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ノア・スミス「銀行部門の取り付け騒ぎを防ぐには」(2023年3月13日)

"Don't Panic" by tEdits, CC BY-ND 2.0.

政府が組織した預金保証で,アニマルスピリットを大人しくできるはず

「するとみんなは町の避難所に駆け込む / ところが騒ぎはカーライルの通りという通りで起きてるのさ」

The Smiths

さて,きっと,これから数日は,どんなネタを扱うか決まったようなものだね.金曜の記事では,シリコンバレーバンクで取り付け騒ぎが起きた理由の基本を解説した〔日本語記事〕.今日は,より広く銀行部門で取り付け騒ぎを防ぐ方法の話をしよう.(註記:この記事は書き上げた瞬間に,事実上の賞味期限切れになった.政府が介入してシリコンバレーバンクの預金を保証したからだ.とはいえ,それでもこの記事は役立つ.どうして預金保証がなされて,それが救済措置とちがうのはどうしてなのかを解説してるからだ.)

前回の記事では,シリコンバレーバンクの経営破綻がもたらす最大の危険は,スタートアップ企業が従業員たちに給与を払えなくなることなんの関係ないと述べた.多くのスタートアップ企業で従業員への給与未払いがしばらく続き,その結果としてごく一部の企業でも倒産すると,テック系の労働者にとってもベンチャーキャピタルの創設者たちにとってもよくないし,おそらく,サンフランシスコみたいなテック系企業がたくさん集まってる地域の経済にとってもよくないだろうけど,それについては,2022年の前半から続いてるテック系バブル崩壊の例がまた1つ増えたってだけの話にすぎない.これまでのところ,それよりはるかに大きな危険は,銀行取り付け騒ぎだ――シリコンバレーバンクの顛末を見た人たちが預金を引き出そうと各地の銀行に押し寄せるかもしれない.そうなったら,銀行破綻の連鎖がはじまるかもしれないし,ことによると景気後退につながってしまいかねない.

すでに述べたように,これが起きるとしても,その理由は2008年金融危機のそれとはちがう.銀行制度全体は,シリコンバレーバンクに依存してるわけじゃない.他のいろんな銀行は,べつにシリコンバレーバンクからの融資を頼っているわけじゃないし,シリコンバレーバンクへの融資に頼っているわけでもない.それに,かりにシリコンバレーバンクの資産が投げ売りになったとしても,そのせいで他の銀行がいきなり支払い不能になるわけじゃない.だから,いまぼくらは本物の金融危機波及のリスクにさらされてるわけじゃない.よかったよかった.

じゃあどんなリスクにさらされてるかっていうと,取り付け騒ぎだ.社会人生活を送ってきたなかで,大型の銀行取り付け騒ぎを目の当たりにしたことなんてない人は大勢いる.2008年のことを忘れちゃった人たちも多い.あるいは,我が身にそんなものが降りかかるわけないって決めてかかってる人たちもいっぱいいる.そういう人たちは,急に目を覚まして「なんてこった!銀行も安全じゃないのか! もうだめだ,この世のおしまいだぁ,たすけてぇ」なんて言い出すかもしれない.そして,あわをくって銀行からお金を引き出し,チェースやアメリカ国債あたりに突っ込んだり,現金を靴下に詰め込んだりするのかもね.こういう取り付け騒ぎは合理的じゃない.でも,前回の記事で解説したように,これは自己成就的預言なんだ――銀行取り付け騒ぎの起こすのに,合理性は必要ない.というか,ベンチャーキャピタルやスタートアップ企業の人たちは,いままさにすごく取り乱したことをたくさん口走ってる:

ぜったいに背筋が凍り付いてなきゃおかしい――それこそ銀行取り付け騒ぎとその連鎖へにふさわしい反応だ.大統領とイェレン財務長官は明日にでもテレビに出て1000万ドルまでの預金を保証すると言わないとダメだ.さもなきゃ,混沌がどんどん深まるスパイラルに入ってしまう

https://twitter.com/Jason/status/1634792355294515200

これは,ダメなコミュニケーション戦略に思える.なぜって,A) さらに取り付け騒ぎを引き起こしうるし,B) もしも「ベンチャーキャピタルやスタートアップの業界は全体として金融面で重要だ」と政府が判断したら,新たに多くの規制が敷かれるだろう.たとえば,2008年以後の住宅関係と同じように.ただ,取り付け騒ぎはコミュニケーション戦略の問題じゃない.これは,感情の問題だ.

