ヨガインストラクターの在り方
生徒さんの成長速度を急かし過ぎない
生徒さんの中には、基本を簡単に身につけて実行できる人もいますが、多くの人は何度も何度も練習しなければなりません。実際、私たち講師も、その何度も練習するべき練習生の一人だと自分たちのことを認識しています。
生徒さんが理解を深め、心と体のつながりを強化し始めると、あるポーズで基本を応用できるようになりますが、必ずしも別のポーズで応用できるとは限りません。
先生が求めていることを理解し、繊細な合図を体現できるようになり、より深いヨガの練習の意識を持つようになるには、時間と忍耐が必要です。
しかし、生徒さんがこれらの基本的なことを少なくともいくつか理解してクラスを終えられれば、私たちは生徒さんがより健康的な道を歩む手助けができたと一先ず信じて良いでしょう。
私たちは、インストラクションとさまざまなプロップスを使って、これらの基本を教えています。
noteでも基本的な動きの1つを詳細に説明し、インストラクションのアイデア、シークエンスの提案、ステップバイステップの練習方法などを紹介していきます。
練習方法の紹介は、インストラクターがさまざまなインストラクションを試してみて、何かを発見するためのものです。
また、これらの練習方法は、暗記したり、生徒さんに繰り返し教えたりするためのものではありません。
ほとんどの生徒さんは、一度に処理できるのは各姿勢(ポーズ)に対する3~4つの言葉の合図だけというのが普通の感覚です。
生徒さんはしばらく合図を聞いていると、(例えそうでなくても)その意味を知っていると判断し、聞くのをやめてしまいます。
ですから、効果的な指導を行うためには、合図を変えたり、順序を変えたりして、生徒さんの注意を引きつけなければなりません。
逆に自分が生徒の立場になる場合に「それは知ってる」とすぐ頭の中で処理するのが癖になっている方は、指導内容やその先にあるものを享受できていない可能性も高くなります。
ヨガを練習する上で「できている」「知っている」という感覚を得たときほど、よくよく自分を振り返らなくてはなりません。
良いヨガ指導=上手なフィジカルアジャストメント(身体的調整)ではない
私たちが言葉によるインストラクション(合図や指導)を重視しているのは、意図的なものです。
ヨガ指導では何年もの間、ヨガ指導者養成講座の中心は身体的な調整であり、たくさん触れて調整することが偉大なヨガ指導者になるための尺度であると考えられてきました。
何年も前に一般的なフィジカルアジャストメントを学んだ後、生徒さんの中にはフィジカルアジャストメントを受けることを不快に思う人がいること、また、逆にフィジカルアジャストメントを受けることに過度に興味を持つ人がいて、境界線の問題があることに気づきました。
最も重要なことは、フィジカルアジャストメントが必ずしも生徒さんのポーズを良くする助けにはならないということでした。
効果的な指導のできる指導者になるためには、物理的な調整に頼るだけでなく、言語的、視覚的なインストラクションやデモンストレーションといったツールを使って、より多くの選択肢を持つこと、タイミングによっては教えない(あるいはフィジカルアジャストメントを行わない)という選択肢を持ち合わせることが必要です。
私たちの指導技術が成長し、発展していけば、生徒さんは私たちに頼らなくても自分でヨガの練習時間や空間を作る方法をより早く学ぶことができるでしょう。
優れたヨガインストラクターとは、練習を通して生徒さんが自分の人生を少しでも良くしていけるように導くことなのです。
生徒さんがポーズに対して「できた!」と喜び、自己肯定感を高めることができるのはとても良いことで、特にキッズヨガや初心者の生徒さんのクラスでは必要な感覚です。
しかし、「できるようにさせられる自分=有能なインストラクター」という勘違いが起こっているとすれば、自分自身のヨガへの姿勢を見直すべきタイミングなのかもしれません。
「指導が上手だから」「難しいポーズができるから」「ビジュアルが秀でているから」「誰かの役に立っているから」などの理由があって自分の存在価値が高まると思っているとしたら、いつまでもそうしなければという意識に苦しむことになるでしょう。
呼吸との再会
多くのヨガ指導者がそうであるように、自分の呼吸を再発見し、瞑想を学ぶことは、自分の中での目覚め、気づき、内的変化をもたらしました。
この経験は、私たちがヨガを教えることに興味を持つ大きなきっかけとなりました。
