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【要点】バートン・マルキール 『ウォール街のランダム・ウォーカー』
書籍のリンク:
【著者のプロフィール】
バートン・マルキール(Burton Gordon Malkiel)は、アメリカ・プリンストン大学の経済学者。株式投資理論に関する多数の著作で知られ、とりわけ本書『A Random Walk Down Wall Street』は投資理論の古典として世界中で読まれている。プリンストン大学で学部長や財務委員会のメンバーも務め、政府系委員会や保険会社などの投資委員会にも携わるなど、学界と実務の両面で長く活躍している。
以下では、バートン・マルキールの名著『ウォール街のランダム・ウォーク』(第10版・日本語訳)の章ごとの要点を説明します。要点には含まれていない詳細を知りたい方はぜひ本を手に取ってみてください。
第1章 「株式投資の二大流派」
投資の世界の大きな対立軸
著者はまず「株式投資には大きく二つの流派がある」として、
企業の“本質的価値”に注目するファンダメンタル分析(価値理論)
市場参加者の心理や投機的な“流行”によって株価が形成されると考える砂上の楼閣(心理・行動)分析
の存在を紹介しています。
ファンダメンタル分析は、企業の将来利益や配当、金利、成長率などをもとに理論的な株価を算出しようとするアプローチです。一方、心理分析(砂上の楼閣学派)は、投資家の過度な楽観・悲観や流行によって株価が上振れ・下振れする様子を重視し、バブルの発生と崩壊を説明しようとします。前者は論理的・定量的な面を重視し、後者は人間の行動・心理に着目している点が特徴です。
ランダム・ウォーク理論への導入
こうした二つの流派を取り上げたうえで、著者は「短期的な株価の動きを予測することは極めて困難である」というランダム・ウォーク理論を提示しています。まだ詳細には触れていませんが、「目隠ししたサルが投げたダーツでもプロの運用成績と大差ない」という有名なたとえ話が登場し、市場平均を上回る投資成果の難しさを示唆しています。このエピソードによって、著者が後に論じるインデックス投資の有用性が示されているといえます。
第2章 「市場の狂気」
歴史上の投機バブル
この章では、人類史に見られる代表的なバブルとして、
17世紀オランダのチューリップ狂
18世紀イギリスの南海泡沫事件
1920年代アメリカの株式バブル
が取り上げられています。過度に熱狂した投資家が、短期間のうちに破滅へと向かった事例を描写することで、バブルの本質を明らかにしています。
チューリップ狂:当時の欧州では珍しかったチューリップの球根に高額な値がつき、職人の年収数年分にも相当するほどの価格で売買されたそうです。「値上がりが続く」と楽観的な期待が広まると買いが買いを呼び、投機が加速しますが、何かをきっかけに「さすがに高すぎる」という冷静な見方が出始めると、一気に暴落へ向かいます。こうした過程はその後のバブルにも共通する仕組みといわれています。
集団心理と投資家行動
過去のバブルには、「合理的な判断を失ってしまう集団心理」が共通していると著者は指摘しています。「他人が儲かっているなら、自分も乗り遅れては損だ」という焦りが投資家の熱狂を増幅し、価格をさらに釣り上げてしまうのです。しかし、最終的には企業の実態や需要と供給のバランスに収斂していくため、バブルはいつか弾ける運命にあります。こうした投資家心理の弱点は、砂上の楼閣理論の背景にもなっているとされています。
第3章 「株価はこうして作られる」
株価形成のメカニズム
ここでは、ファンダメンタル価値理論(企業の将来キャッシュフローを割引いて現在価値を求めるアプローチ)が解説され、実際の市場参加者の売買がどのように株価を動かすのかが示されています。1960年代以降は機関投資家の影響力が高まり、大量の資金が株式市場に流入するようになった経緯についても触れています。
なぜバブルや過熱が起こるのか
理屈の上では、企業の真の価値が正確に評価されれば、株価は大きく乖離しないはずです。しかし、現実には投資家の楽観・悲観が過剰になり、金融緩和などの外部要因とも相まって、相場が極端な上昇・下落を示すことがあります。著者は、個人投資家が短期的な価格変動を狙うことの危険性を警鐘として鳴らし、長期的な分散投資の重要性を再三強調しています。
第4章 「二一世紀は巨大なバブルで始まった」
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