ともあれ,取り付け騒ぎが大手銀行だけに集中するってことはありそうにない.2008年以降,大手銀行には政府による暗黙の保証がある.それに,小さな銀行に集中して起こることもありそうにない.そういう銀行預金の大半は,連邦預金保険公社 (FDIC) によって保証されている.でも,中規模の地域銀行,とくにカリフォルニア州の地域銀行は,取り付け騒ぎに脆弱になっておかしくない.今週,ファーストリパブリック・バンク,シグネチャ・バンク,ウェスタンアライアンス・バンク,パックウェストの株価はガタ落ちしたけれど,大手銀行の株価はほんのちょっとしか下がっていない:

いま,こういう銀行について突拍子もない噂や主張があれこれと世間に出回ってる.ぼくは,そういう噂や主張をどれひとつとして信頼してない.ただ,それでも,来週か,はたまた再来週か,こういう銀行に多少の取りつけが起きることはありうる.

それに,アメリカの経済と金融システムがテック系部門をまた単純に無視することもありうる.もしかすると,銀行にお金を預けている全米各地の企業は,ただ肩をすくめて,「理系オタク連中に融資してるシリコンバレーバンクとか他の2行ばかりのカリフォルニアの銀行なんて,自分らには関係ない」と判断して,自分たちの業務をこれまでどおり回していくかもしれない.これまでのところ,それが定番の展開だ――テック系企業の株価は2022年に瓦解し,ベンチャーキャピタルからの融資は干上がり,巨大テック系企業は大量にレオオフを実施した.でも,経済全体の消費や雇用や成長は堅調なままだ.だから,また同じ展開になるかもしれない.

ただ,テック業界の外にいる人たちが懸念するかもしれない理由が,ひとつある.なるほどシリコンバレーバンクはスタートアップ企業に高リスクの融資をしてきたことで有名ではあるけれど,そのバランスシートで大きな比重を占めていたのは長期の国債や社債だった.シリコンバレーバンクで取り付け騒ぎが起こるリスクが高まっていた理由として,金利上昇でそうした債券の価値が下がっていたという事情がある.(おさらいしよう.金利が上がったとき,債券の価値は下がってるからね.)

テック系業界やカリフォルニアの外部にいる他の銀行も,そういう長期の国債や社債を保有している.(「満期まで保有する」資産の話を見かけたら,それはたんに長期的に保有する債券のことだ.)そういうわけで,このところの利上げで多くの銀行の資産が全体として価値を下げているんだよ.だから,シリコンバレーバンクの破綻によって,テック系業界以外の預金者がそのことに関心を注ぎだして,「自分が取り引きしてる銀行が利上げで支払い不能になるんじゃないか」と心配しはじめると、カリフォルニアの理系オタク界隈にとどまらずパニックが広まる火種になりかねない.もちろん,これは最悪の場合のシナリオだ.でも,「起こりっこない」と除外はできない.

そして次にくる疑問は,これだ:「より広い範囲で銀行取り付け騒ぎが起こるのを予防したり止めたりするのに政府はどんなことができるんだろう?」 まずは連邦預金保険公社から話をはじめよう.

連邦預金保険公社はなすべき仕事をしてる

連邦預金保険公社 (FDIC) は,大恐慌の発端になった一大取り付け騒ぎを受けて 1933年に創設された.その仕事は2つある.ひとつは,預金保証を提供して銀行の破綻を防ぐこと.もうひとつは,銀行が破綻したときに,「管財人」の管理下においてその銀行の資産を売却したり預金者にお金を払ったりして,ダメージを最小限にとどめることだ.

この2つめの仕事こそ,いまシリコンバレーバンクで FDIC がやっていることだ.シリコンバレーバンクは管財人の管理下に置かれている.その株主たちは締めだされ,従業員たちは自分のゴタゴタを片付ける助けとなるお金を45日支払われ,それから解雇される.いまこのときにも,連邦預金保険公社はシリコンバレーバンクの資産の買い手(単独でも複数でも)を探している.

実は,資産の買い手が単独か複数かは,かなり重要だったりする.たいていの銀行破綻では,その破綻した銀行の資産や預金はどちらも他のどこか1つの銀行に移される――言い換えると,昨日までシリコンバレーバンクに口座をもっていた人は,今日,どこか別の銀行に口座をもつことになる.このとき,預金は1セントたりとも失わずに済む.2008年以降に銀行破綻は何百件と起きた.そして,ほぼいつでも,こうなっている.いちばん有名な例は,2008年のワシントン・ミューチュアル破綻だ.ワシントン・ミューチュアルはシリコンバレーバンクよりもさらに大きな銀行だった.ワシントン・ミューチュアルが破綻したとき,その資産と預金はそっくりJPモルガン・チェースに移され,預金者たちは自分のお金を失わなかった.

