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1食1万円を超えるコース料理はもはやアートだという話

ある日、ひょんなことから1人あたり1万5000円のコース料理を食べる機会があったのだが、率直な感想は「あっ、自分にはまだ早いな」だった。

高いコースには理由は大体において、①お店の雰囲気、②サービスの良さ、③料理のクオリティ、の3つだ。

行ったお店は、お皿への盛り付け、料理の見た目などから、③の圧倒的な料理のクオリティでぶん殴ってくるタイプの店だった。

こういうお店はセオリーが裏切られる様子や、味の奥深さを理解できないといけない。

残念ながら自分は繊細な舌も料理背景に対する知識も持ち合わせていなかった。

「格式の高いレストランに行ったんだぞ」という実績解除にお金を使った気がして、なんだかお店側に申し訳ない気がした。

同時に、味わうのに膨大な前提知識や感性を求めるあたり、まるで現代アートみたいだなと思った。

別のある日、私はコース料理を食べることになった。お店の名は「チャコ あまみや」という。

将棋ファンの聖地である千駄ヶ谷にひっそりと佇む、ステーキのお店だ。

千駄ヶ谷には公立競技場があり、コロナ禍でイマイチ盛り上がる東京オリンピックの会場になっていた。

オリンピックが近くで開催されるなんて一生にそうない機会なので、少しでも現地の盛り上がりを味わいたくて足を運び、そのついでにチャコに寄ってみたのだ。

棋士が重要な仕事で気合を入れる時に利用するお店ということも知っていたので、「もしかしたらプロ棋士にも会えるかも」なんてワクワクしながら行ってみた。

すると、入り口の近くに「自粛の要請は来ているけど、店が危機的状況なのでお店開けてます」といった趣旨の張り紙があった。

過酷な状況でも頑張ってるんだな。これは少しでもお金を落とさなければなるまい。

漢気スイッチを押された私は鼻息荒くドアを開け、単身で中に乗り込む。

残念ながらプロ棋士の姿は見えなかったが、お店の中に大きな肉の塊が置いてあるのが目に入った。

この店は頼めば1キロのステーキを丸ごと焼いて、出すこともしてくれるそうだ。

巨大な肉の塊に群がり、ナイフとフォークで切り分けるなんてことも今度やってみたいなと思った。

コースを頼むと次から次へと美味しそうな料理が運ばれてくる。

コロナ禍の東京オリンピック、将棋ファンの聖地、プロ棋士も利用する店・・・コースのお値段は4000円ほどだったが、理解可能なストーリーがスパイスになって最高に満たされた気分だった。

人間の幸福度は感動の増量で決まる。

そして、人は理解できないものにはなかなか心が動かされないものだ。

理解の幅は広げつつ、手の届く感動をこれからも大切にしてゆきたい。

写真は私に感動と理解度の相関関係を教えてくれた、「チャコ あまみや」の料理たち。

(サラダやデザートもあったのだが撮り忘れてしまった)

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