中身の分からないEUCの山で生き延びるには その4
前回はこちら
このシリーズの一貫したテーマは「スキル保有者が絶対的に足りない環境をいかに乗り切るか」である。
私がこの役割を与えられてから観察したところ、"情報の寡占状態"が起きていることが分かった。
有識者が問い合わせを受け、回答して質問者の課題を解決する。すると質問者には「この分野は〇〇さんに聞こう」という刷り込みがされる。
次回以降は優先的に質問するようになるし、周りの人間にも評判を広め、有識者のところにどんどん質問が集中するようになる。
このようにして一部の有識者にどんどん情報が集まるようになり、情報の寡占化が起こるようになる。
新しい業務の立ち上げ期であれば、このような事象は必要悪として許容しなければならない場面もあるだろう。
しかし、長期間これが続くと属人的な運営の弊害が出てくる。
まさにEUCの保守においてこのような事象が発生していたのだが、情報の流れを変えなければいつまで経っても安定した保守体制は出来上がらない。
有識者が質問者に対して、別の人に聞いてくれと言ってもしっかりと守らせるのは難しい。一度定着した問い合わせ先の習慣はかなり強固である。
特に質問者は一刻も早く事象を解消してほしくて問い合わせをしてきているので、一番話が早い有識者に質問するのは自然の摂理である。
私が提案したのは問い合わせ担当を有識者とは別で置くことである。最初は有識者の操り人形でも構わない。
とにかく形だけでもよいので、問い合わせを受けてから課題を解消するまでの一連の流れを何度も積み重ねていく。
これにより質問の窓口を分散させ、情報の流れを変える狙いである。
するとメンバーから提案があった。
気づいた人間が答えるような運営だと仕事が三遊間に落ちてしまう。
曜日で回答者を決めておき、有識者から教わりながら回答してゆく体制にすれば、責任が明確になるという。
内心、メンバーからボトムアップで提案が出たことに感動しつつ、早速このアイディアを取り入れることにした。
すると、思わぬ効果が出た。
ある日、有識者が曜日当番に回答方法をメールで教えた。
すると、メンバーの一人がその回答内容をデータベースに転記し、「今後は回答担当が内容をここに蓄積してゆこう」と提案したのだ。
一つ一つは何の変哲もないアイディアだが、メンバーの自発的な動きで運営ルールが決められてゆく。
自分たちで決めたルールなので必要性が腹落ちしている。そのため、実践する際にも動きに迷いがない。
段々と私がファシリテートをそこまでしなくても動くようになってきた。
こうなると、私が次にやるべきは「さらなる高みのスキルを自ら開拓し、それを分かりやすく噛み砕いて広める準備」だ。
世間では"0を1にする仕事"が注目を浴びがちだが、"1を100に育てる仕事"もなかなか悪くないな、と思う今日この頃である。
過去のシリーズもぜひご覧ください
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?