これはいい場合のシナリオだ.シリコンバレーバンク破綻でも同じことを引き受ける銀行を連邦預金保険公社が見つけてくれればありがたい.実際,いま連邦預金保険公社は死に物狂いでそういう買い手をいま探している.もし見つかれば,騒ぎを収束させる長い道のりを進むことになる.でも,2~3日のうちに買い手は見つかるはずだ.だから,この記事をみんなが読んでる時点までに,この最適の解決がすでになされてるか除外されている見込みが大きい

ともあれ,買い手を見つけられなかったときには,連邦預金保険公社はプランBに移るしかない.その場合,シリコンバレーバンクの資産をあっちこっちの複数の買い手に売却して,それで得たお金を預金者に送ることになる.これは,最適なプランじゃない.初歩的なトレードオフがあるからだ.一方では,連邦預金保険公社はできるかぎり迅速に売却を済ませてシリコンバレーバンクの預金者たちが今週の給与支払いをするのを助けるべくつとめることができる.他方では,資産の一部の売却には時間をかけて,いい売却額を手に入れることもできる.より高く売却できれば,預金者たちがお金を失う結末を避けられる.

実は,この2つのどちらをとるのが騒ぎの収束に効果的なのかは,はっきりしていない.もしかすると,満額支払われるのをシリコンバレーバンクの預金者たちが待たないといけなくなった方が人々のパニックは大きくなるのかもしれないし,あるいは,預金をわずかでも失わないといけなくなった場合の方が,人々のパニックは大きくなるのかもしれない.連邦預金保険公社としては,いちばんいい賭けをしなくちゃいけない.

これまでのところ,どうやら,なんらかのかたちでこの2つのバランスをとろうとしているようだ.奇跡的にいいシナリオの展開になって,今日,どこかの銀行がシリコンバレーバンクの資産をまるまる買い取ってくれでもしないかぎり,連邦預金保険公社は資産売却を徐々に進めていくことになる.シリコンバレーバンクの預金者たちが月曜に支払いをはじめられるようにはかるためだ:

シリコンバレーバンク・フィナンシャルグループの緊急清算を監督している規制当局は,保険の対象となっていない顧客たちの預金の一部を利用可能にすべく資産売却を急いでいる.(…)破綻後の最初の支払いは――具体的な金額こそ検討中であるものの――同行の破綻を受けて苦しんでいる顧客が目下の窮状をしのげるようにはかることを目的としている.顧客の多くはシリコンバレーの起業家たちやその会社であり,同行の資産売却からより多くの資金を彼らに回そうとしている.連邦預金保険公社が日曜の夜までに資産をどれだけ現金に換えられるかによって,具体的な支払い額は部分的に変わってくる.(…)最初の支払い額は舞台裏で揺れ動いており,保険の対象でない預金のうち 30%から50%ほどの範囲で,まだ定まっていない.

このため,預金の一部はどうなるか決まらないままになる.すると,パニックの空気を維持するリスクを冒すことになる.2008年にインディマック銀行が破綻したとき,預金者たちが直後に手元に戻せたのは預金の 50% だった.「あのときの預金者と同じ目にあうんじゃないか」とシリコンバレーバンクの預金者たちが不安を覚えてしまう.

その場合,パニックを阻止するためにもっと劇的な対応を政府がとるべきだという声があちこちから上がるだろう.というか,すでにそういう声が上がりはじめてる.じゃあ,政府がとるべき対応って,どんなものだろう?

預金保証

政府がとれるいちばん簡単な手は,保証の対象になっていないシリコンバレーバンクの預金を保証することだ(追記:政府はこの手を打った).つまり,「シリコンバレーバンクにお金を預けていた人は,かならず満額を取り戻せますよ」と政府が宣言するわけ.この手は,いま検討されている

連邦政府の当局は,シリコンバレーバンクの保険適用外となっている預金全額を保護することを真剣に検討している(…).財務省・連邦準備制度・連邦預金保険公社は,この週末に預金保護の案を議論した(…)

連邦預金保険公社は上限25万ドルまで[しか]銀行預金を保証しないものの,保護しなかった場合にはより広く金融システムを危うくするリスクが生じると判断した場合には,連邦銀行法の規定により、当局は保険適用外の預金を保護する権限が与えられうる.(…)その場合には,合衆国内の銀行が定期的に積み立てている保険基金によって保険適用外の預金が支えられうる.

この対応がなされるには,その前に,制度を危うくするリスクがあるという判断が連邦準備制度理事会で3分の2の賛成を得るとともに財務長官ジャネット・イェレンの承認を得なくてはならない.

