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【要点と感想】ジョヴァンニ・アリギ 『長い二〇世紀 ― 資本・権力と文明の系譜』(原文: 1994, 翻訳: 2009)

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【著者のプロフィール】
ジョヴァンニ・アリギ(Giovanni Arrighi, 1937-2009)は、イタリア出身の社会学者・経済史家です。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学などで教鞭をとり、資本主義の長期的歴史発展や世界システム論の領域で功績を残しました。本書は彼の代表作の一つであり、資本主義と国家権力の連関を広大な歴史的視点から分析しようと試みたことで知られています。

以下では、本書の章ごとの要点を説明し、その後に感想を書きます。要点には含まれていない詳細を知りたい方はぜひ本を手に取ってみてください。

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■ 序章の要点
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  1. 資本主義の「長期持続」と“金融拡大”

    • アリギは、近代世界資本主義を複数の「長い一世紀(サイクル)」に分けて捉えています。その際、マルクスの資本一般定式(M-C-Mʼ)をヒントに、「ある段階で貿易や生産が伸び悩むと、資本が金融へ逃避して大きな利益を上げる局面(金融拡大)が周期的に到来する」というパターンに注目します。

    • こうした金融拡大期は単なる「産業の衰え」ではなく、むしろ資本がより柔軟な形態(貨幣形態)を取り戻して、“新しい覇権”ないし“新しい体制”へ移行する前触れとして繰り返されるとされます。

  2. 資本主義と国際システムの結びつき

    • 資本主義は、市場経済と重なる部分もありますが、むしろ国家権力に大きく依存してきたとアリギは論じます。近代ヨーロッパにおいては国際的競争(いわゆる「国家間競争」)が進むほど、資本主義的な勢力は軍事や外交・金融などで優位に立つ国家や企業ブロックと手を組み、世界的に自身の利潤を拡大させてきました。

    • その過程で、スペイン・オランダ・イギリス・アメリカといった「覇権国」が交代で主導権を握るが、資本の論理(柔軟に投資形態を変える“金融”の論理)は最終的に覇権の中心を乗り換えながら「無限蓄積」を続けるという主張が、全体の骨子になっています。

  3. アメリカ覇権の危機と今後への問い

    • 序章の終盤では、1970年代以降のアメリカの地位低下(いわゆる「覇権の衰退」)が、歴史上の反復とどう重なるか、また現代の資本の金融化がこれまでの周期とどう異なるのか、という問いが提示されます。

    • 20世紀末~21世紀初頭の大きな混乱(冷戦後の政治的・経済的危機、東アジアの勃興など)を踏まえ、アメリカ後の世界秩序はどのように再編されるのかという問題意識につながっています。

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■ 第1章「史的資本主義の三つの覇権」の要点
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  1. 覇権国の登場と交代

    • 近代以降、世界規模の資本蓄積を統治する「覇権国」がたびたび現れてきました。アリギによれば、その覇権の中核は、「単に軍事力で他国を支配する」というより、「資本家層や国民からある程度の同意と正統性を得て、リーダーシップを発揮する」ことにありました。

    • オランダ、イギリス、アメリカという3つの覇権は特に顕著で、いずれも「国家形成の能力」×「資本主義的拡大」の二重性によって世界システムを再編してきたとされます。

  2. 領土主義と資本主義の弁証法

    • アリギは「領土を拡大すればパワーが高まる」という領土主義の論理(T-M-T)と、「可動資本を掌握すればパワーが増す」という資本主義の論理(M-T-M)とを対比しています。

    • 実際には、資本主義的権力と領土主義的権力は互いを利用しあい、拡大と衝突を繰り返してきました。歴史上も、軍事・領土支配が最大に思えた「中華帝国」などは必ずしも決定的優位には至らず、むしろヨーロッパの可動資本競争のほうが資本主義的パワーを生み出した点が強調されます。

  3. 近代国際システムの形成

    • 16~17世紀のヨーロッパで国際システム(ウェストファリア体制)が確立していく背景に、資本の台頭と国民国家化の圧力がありました。北イタリア都市国家からオランダが覇権を握るまでの流れは、「勢力均衡(バランス・オブ・パワー)」と「金融資本の増大」を軸に紛争と再編が繰り返されました。

    • 特にオランダがスペイン・ハプスブルク帝国との闘争の中で主導権を獲得し、ヨーロッパに新秩序(ウエストファリア体制)をつくることにつながった点が、本章の大きな論点です。

  4. イギリス覇権と自由貿易帝国主義

    • アリギは、「オランダ → イギリス → アメリカ」と覇権国が交代していく理論を概説しながら、特にイギリスの例に注目します。一度オランダが築いた覇権体制を、イギリスは巨大な海軍力と産業革命をもとに、さらに世界的規模に拡大しました。

    • ただし、イギリス覇権でも、後期には軍備競争や国際競争(特にドイツやアメリカの台頭)で疲弊し、最終的にはアメリカが受け継ぐ流れが生まれます。

  5. アメリカ覇権と自由企業制度

    • 第一次・第二次世界大戦の流れを経て、イギリスからアメリカが覇権を交替していく経緯が論じられます。アメリカの覇権は、単に市場自由化や軍事力だけでなく、国際通貨体制(ドル体制)の構築やブレトン・ウッズ体制を通じた「世界市場の管理」を伴った点が特徴的だとされます。

    • しかし、1970年代以降にそのドル体制も揺らぎ始め、東アジアの急激な成長との兼ね合いで「ポスト・アメリカ」覇権の萌芽があるかどうかが、この後の章でさらに検討されることになります。

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■ 第2章「資本の台頭」の要点
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