アダム・トゥーズ「シリコンバレー銀行の経営破綻:アメリカ政府によるベンチャー、スタートアップを名乗る中二病のガキ達の救済劇について」(2023年3月14日)
週末、財務省、FRB、FDICが、銀行の取り付け騒ぎがこれ以上悪化ないように介入措置を実施した。
アンヘッジドのロブ・アームストロングは、これまで〔取り付け騒ぎが起こる可能性が高いと〕関心を寄せてきた中小銀行をリストアップしている。
私は、誰よりも金融危機に直面した際の逸話を好事にしている。しかし、そんな私ですらも、週末の出来事には、呆れるような既視感や嫌悪感を覚えざるをえなかった。いつもの連中が、何度も同じような行動を繰り返しているのだ。悲劇、茶番、そしてその次は? ゾンビのホラーショーか? 言うまでもなく、当局は今回の事態を予期していたはずだ。FRBで誰も責任を取らなければ、それはアメリカ政府に巣食うエリート達の病状の表れに過ぎない。
ワシントンの当局者達が行ったのは、救済措置だったのだろうか? たしかに、SVBの経営陣、銀行そのもの、株主は救済されていない。しかし、ジョージ・ワイゼンタールや、マット・クラインといった識者の多くは、今回の救済劇の裏側に潜む欺瞞を糾弾している。
〔当局の救済において〕重要な点となっているのは、預金者達の生態系が保護されたことだ。そして、そのSVBに現金を預けていた預金者達は、普通の意味での預金者などではなかった。SVBに預金を預けていたのは、非常に脆弱な銀行に、不明瞭な理由で現金をプールしていた、不適切・不見識な経営を行っていた連中だった。マット・クラインによるニュース・レター『オーバー・ショット』での素晴らしい記事にあるように、SVBの本当の問題は、預金者があまりに「低品質」だったーーつまり、〔預金者だったテック・ベンチャー企業は〕少数のベンチャーキャピタルのアドバイザーによって簡単に右往左往するような連中だったのだ。今回の事態は、大衆心理が大規模に作用する古典的な銀行取り付け騒ぎというより、SVBというチキンゲームで遊んでいた中二病のガキどもの饗宴だった。クラインは「『バカどもが経営していた銀行』というより、『バカどもが引き起こした取り付け騒ぎ』だった」と指摘している。
そのバカどもが救済されたのはなぜだろう?
2008年以降、取り沙汰されている言説の一つに、金融支配説というものがある。これは、「FRBは高金利政策を取ることはできない。なぜなら高金利よる損失を被る資産保有者からの不可避の圧力に直面するからである」という考え方だ。
しかし、週末に起こった事態は、本質の特殊性を露わにしている。表面上、SVBは、システミック・ダメージを与えられるだけの規模の銀行ではない。なので、SVBは、大規模銀行に適用されている監査からS逃れていたのだ。つまり、金融業である、という事実だけで、〔当局による救済的〕緊急介入を説明できない。
しかし、SVBに関する案件が、〔当局者にとって〕重要案件なことはあまりにも自明となっていた。なぜなら、預金者らは、非常な権力・富・影響力を有しており、アメリカの将来像の一端に不可欠な物語提供していたからだ。そして、彼らが持つ権力は、週末にバイデン政権に対して、非常にあからさまな「ベンチャー起業支配」の行為としてもたらされた。
ブルームバーグ通信は以下のように報じている。
この会議については、ファイナル・タイムズ紙もさらに興味深い内容を報じている。
これこそが、ブルジョワジーがその正体を表した瞬間である。彼らが執行委員会や委員会を我が身を乗り出して作り、国家に対処を要求すれば、こうした姿を示すのだ。2008年のウォール街と財務省との特殊な社会学と、2023年のシリコンバレーとワシントンとの関係とは、非常に異なっていることを想起するだろう。
しかし、こうした根底に存在する権力関係が露わになったことをもって、スキャンダラスに、何が「救済」で、何が「救済でない」のかといった馬鹿げた議論に没頭すべきなのだろうか? むろん、そうではない。これこそが、金融資本主義の仕組であり、皆も知っているはずだ。
ヤコフ・フェイギンが、素晴らしい記事を書いている。
サウル・オマロヴァは、バイデン政権でOCC(Office of the Comptroller of the Currency:通貨監督庁)の長官候補して目されていたが、上院での超党派からなるクレジット・ユニオンと銀行ロビイストの連合に阻止されている。
フェイギンの提案は、現在のアメリカの政治状況下での現実的な提案というより、診断的な思考実験だと思う。しかし、これは高度な実利的診断であり、現在の介入の意義を問う時の、道徳的・法的議論への、有用な政治経済学的是正策となっている。
[Chartbook #201 Venture dominance? The meaning of the SBV interventions]
Posted by Adam Tooze, March 14, 2023.
原題邦訳「ベンチャーによる支配? シリコンバレー救済の意味とは」
〔翻訳者:WARE_bluefield〕
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