これには議会での対応が必要ないらしいって点が,ここで重要だ.議会の承認っていうのはいつも厄介なものだ.国会議員は,なにかと割って入っては物事の進行を遮って遅らせるのが好きだからね.

実のところ,預金保証基金はたんにシリコンバレーバンクだけのためになるのにとどまるわけではなさそうだ.今回の出来事の結果として破綻した他の銀行の預金や,たんに危うそうに思われただけの銀行の預金もこれで保証できる.

つまり,どこの銀行に預けたお金だろうと,「自分の預金は保険適用外だ」と思っていた顧客の預金もいまや保証されるってわけだ.やったね! どんな預金だろうと失う危険がゼロになったことで,どこの銀行であろうと預金を引き出すにはおよばなくなった.これで,おそらく,パニックは収まる.

これに不平を言う人も大勢出てくるだろう.2008年~2009年と類比して,「救済措置だ,けしからん」といろんな人が言うだろうね〔「救済措置」「緊急援助」と訳される "bailout" は,企業にお金を出して救うことを意味する.つまり,破綻した銀行なんぞに政府がお金を出して助けるなんてけしからん,という不満が出てくるだろうということ〕.でも,預金保証は救済措置じゃない.あのときと今回とでは,状況が大きくちがってる.理由は2つ.

第一に,2008年当時,ダメな判断をして金融危機を招いた銀行家たちは,総じて,救済措置を受けたあとにも自分の(すごく実入りのいい)職に居座り続けた.そして,そういう銀行家たちの銀行はいまも存続している.さらには,彼らがいくらか利益を伸ばすのを政府が保証すらしてみせた.ふつうの人たちが大量失業の憂き目に遭ったりキャリアや生活の糧を失ったりして苦しんでいても,その災厄を招いた張本人たちの多くは,百万ドル台の小切手をもらい続け,権力のあるご立派な地位にとどまり,政府の保証すら受けた.「それって不公平じゃないか」と思う人がいるとしたら,その理由は,本当に不公平だからだ.

他方で,シリコンバレーバンクその他の銀行の預金を保証するのは,それと似ても似つかない.シリコンバレーバンクはこの世から消えるし,その所有者たちはお金を失うし,従業員たちも――疑問の多い経営判断をいくつも下した人たちも――新しい仕事を探すことになる.今回,お金を払ってもらうのは,所有者たちでも従業員たちでもなく,顧客だ――銀行にお金を預けたはいいけれど,その銀行がいい銀行なのかどうかをそんなめちゃくちゃ注意深く考えてはいなかった人たちが,預金の支払いを受けるんだ.顧客たちにも少しは杜撰なところがあったかもしれないけれど,べつに彼らは強欲な金儲けに走ったわけじゃない――経営のダメな銀行に口座をもっていたおかげでお金持ちになったわけじゃないんだよ.

今回と2008年との相違点はもう一つある.それは,預金保証に納税者のお金はびた一文たりともかからないって点だ.預金保証は,銀行が拠出する新たな預金補償基金で支払われる.シリコンバレーにいる一部の億万長者どものやらかしに,一般庶民は少しも巻き込まれない.

(より広い範囲について語ると,金融の安定を保つために救済措置が必要でさえある状況は,大手銀行の大半,ことによると全部が同時に破綻しそうになっている場合だ.2008年は,そういう状況だった.でも,いま,大手銀行はべつに破綻の危機に瀕していないわけで,政府がみずからのお金で介入する必要はない.)

預金保証に関してひとつだけ心配なのは,これがモラルハザードを生じさせることだ.さっき言ったような対応によって,事実上,保険対象外のあらゆる銀行預金が連邦預金保険公社による保証を受けることになる.「これじゃあ,今後,世間の人たちがダメ銀行にも気にせず預金するのを促すことになってしまう」とカリカリする人たちも現れるだろう.でも,その見込みは薄い.ふだんから銀行破綻はごくふつうに起きてる.その一方で,多くの銀行が一斉に破綻の危機に瀕するような稀な場合にしか今回みたいな緊急対応がとられないってことを,世間の人たちも理解してる.それに,今回みたいな緊急対応なしでも,ほぼあらゆる銀行破綻において保険適用外の預金の全額回復で解決が図られるってことも知られているはずだ.

だから,預金保証にはそんなにマイナス面はないだろうとぼくは思う.モラルハザードがほんとの本気で心配なら,個々の銀行についてそれを「制度全体にとって重要な金融機関」だと認めるのに必要な資産の基準を下げればいい.この基準は,2008年金融危機以後しばらくは500億ドルだったけれど,トランプ時代に2500億ドルにまで引き上げられた――というか,シリコンバレーバンクはこの変更のためにロビー活動をやって,自分のところの資産がちょうど基準を下回るようにはかった.無責任なことをやったら銀行業がその対価をいくらか支払うようにしたいのだったら,この2500億ドルの敷居を下げるっていう手がある.

