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【ユーフォ3期12話感想】少女からの卒業

注意:この記事には、「響け!ユーフォニアム3 12話さいごのソリスト」のネタバレを含みます

 3期の1話でオーディションが大会ごとに行われると知った時、私は次の予測を立てた。

「ははん。これはおそらく、地区大会で久美子がソリストになった後、関西大会でソリストが真由ちゃんに変更になって、全国大会で久美子がソリストを取り返すストーリー編成になるな。そして多分、全国大会前のオーディションで真由ちゃんと久美子が腹を割って話し合い、お互いに全力をぶつけてオーディションに挑むことになる。どんなふうに2人が落ち着くのかが今期の軸になるはずだ」

 私は「物語を学んでいる」という多大なる自負があった。そのため、物語の最初に触れるとその後のストーリー編成はだいたい予測がつく。その予想は、ほとんど当たる。当たり前だ。物語を作るプロは、物語を学んでいる。私よりも深く型を知っている。読者が理解しやすいよう、あえて読者に始まりの段階でストーリー編成の代替の予測をさせているはずだ。

 ただ、私は見落としていた。

 3期が始まってから久美子はずっと、卒業後の進路について悩んでいた。久美子は音大に行くと思っていたから、この伏線が12話で効いてくることになると思わなかったのだ。これは、1期の久美子の印象が拭えなかったせいだと思う。

 久美子は成長した。結果、久美子は音大へ行かない選択をして、全国大会のソリストには真由ちゃんが選ばれた。この二人に大きな差はなかった。それはきっと本当なのだと思う。久美子はそれを受け入れ、その上で悔しいと泣いた。私もその姿を見て、泣いた。決してそれは「読者を泣かせるためのシーン」ではなかった。「久美子の成長を表すシーン」として、とても重要なシーンなのだと思った。泣かせたいという意図はあったとしても。

 私は物語の本質を見誤った。響け!ユーフォニアムの軸は、「音楽に人生を捧げる少女の話」ではなく、「音楽を通して成長する少女の話」だった。物語の本質を読者に理解させる力を持つ表現物、その力は計り知れない。

 物語の中で、久美子は麗奈のことを「変わらない」と言った。でも実際、「変わらない」ことなんて無理なんじゃないかと思う。きっと麗奈は麗奈の中でたくさんの死があって、今までもこれからもずっとそうやって生きていく。その生き様が、外側から見ると「変わらない」んだろう。

 では久美子はどうか? 1期の最初ではなんとなく流されるまま生きてきて、麗奈のような軸はないように見える。その中でもその時その時で正しいと思うことを選び、信じ、行動する。時には感情に流され、麗奈とぶつかる。他の人との関わりの中で自分自身に問い、パラダイムシフトしていく。感情の渦で自分を保つ、人生に立ち向かう原動力として、音楽がある。
 これはきっと、麗奈も同じなのだと思う。

 しかし、物語の主人公は久美子でなくてはいけなかった。麗奈は主人公として読者の共感を集めるには、あまりに特別過ぎる。

 トランペット奏者の娘として生まれ、トランペット奏者になるべく育てられ、奏者になることを夢見る麗奈。こんな人は、世の中にそう多くはない。最初は脚光を浴びる一部のスターを夢見ていた少女たちも、現実を知り、だんだんと地に足をつけた夢を見つけていく。麗奈はあんまりにも真っすぐすぎる少女のレプリカだ。対する久美子は、少女に憧れ、少女を卒業した。これは、「私、音大に行かない」「じゃあもう久美子と会うのはやめる」というシーンに、如実に現れていると思う。

 少女を卒業することは老いることではない。少女を卒業しないことが幼稚なのではない。卒業したとて、少女性を完全に失うことはできない。ただ、その揺らぎの中にいる少女たちは、どうしようもなく美しい。私の描きたいもののすべてが、そこにあった。


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