まず最初に、自分たちが発見したことを他の人と共有したいと思っていました。
現在、ヨガインストラクター養成講座の講師として、ヨガの先生になりたいという生徒さんたちの話をよく聞きますが、皆、同じような話をします。
講座ではとても大人しく静かに過ごしていた生徒さんであっても、授業が終わり解放された後で、なんとなく安心した様子で、本当に話したかった内容を伝えてくださることが少なくありません。
何らかの体験を言葉にしようとしますが、それをどう説明していいのかわからないということもよくあることです。
しかし、簡単に表現できるのは、ヨガによって人生がより良くなったということであり、それを伝えることで他の人を助けたい、サポートになれば嬉しいということなのです。
私たちの多くは、呼吸のリズムやそれに伴う感覚や感情とつながることで、気づきの基礎を築き、しばしば言葉にしづらい体験につながることがあります。
そのような経験を共有したい、他の人にも同じく見つけてもらいたいと強く思うのです。
それが、困難にもかかわらず、私たちがヨガを教え続けようとする理由なのです。
しかし、私たちにはそれを一瞬でうまく説明することができませんし、ティーチャートレーニングについての問い合わせのメールや電話をしてくる方たち、講座を受講中の生徒さんも同じなのではないかと思います。
ヨガアートの種
以前私たちがヨガトレーニングを受けたときに、先生からの問いかけに答える機会がありました。
実はどのような質問内容だったかということも確かなことは忘れてしまったのですが、哲学講義の意見交換の日「ヨガのゴールとは」という話の途中でした。
クラスメイトによると、このように私たちは発言していました。
共感してくれたクラスメイトがたまたま授業の時に録音してくれていて、授業後に改めて気持ちを伝えてくれたため、私たちの心にも強く残る瞬間になったのです。
今、思えば自分たちの軸となるような話をしているにも関わらず本人たちはそのことに明確には気づくことができていませんでした。
こういった経験から、私たちは講師や生徒さんとお話しする際に、お相手が話す言葉やストーリーに敏感に聞き入って、ご本人も気づいていないような「宝物となる言葉」が生まれてこないか、聞き逃さないように集中しています。
話を戻しますが、ここから、私たちは現在エクロールヨガでの指導の主軸となる「ヨガアート®」のベースとなるもの、言わば「ヨガアートの種」を手にし、ヨガの世界の説明できないとされていることを出来る限り「言語化・視覚化」していく研究が始まったのです。
ヨガのポーズという表現方法以外にも、インストラクションや会話の中の言葉、絵画、音楽、写真、料理、書道、フラワーアレンジメント、最近感動したアートの中ではキャンドルなども人の作るアートとして影響を受けた美しい対象です。
ヨガ指導者は先生というよりガイド
私たちは、何年も指導者養成コースを行う中で、ようやく、呼吸から享受できる経験は人に自然に起こるものだと思うようになりました。
コントロールしたり、強制したりできるものではありません。
先生として私たちができるのは、ある種の経験が起こるかもしれない安全な空間と状況を作り出すことだけです。
私たちヨガ指導者というのはこの変化の実行者でもなければ、その功績を称えられるような立場でもありません。
プラーナーヤーマと呼ばれる呼吸法を生徒さんたちに教えるとき、私たちは呼吸について教えようとしていますが、自分たちは先生というよりもガイドだと思っています。
良いガイドは、以前にそこに行ったことがあるので、道を知っています。
あまり多くを語らず、時折立ち止まって指摘してくれます。
ツアーに参加している人たちは、数分間立ち止まって話を聞き、その後は自分の体験をしていきます。
ガイドは、この美しい場所を作ったわけではないし、参加者がどれだけ素晴らしいツアーを体験するかをコントロールすることはできないのです。
ある人はこのツアーを5つ星と評価し、ある人は1つ星と評価し、またある人はなぜ行ったのかさえ分からないというでしょう。
もし生徒さんが私たちのヨガガイドツアーで1つだけ学ぶとしたら、呼吸から気が付く意識を学ぶことが最も重要です。
私たちが一日中何をしていても、呼吸は動き続けています。それは、人生の困難に直面したときに、私たちが頼りにするものです。
その動きの繊細なエネルギーは、私たちに安らぎと、一人ではないという感覚をもたらしてくれるのです。