ただ,それよりも大きなメッセージがここにはある.それは,「なんの救済措置もとることなく銀行取り付け騒ぎをしずめたり保険適用外の預金を保証するために政府が利用できる手立てはたくさんある」ってことだ.破綻したシリコンバレーバンクの預金口座を引き継ぐ買い手がすぐには見つからなくっても,政府はほぼ確実に介入して預金を保証する.それでも破綻する銀行は一部に出てくるかもしれない.群れで生きる動物である人間はパニックをきたしやすいものだし,世間の大半の人たち以上にベンチャーキャピタルやスタートアップ企業の人たちはいっそうパニックになりやすく群れの心理に陥りやすいようだからね.でも,他にも破綻する銀行が出てきたとしても,そこにお金を預けてた人たちもほぼ確実に預金を全額もどしてもらえる.

多くの人たちにとって,これから2日ほどはヒヤヒヤすることになるだろう.とくに,ベンチャーキャピタルやスタートアップ業界の人たちはそうだろうね.それに,全員が預金を全額もどしてもらうまでにはしばらくかかるかもしれない.でも,経済運営を担ってる当局がとびっきりのバカじゃないかぎり,預金が煙になって消えてしまう憂き目に遭う人は現れない.

追記: 予想どおり,財務省・連邦準備制度・連邦預金保険公社は,シリコンバレーバンクならびにシグネチャバンクの保険適用外預金を全額保証するという共同声明を発表した.預金保証には,新たに設けられる特別補償基金が利用される.大事な点を抜粋しておこう:

連邦預金保険公社および連邦準備制度の理事会からの勧告を受け,大統領との協議を経た上で,連邦預金保険公社によるシリコンバレーバンクの解体手続き完了を可能にする対応を財務長官ジャネット・イェレンが承認した.(…)すべての預金者が完全に保護されるかたちとなる.3月13日の月曜から,預金者は自分の預金の引き出しなどができるようになる.シリコンバレーバンク解体にともなう損失が,納税者の負担となることはない.

また,シグネチャバンクについても,制度を危うくする同様のリスクとしての例外を認め(…).

株主や,特定の無担保債権者は,保護されない.また,上級経営陣は解任される.法律の求めるところにより,保険適用外の預金者を支援することで預金補償基金に生じるいかなる損失も,銀行への特別課税によって回収される.

最後に,連邦準備制度理事会が日曜に発表したところによれば,あらゆる預金者の必要を銀行が満たせるようにはかるべく,適格な預貯金取扱金融機関が追加の資金提供を受けられるようにするという.

繰り返すと,今回の対応は救済措置とはちがう.一般庶民の懐は痛まないし,シリコンバレーバンクはこの世から消えるし,シリコンバレーバンク経営陣は仕事を失う.

もしも他の銀行,たとえばファーストリパブリックやパックウエストやウェスタンアライアンスが明日にでも破綻したなら,その破綻銀行にもこの基金が拡大されるのは明らかだ.あらゆる預金者が自分のお金を早急に手元に戻せるとわかっていれば,取り付け騒ぎがそういう他の銀行にまで波及するのを防げるはずだし,他のあらゆる銀行が取り付け騒ぎから守られればありがたい.

Brad Setser が政府による解決策の詳細について語ってる連続ツイートは有益だ:

あと,例によって,Matt Levine の文章も読むといい.彼によれば,シリコンバレーバンクにとって預金保証は救済措置ではないけれど,預金保証がなされなかったら取り付け騒ぎにあっていただろう他の銀行にとっては救済措置なんだそうだ.たしかに,そういう銀行の経営陣が仕事をなくさなくてすみ,株主が自分のお金をいくらかでも維持できるって点については,彼の主張は正しい.でも,それは納税者の負担で実現するわけでもない.安全じゃない銀行をより安全にする政府の対策ならなんでも「救済措置」って呼ぶように定義しはじめたら,金利引き下げだって救済措置ってことになるんじゃ…いや,ここんところはちょっとわからないかも… ともあれ,Matt が言ってることにも目をとおしてみてほしい.

そうそう,シリコンバレーバンクの件が金融政策にどういう影響を及ぼすかって問題や,金利引き下げをしても銀行システムを下支えするだけにはならない理由を考察した新しい記事も書いたよ.

[Noah Smith, "Preventing panic in the banking sector," Noahpinion, March 13, 2023
翻訳者: optical_frog]

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