出自を積極的に出そうとしなかった計算も含まれていたと思われるが)、当時のアメリカ合州国の広範な市場に訴えようとする試みだったように思われる。Peter, Paul and Mary として、PPMを売り出すマーケティング戦略もあったろう。Peter, Paul, Mary はそれぞれ本名で、ピーター・ヤ―ロー。ポール・ストゥーキー。マリー・トラバースという名前は当時からライナーノーツなどで見慣れていた。逆にいえば、ヤ―ロー・ストゥキー&トラバースでは、覚えにくいし、弁護士会社みたいになってしまうだろう。それでは、子どもの歌も歌っていたPPMにそぐわない。
PPMで英語学習も悪くない
PPMは辛口ロック評論家からはものすごく評価の高いバンドではない。
でも、PPMで英語を学んでいた当時の日本の中学生にとっては、技術も高い、とてもすてきなフォーク・トリオだった。
いまの高校生にも是非聞いてもらいたい楽曲がきら星のごとく燦然と輝いている。