ポジティブサプライズの読み方
ネガティブな見通しとポジティブサプライズが交錯している。
経済協力開発機構(OECD)は(6月)10日、新型コロナウイルスの感染が年内に再び拡大した場合、2020年の世界の実質経済成長率がマイナス7.6%に落ち込むとの予測を公表した。感染がこのまま収束するシナリオでは20年にマイナス6.0%まで落ち込んだ後、21年にプラス5.2%に回復すると見込んだ。
世界経済見通しは下方修正される一方だ。4月に発表されたIMFの世界経済見通しは、2020年マイナス3.0%のあと2021年にはプラス反転して5.8%成長とした。
5月8日に発表された世銀の世界経済見通しでは、2020年マイナス5.2%と戦後最悪のマイナス成長となったのち、2021年にプラス4.2%と予想。
6月10日に発表されたOECDの世界経済見通しでは、新型コロナウイルスの感染が幸いにも第一波で終息したケースで2020年の世界経済はマイナス6.0%、2021年はプラス5.2%、ただし、第2波が起きた場合の世界経済は、今年がマイナス7.6%、来年がプラス2.8%とかなりひどい状況になると予測している。
7月にはIMFの改定見通しが発表される予定で、また、7月末に米GDP4-6月期速報が発表されることになる(予想は4割減)がどうなるか。
一方、ポジティブサプライズもあった。
第一に、株式相場の予想外の上げ調子である。日米ともに、株式相場は先行きの景気回復期待を頼りに予想外の戻しを示しており、日経平均は6月10日の終値2万3124円95銭(3月下旬に最安値1万6千円台)、2万7千ドル台で始まったNY市場はNYダウ(同1万8千ドル台)は小幅下落したもののナスダックが3日連続で史上最高値を更新するなど時ならぬ「コロナバブル」の様相を呈している。米金融政策の動向次第では相場はさらに上昇していくとの見方もある。
第二に、5月米失業率のポジティブサプライズである。5月のアメリカの労働統計では、失業率が事前の失業率20%前後という予想を大幅に下回り、4月の14.7%から5月には13.3%とむしろ改善する『ポジティブサプライズ』となった。私自身、予想が裏切られて安堵しているところがある。もちろん、レイオフ(一時帰休)の戻りが十分に読み切れなかったところは反省材料だ。
ただし、安心するのはまだ早い。というより、株式市場の方は明らかに金融財政政策のアヤである。企業業績がこれから本格的に悪化しようというのに株価が上がるのは奇妙なことである。
また、失業率のサプライズについては単なるレイオフの切り替え時期の見誤りであった。米国の雇用環境は現状最悪であることを理解すべきだ。そもそも13.3%という高い失業率自体がすでに異常事態なのだ。しかも、今後を見ると、今回のレイオフの戻りさえも徐々に切り崩されて、悪化する部分も出てくるだろう。飲食・観光などは絶滅の危機である。一桁の失業率という謙虚な望みさえ今年中には全く叶いそうもない。
日本はどうか。4月の失業率は2.6%と前月比0.1%ポイント上昇にとどまった。しかし、日本の場合、レイオフ的なものがないため、直接的な比較は難しいのだが、一時帰休がわりとそれに近いだろう。就業者6628万人の中には実際には働いていない休業者が1割近くに相当する597万人含まれており、前年同月比で420万人増加している。一時帰休をあわせた実質的な失業率では10%に迫っているのが実態ではないかと個人的に推察する。米国より多少ましな程度である。世間様からのプレッシャーと、休業者に支払う手当を助成する政府の雇用調整助成金がかろうじて企業を雇用維持に踏みとどまらせているのだ。だが、世界経済の不調は輸出産業を直撃し、景気不振はサービス業から全産業へと広がっていくだろう。企業の我慢が限界を超え、休業者が失業者に振り替わる状況が空恐ろしい。
ベースとしては、先に例示した世界経済見通しが示しているように、足元の経済は相当悪く、時が経過するごとに実体経済へのダメージの深刻さ・回復の足取りの遅さが明らかになっていくだろう。
ミクロレベルでのポジティブサプライズ(絶体絶命と思われていた業種でもいろいろな工夫で起死回生/コロナ対応で新しいビジネスが次々に創造されている)は実体が伴う取り組みであり、将来の成長の芽として大いに評価すべきだが、目先のマクロや金融市場のポジティブサプライズにはリアルの裏付けがない。楽観は禁物である。