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アダム・トゥーズ『クレディ・スイスの問題を引き起こしたものは何だったのか? その根底にはスイスという国家そのものがある』(2023年3月17日)

今週のクレディ・スイスの危機は、アメリカの銀行破綻による小規模な波及から引き起こされた銀行株の世界的な不安が引き金となった。パニックは、クレディ・スイスの債券を対象としたクレジット・デフォルト・スワップの価格の高騰となって現れた。

出典: ファイナンシャル・タイムズ

言うまでもないことだが、クレディ・スイスの問題点はもっと遡ることができる。

クレディ・スイスは、2008年の世界金融危機を、スイスのライバル銀行であるスイス・ユニオン銀行(USB)よりも比較的うまく乗り切っている。スイス・ユニオン銀行は全面的な国家介入を必要としたが、クレディ・スイスは、湾岸諸国からの資本注入と、流動性ドルをFRB(ニューヨークでの直接取引とスワップラインの両方)とスイス国立銀行から調達し、危機を切り抜けた。スイスの銀行史の権威である歴史家トビアス・シュトラウマンは、この金融危機時の経験が結果的にクレディ・スイスの杜撰さ招いたと指摘している。

クレディ・スイスは、2021年の一連の〔融資焦げ付き〕スキャンダルを受け、株式市場の評価で、ヨーロッパの他の民間銀行やスイス・ユニオン銀行と隔絶するものとなった。

クレディ・スイスのCEOだったティージャン・ティアムは、クレディ・スイスのスイス国内向けユニバーサルバンク部門を、スイス国内での独立した事業として分離しようとした。しかし、彼は、スキャンダルが取り沙汰される状況下で、更迭されている。2022年になって、クレディ・スイスで資産運用していた顧客は、クレディ・スイスへの不信感を高め、年末になって、雪崩のような〔資産・預金の〕引き出しを始めたのである。

こうして不安定な状況になっていた中、大西洋を横断してやってきた余震で、クレディ・スイスは非常な危機的状況になってしまった。

このように考えると、今回の危機は、アメリカの混乱と、クレディ・スイス自身の企業としての不始末の交差によって生じたことが分かる。しかし、なぜクレディ・スイスはこうした事態に陥ったのだろうか? NZZのインタビューでシュトラウマンが指摘しているように、クレディ・スイスの大失敗は、チューリッヒの自由主義・プロテスタントのエリート達(フライジン)が、スイスの排他的な政治ネットワークを基盤とする世界規模のチャンピオン企業を作ろうとして、危機に陥ったプロセスの最新段階と把握するのが適切だと思われる。

スイスは世界的に、チョコレート大企業、製薬会社、保険会社、銀行などの大企業によって有名だが、その背後には、緊密なローカルネットワークが潜んでいる。これは、国内では、エリートによる政治組織FDP(スイス自由民主党)党の形態を取っている。この政党は、スイスの保守的民主主義において永続的な党派権力を保持ている政党の一つだ。

フライシンによるビジネス・ネットワークを構成しているのは、1980年にクレディ・スイスのグローバル化を企図したライナー・ゲートのような人物だ。ゲートは、失態を産んだスイス航空のコングロマリット化にも関与しており、ネスレの監査役員にも名を連ねている(チューリッヒには本拠を据えていない)。

〔ライナー・ゲート〕

スイス航空は、2021年の運航停止のきかっけに破綻している。クレディ・スイスも2000年代初頭には深刻な問題を抱えるに至っている。〔破綻や問題を産んだ〕ゲートの職務は、ウォルター・キールホルツが引き継いだ。彼は、クレディ・スイスと再保険大手スイス・リーを合併させた立役者であり、チューリッヒにおける芸術の大物パトロンの一人だ。

クレディ・スイスを、スイス国内でのユニバーサルバンク事業、グローバルな資産運用事業、米国型の投資銀行事業の統合体にしようとした、この〔スイスの保守的エリートからなる〕支配的ネットワークの傲慢さが、最終的に現在の苦境を産んだのである。しかし、こうした〔エリート達の〕人脈の存在によって、クレディ・スイスは、甘んじて破綻しないことも保証されてもいる。

企業の指導者層とスイス政府は今、厳しい選択に直面している。これまでスイス政府は、スイス・ユニオン銀行とクレディ・スイスを競合させ、2行を別のビジネスモデルとして維持してきた。しかし、この維持が困難となっているのだ。スイス・ユニオン銀行によるクレディ・スイスの買収が有力視されているが、オーウェン・ウォーカーが以下のように報じている

スイス・ユニオン銀行のウォーゲーム〔事業戦略〕の関係者は先月、フィナンシャル・タイムズ紙に、「我が行は、スイス政府からの『999』の緊急救助要請を警戒している」と語った。「スイスは、2つの銀行モデルにコミットしているが、それ〔2行モデルの崩壊〕について備えないといけないだろう」と。アブーホセインが提示したシナリオでは、もしスイス・ユニオン銀行が、クレディ・スイスの事業を引き受ける場合には、クレディ・スイスのスイス国内事業をIPOし、投資銀行部門を閉鎖し、資産運用部門を残すことになる。しかし、スイス・ユニオン銀行の経営陣は、自社グループでのアメリカでの富裕層向け事業の成長と、ウォール街での銀行評価を高めることに注力しているため、クレディ・スイスの買収には気乗りしないだろう。スイス・ユニオン銀行の戦略担当者「スイスの規制当局も、事業体がスイス・ユニオン銀行だけで巨大化してしまえば、あまりにリスクが大きくなるため、買収を望まないだろう。絶対に破綻させることができない怪物を作り出してしまう」と述べた。

ここで問題となっているのは、単にグローバルな金融安定性や、競争政策における一般原理〔潰せない単独の巨大銀行の誕生〕ではない。グローバル化という看板の下で、19世紀にルーツを遡ることができる小規模で限定された社会的エリート・ネットワークの21世紀における再編成なのだ。167年前、チューリッヒ初の銀行としてクレディ・スイスの前進を設立し、スイスにおける鉄道産業化の偉大な推進者であり、自由主義の政治家であり、実業家でもあったアルフレッド・エッシャーは、草葉の陰で嘆くだろう。

[Chartbook #202 What went wrong at Credit Suisse? The Swiss roots of the debacle
Posted by Adam Tooze, March 17, 2023.
〔翻訳者:WARE_bluefield
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Chartbook #202 What went wrong at Credit Suisse? The Swiss roots of the debacle.
Posted by Adam Tooze, 21 hr ago

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