今日も東京は晴れ。7 異国は遥か彼方
7.移動の不自由
金曜夕方の定例会議が済んで、一週間が終わった。
来週5月20日から上海出張だ。海外出張は本当に久しぶりなので何を準備したらよいのか忘れてしまった。パスポートは一体どこにしまったか。スーツケース、どのサイズだ。
それにしても海外出張は本当に少なくなった。海外旅行に至っては殆どない。もちろん、海外渡航は、感染抑止のためかなり管理された形だが可能ではある。但し、オーストラリア・ニュージーランドなどオセアニア諸国やベトナム・タイ・シンガポールなどアセアン諸国、また、中国では上海・北京・香港などの一部都市に限る。それ以外では出入国手続きが厄介だ。欧米や中南米の多くでは相変わらず変な感染症があって怖いのと、米国やEUやインドなどからの帰国時には空港内宿泊施設に必ず2週間隔離されてしまう。隔離期間中の宿泊費もバカにならないので、あまり行く気にならない。
コロナショック前は少なくとも毎年2~3回は仕事で海外へ出かけていた。ポストコロナの10年間では海外出張は二度だけだ。そもそも会社が国境を越える海外出張を推奨していない。海外支店へ転勤すると普通は帰任するまで行ったきりだ。様変わりだ。
海外旅行に至っては、この10年間で一度だけ。コロナショック前はほぼ毎年ロンドンに出かけていたし、香港やイタリアにも行った。しかし、コロナショック後、成田空港は国際線の運用を終了して貨物専用空港となったし、羽田空港も国際線で直行便が毎日飛んでいるのはロンドンとニューヨークと上海ぐらい。寂しい限りだ。国際航空運賃も年間を通じて非常に高い。
10年ぶりにオーストラリアへ行ったとき、オーストラリア人の友人も「オーストラリアに戻ったあとの隔離措置がない日本しか行く気がしない」と言っていた。オーストラリアは親日で、アジア系に対する差別も比較的無いので、次回海外旅行に行くとしてもオーストラリアにしようと考えている。最近も、ドイツとイタリアで日本人観光客が中国人と間違えられて殴られる事件があった。オソロシイ。
国内の出張も少々面倒だ。出発してから帰着するまでの空路・鉄道・タクシーなど交通機関とスケジュールを事前に細かく会社に報告しておく必要がある。当日はもちろん、スマホで位置情報データが全て国立感染症センターのデータベースに送信されて記録されるのだが、会社も社員の行動を別途把握することが義務付けられている。感染したり感染させたりした場合、監督者たる会社に責任と費用が発生する。
エピローグ
2030年7月16日、火曜日、梅雨明けの平日。今日も快晴だ。最高気温35度に達するとの予報だ。
先週金曜日、2年ぶりの緊急事態宣言と外出自粛令が出た。例のニューヨークで感染拡大していた新種コロナがとうとう日本に入ってきてしまった。既に東京で確認された感染者が500人以上、大阪も150人以上と結構広がっている。
新しい生活様式が定着し、早め早めの対応が良いとの国民的コンセンサスもある。皆すでに心の準備ができているので平静である。官房長官の発表も淡々としたものだった。そもそも外出自粛が出ても、私自身、平日はコンビニ以外にいくところもないので、いつもと何も変わらない。
それにしても、発令時には濃厚接触者の全員がすでに特定されていて、ご本人宛にも注意喚起・自主隔離の連絡を完了しているなんて、コロナショックの頃と比べて、別次元の世界となった。これもスマホ位置情報とマイナンバーカードで個人情報をおさえているおかげだ。昨年のアウトブレークと同様、日本では今回も2週間以内の外出自粛で済むだろう。
ふと外を見ると、平日昼の都心の街にもかかわらず誰も外を歩いていなかった。それが猛暑故なのか、外出自粛のためなのか、それともいつもの風景なのか、もう誰にも判別がつかない。